第3話 お互いの確認

「呪い・・・・・・やはり、そうなのか」


「自覚はあったのか・・・・・・というか、そうか。クラウは死んだんだね」


 シュクの言葉に、クラウは言葉を探すようにいう。


「目の前で自分の体が動いていて、それを見ているのに死んだ、という認識は難しいけどな」


「何があったのか話してくれる?」


「・・・・・・つい先ほど、一匹の蛇が俺の指先を噛んだのだ。それから、瞬く間に全身を痛みが襲ってな。動けなくなり、倒れたのだ」


「蛇・・・・・・その蛇は?」


「逃げた。あまり大きな蛇ではなかったからな。とはいえ、通常ならばこの小屋に潜り込んで、逃げ出せるような大きさでもないが・・・・・・」


 クラウの視線の先を追うと、窓が少しだけ開いていた。


「あれはクラウが開けたの?」


「いいや、蛇が開けた。鍵を外されていてな、蛇が押しただけで簡単に開くようになっていた」


「その蛇はどこにいたの?」


「・・・・・・水差しに隠れていた」


 シュクはベッドの横に置いてある水差しを調べる。


 特に仕掛けはないが、この水差しに隠れていたということは、本当に小さな蛇だったのだろう。


「『コドク』か」


「・・・・・・それは、否定しないが、改めて言われるとな」


 クラウの声が、少し落ち込んでいる。


「ん? あ、違う違う。ロンリーの『孤独』じゃなくて、呪いの『蠱毒』の方ね。そんな使い古された勘違いはしなくていいから」


「・・・・・・それは失礼した。しかし、その、有名な呪いなのか、『コドク』とやらは」


「そうだね。強力な呪いの中では知られている呪いだと思うよ。内容は、ざっくりいうと、壺の中に虫とか蛇とかの毒がある生き物を閉じ込めて、殺し合いをさせる。そして、一匹の強力な生き物『神霊』を作り出すの。その神霊の毒を使って相手を殺すっていう」


「そんな、恐ろしい呪いがあるのか」


 クラウの声には、はっきりとした嫌悪感が込められていた。


「・・・・・・というか、元々は古代中国が発祥の呪いだったはずだけど・・・・・・聞いたことがないの?」


「知らない。そもそも、その中国?という国は、どこにあるのだ?」


「・・・・・・漢も知らない? 秦は?」


「聞いたことがないな、どこだ?」


 クラウの言葉に、嘘偽りはない。


(ふーん。建物や服は明らかに中華系なのに、中国を知らない、か。どうやら、ここは異世界みたいだね。まぁ、聞いたこともない国の王子様が、タヌキになっていた時点で、ほぼ確定だったけど。けど、まだ違和感があるなぁ)


 シュクは、部屋の中を見回す。


(でも、先にこっちか。建物の造りと、衣服、立場を考えると、異様にモノが少ないし、古い)


 部屋にあるのは、寝台と水差しが置ける程度の机が一つ。


 どれもがボロボロに、傷んでいた。


(・・・・・・アレは置いてなさそうかな。いざという時のために、確保しておきたかったけど、しょうがない)


 シュクは、クラウと会話を続けることにする。


「で、さっき自分はロンリーって言っていたけど、それはどういう意味? 普通、王子様なら誰かはいるでしょ? お世話をする人とか」


「・・・・・・今は、いない。俺は、そうではないのだ」


 クラウは答えたあと、何か重たいものを下ろすように息を吐いた。


「まだ聞きたいことはあるのだろうが、そろそろ、こちらからも聞きたい。『ホコラコワシ』のシュクと名乗っていたが、『ホコラコワシ』とは、氏だろうか。聞いたことがない言葉なのだが」


「『祠壊師』は、職業の名前だよ。私は、『祠』を壊すのが仕事でね。今ここにこうしているのも、多分その仕事の影響だよ」


「『祠』とは、その、神々などを祀っている『祠』でいいのだろうか?」


「そうだよー」


 シュクの回答に、クラウは不可解なことを整理するように、ゆっくりと言葉をしぼりだした。


「あー・・・・・・んー・・・・・・その、なんで、そのようなことを?」


「趣味」


 シュクの答えに、シュクは目を閉じ、かっと開く。


「・・・・・・そんな趣味があるか!! 職業もない!! 『祠』を壊すなど、ただの罰当たりではないか!!」


「まぁまぁ、落ち着いて。一応『祠壊師』はちゃんとした仕事でね・・・・・・壊さないといけない『祠』っていうのが・・・・・・」


 クラウを落ち着かせていたシュクだが、何かに気がつき、その動きを止める。


「・・・・・・これから、人と会う予定は?」


「ない」


 シュクは、部屋を再度見回す。


(・・・・・・やっぱり、無いよね。さっきの話を考えると不思議じゃないけど)


「確認だけど、クラウは虐げられている王子様ってことでOK?」


「・・・・・・そうだ」


「じゃあ、貧乏ってことだよね」


「・・・・・・そうだよ!」


 苛立つクラウを、シュクは拾い上げた。


「ゴメンゴメン。でも確認しておかないと・・・・・・」


 そのまま、シュクは走り出し、扉を蹴り開ける。


「・・・・・・んな!?」


 すると、外には数人の兵士のような格好をした者たちがいた。


 クラウを狙った賊だろう。


「逃げられないでしょ」


 困惑している賊の間を抜けるように、シュクはその場を走り去った。

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