第42話 鍛冶はじめ
統率スキルの効果が確認できたので、俺たちはますます仕事に励んだ。
「なあ、ユウ様よ。たまにはあたしもダンジョンに連れて行ってくれよ」
女戦士のルクレツィアがそう言うので、自宅の警備をクマ吾郎と交代してダンジョンに行ってみた。
「ヒャッハァ! 死ね、死ねー!」
ルクレツィアはぱっと見、美人なんだけど。
戦い方はバーサーカーだった。
「ちょ、ルクレツィア、ストップ! 一人で突っ込んだら危ないだろうが」
「ユウ様のサポートが届く範囲までしか、行ってないぜ?」
しかも野生の勘が鋭いバーサーカーである。
彼女の戦士としての腕前の割に、奴隷の値段が安いのはなんとなく察した。
狂犬すぎて御するのが大変だったんだろう。
ボスを見つけて単身で突っ込んでいったときは肝が冷えた。
しかも瀕死になるまでダメージを受け続けて、後一撃で死んでしまう! となってから回復ポーションを飲むのだ。
いくらレナのポーションが効果抜群だと言っても、これはない。
「お前、ほんっとーにやめろよ! そんな戦い方してたら、いつか死ぬぞ!」
「いいじゃん。戦士は戦いで死んでなんぼよ」
ケロッとした口調で言うので、俺は怒りを覚えた。
「いいわけあるか! 俺は誰にも死んでほしくないんだよ。俺自身、今まで必死で生きてきた。生きたくても生きられない人の気持ち、考えたことあるか!?」
この世界で目を覚ましてから、理不尽な死者は何人も見てきた。
あんなふうに死にたくない一念で俺はここまで来たんだ。
ルクレツィアは気圧された様子で口ごもる。
「え、あの……?」
「お前が死んだら、家のみんなが悲しむと分かって言ってんのか? エミルは泣いて夜寝られなくなるぞ。他の大人だってどれだけ落ち込むことか。それ分かった上で言ってんのか!?」
「……悪かったよ」
ルクレツィアはうつむいて、ぼそりと言った。
それ以来彼女は、少しだけ自重してくれるようになった。あくまで少しだけな。
ついでにこのときをきっかけに、ルクレツィアの成長率がぐんと上がった。
たぶん統率スキルの忠誠心がアップしたんだと思う。
家に帰ってから、エリーゼにこの話をした。
「別に忠誠心がどうとかで説得したわけじゃないんだ。今思えばクサかったと反省している」
「ご主人様が本気で言ったから、ルクレツィアさんにも伝わったんですよ」
エリーゼは柔らかく微笑んでいる。
「そうかねえ。まあ、誰にも死んでほしくないのは本音だよ。なるべく楽しく暮らしてほしいのもな。……仕事をサボるのは駄目だが」
「ふふっ」
メイド姿で笑うエリーゼはとても可愛らしい。クマ吾郎と並ぶ俺の癒やしだ。
で、ルクレツィアが自重を覚えてくれたので、ときどきクマ吾郎と交代でダンジョンに行くことにした。
戦闘職は実践経験を積むのが何より大事だからな。
家にいるときの彼女は畑仕事をメインにやっていて、やはりバーサーカーみたいな勢いで畑を耕している。
「なあユウ様、聞いてくれよ。ついにあたしも農業スキルを覚えたんだ! イザクのおかげさ」
ステータスを確認すれば、確かに農業スキルが0.1になっていた。
たとえ低レベルでも一度スキルを身につければ、伸ばすのは比較的簡単だからな。
「そいつに農業を教えるのは、苦労した。何でもすぐ力でねじ伏せようとする」
農業の師匠であるイザクが苦笑していた。
バーサーカーに農業を教えたのだから、彼も大したものだと思う。
そうしているうちに季節は巡り、三度目の春がやってくる。
俺は記憶喪失で誕生日を覚えていないので、難破船から放り出されて洞窟で目覚めた日を誕生日代わりにしている。
だからその日、俺は十七歳になった。
家の皆が盛大に祝ってくれて、ちょっと照れくさかった。
レナとバドじいさんの生産品はますます品質が上がって、店の売上は絶好調。
ひっきりなしにお客が来るものだから、店の拡張を決意した。
ついでにいよいよ、俺も鍛冶スキルの練習を始めよう。
王都の大工に出張を頼んで、店舗スペースを広げてもらった。
さらに家の横に鍛冶場を作る。
これで準備は整った。
ダンジョン攻略と素材採集はルクレツィアとクマ吾郎に任せる。
ルクレツィアは突撃癖がまだ抜けきっていないが、クマ吾郎がいれば安心だ。あいつは頼れる熊だからな。
「いいか、二人とも。くれぐれも『命大事に』だ」
「へいへい。分かってるよ」
「ガウー!」
そうして俺は鍛冶に取り掛かる。
最初は扱いやすい青銅なんかを叩いて、そのうち鉄に。
鉄と鋼をしっかり覚えたら、次は魔法銀やアダマンタイトなどの魔法金属だ。
少しずつ腕が上がっていくのを実感すると、やる気が出る。
「おっ。いいのが打てた」
基本の鋼鉄のおさらいをしていると、特殊効果がついた武器が完成した。
たまにこうして会心の出来になる。
今回の特殊効果は回避スキルボーナス。近接して戦う戦士に良いスキルだ。
これは俺が自分で使うとしよう。
最近は鍛冶メインで家にいる時間が長いが、週イチくらいでダンジョンに行っている。
実戦の感覚を忘れないためだ。
どうせだから仲間たちの武具も俺が作ってやろう。
ルクレツィアの獲物は斧。
クマ吾郎は格闘用の爪だ。
クマ吾郎は熊なので、今までちょうどいい武具がなかなか手に入れられなかった。
武器も防具も俺が張り切って作るとしよう。腕が鳴るな。
そうして俺は、春と夏の季節を鍛冶に打ち込んだ。
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