第40話 お店
店を出す場所はもう決めてある。
王都パルティアから街道を東に二日程度進んだ場所だ。
王都が近いせいで人の往来が活発。
加えて、その周辺はダンジョンがよく出現する。
なので冒険者の客がやって来ると見込めた。
俺が作りたいのはダンジョン攻略に役立つアイテムや武具だ。
生産スキルの練習がてら余ったものを売るには、冒険者相手が一番いい。
中級以上の冒険者はそれなりにお金を持っている。金払いのいい客になってくれるだろう。
「よし。建物はこんなもんだな」
夏の青空の下、できたての小屋の前で俺は腕組みをする。
王都の大工に頼んで建ててもらった家だ。
ほとんど小屋レベルの小ささだが、街道に面した部分が店になっている造り。
ついに俺も家持ちになった。小さいながら我が家だ!
家はリビング・ダイニングの他にベッドルームが一部屋、それに店のスペースしかない。
狭いのでベッドルームに三段ベッドを設置してみた。
はみ出た人はリビングで寝てもらおう。
男女の過ちとかは、まあ、奴隷契約があるので起こらんだろ。
狭すぎると文句を言われるかと思ったが、この小さな家は好評だった。
「わたしたちのお家ができるなんて、素敵です!」
エリーゼが言えば、
「いい家だ。雨風がしのげて、雨漏りもしない」
農業スキルのイザクが続ける。
「わたくしどもにはもったいないですよ」
「ここに住むの? 怖い人、来ない?」
錬金スキルのレナと少年のエミルも口々に言った。
「ベッドで寝られるだけ、老骨には大助かりじゃのー」
宝石加工のバドじいさんは、お気楽な口調である。
「ガウ!」
最後にクマ吾郎が楽しげに鳴けば、みんなが笑った。
俺は声を張り上げる。
「みんな、これから改めてよろしく頼む。しっかり働いてしっかり稼いでいこう。頑張りには報いるつもりだ」
「はい!」
それから各自の仕事分担を決めた。
家の裏手は平地になっている。
農業スキル持ちのイザクはそこを耕して畑にしてもらう。
今すぐは無理でも、今年の後半や来年に収穫ができればいいと思う。
子供のエミルは畑の手伝いだな。
他の生産スキルの奴隷たちはどんどん腕を磨いてもらう。
今までのダンジョン攻略で集めた素材がすでに溜まっている。
素材は家の横の物置に入れた。
それらを使ってアイテムを作ってもらうつもりだ。
エリーゼは裁縫スキルを高めながら、奴隷たちの仕事の管理をしてもらうことにした。
彼女はコミュニケーション力が高くて、奴隷たちから信頼されている。
俺のスケジュール管理をしてくれていたので、そっち系の仕事も得意なのだ。
店の販売や帳簿付けも彼女が中心になって進める。
メイド姿で有能に働くエリーゼは、本当に素晴らしい。メイド万歳。
あとは食材の買い出しや料理、その他の家事などは手分けしてやってもらうことで話がついた。
俺とクマ吾郎は今まで通りダンジョンの攻略に精を出す。
これまでは金策メインだったが、これからは素材採集をもっと積極的にやるつもりだ。
鍛冶スキルは習得したものの、実際に手を出すのはもう少し先になる。
というのも、鍛冶はハンマーやら金床やら溶鉱炉やら、設備が必要になるからだ。
今の家じゃ狭くて置き場がない。
いずれ鍛冶場を作らないといけないな。
そうして回り始めた新しい生活は、順調なスタートを切った。
俺とクマ吾郎がダンジョンで採集してきた素材は、レナが錬金術でポーションに、バドじいさんが宝石加工で護符やアクセサリーにしてくれる。
どちらもまだそんなに品質は高くない。
が、冒険者が多く行き来する場所に店を出したのが当たりだった。
ダンジョン攻略の前後に立ち寄る冒険者が予想以上に多くて、ポーション類はいつも売り切れ。
護符とアクセサリーも上々の売上を記録している。
護符とかアクセサリーは魔法の力を込めて作るんだが、壊れやすい。半消耗品なのだ。
作れば作るほど売れるとあって、レナとバドじいさんのやる気がアップした。
毎日たくさんの生産をこなして、腕もぐんぐん上がっている。
そんなある日、俺がダンジョンから帰るとエリーゼが話しかけてきた。
「ご主人様。盗賊ギルドのバルトさんから手紙が届いています」
「バルトから?」
久々に聞いた名前に首をかしげながら、手紙を開いた。
『親愛なるユウへ。
きみが店を持ったこと、たいそう繁盛している話を聞いたよ。
もうならず者の町に戻る気はないのかな。
盗賊ギルドの宝石納入のノルマが滞っていて、このままじゃ追放扱いになってしまうから、心配になって手紙を出した。
もし盗賊ギルドに席を残す気であれば、小包でいいからノルマを納めるように。
優しい先輩のバルトより。
追伸。店の警備はしっかりやったほうがいいよ。
人里離れた場所の戦闘員がいない金庫なんて、狙ってくれと言っているようなものだから』
「内容はいかがでした?」
エリーゼが心配そうにしているので、俺は笑ってみせた。
「盗賊ギルドのノルマの確認だったよ。小包で宝石を送れってさ。手配してくれるか?」
「はい、ただちに」
エリーゼはメイドスカートのすそをひるがえして準備に行った。
宝石類はバドじいさんの宝石加工スキルでよく使うので、それなりの数をストックしている。
滞納してしまったノルマ分を納入しても特に問題ない。
それよりも気になったのは追伸の部分だ。
確かにこの家の奴隷は戦える人が少ない。
エリーゼが弓を、イザクが斧をちょっと使える程度だ。
俺とクマ吾郎の留守中に、強盗に襲われたらかなり危ない。
この店も徐々に有名になって、客足が増えたからな。
バルトの言い草はいやみったらしいが、助言は適切だった。感謝しておこう。
そうして俺は再び王都の奴隷市場に行って、女戦士奴隷のルクレツィアを買ってきたのだった。
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