第39話 新しい仲間

 紹介された奴隷は確かに生産スキルを持っていた。

 いつぞやのならず者の町の奴隷商人よりも優秀だな。あいつ話聞いてなかったからな。


「エリーゼ。どの人がいいと思う?」


 エリーゼに聞くと、その場にいた全員が意外そうな顔をした。

 え、なに?


「お客様はわざわざ奴隷に意見を聞くのですか。これはお優しい」


 奴隷商人が嫌味な口調で言う。

 そういうことかよ。俺は言い返した。


「これから買う奴隷は彼女の仕事仲間になるんだ。相性も大事だろ」


 本当は奴隷だって人間だと言いたかったが、日本の感覚を振りかざしても仕方ない。

 奴隷商人は肩をすくめた。とりあえず納得したようだった。


 改めて並んでいる奴隷たちを見る。年齢も性別もさまざまで、人種がちょっと違う感じの人もまじっている。

 所有スキルは錬金術、裁縫、宝石加工、杖製作に魔法書製作、巻物製作。


「鍛冶スキル持ちはいないのか?」


 俺が聞くと、奴隷商人はうなずいた。


「鍛冶スキルは生産の中でも難易度が高いですから。きちんと修めているものは数が少ないです。その分お高くなりますよ」


 となると、鍛冶は俺自身が練習するのもアリだな。


「うん?」


 俺は奴隷の経歴書の中で、一人の男性に目をとめた。

 年齢は二十七歳。

 巻物製作をごく低いレベルで持っている他に、「農業」スキルがそこそこのレベルになっている。

 農業は文字通り畑で作物を育てるためのスキルだ。

 生産のかたわら食料自給をかねて、農業やってもらうのもいいんじゃないか?


「まずはこの人にする」


 俺が指をさすと奴隷商人は顔をしかめた。


「そいつですか? 農業スキル持ちの奴隷は農奴として人気なんですがね。そいつは魔法契約で縛っても反抗的で、あまりおすすめできませんよ」


 その奴隷を見てみると、浅黒い肌に大柄な体をしていた。骨太な体格だが今は痩せてしまっている。

 パルティア人とちょっと毛色の違う感じがする。経歴書には「ササナ人」とある。

 ササナ国は確か、パルティアの南にある小国だったな。


「反抗的でも別にいいよ。仕事だけきちんとやってもらえれば、文句はない」


 俺が言うと、ササナ人奴隷はちょっと目を見開いた。

 彼をキープしてもらって、次の人の吟味に入る。


 生産スキルはたくさんがあるが、特に欲しいのは鍛冶と錬金術、宝石加工だ。

 鍛冶は武具を作るスキル。

 良い武具はダンジョン攻略の要だからな。

 で、錬金術はポーションを作るスキル。

 混乱やマヒのデバフ系ポーション、それに回復系のポーションはダンジョン攻略に必須である。


 宝石加工は護符やアクセサリーを作る。これも武具に準じる装備品だ。

 しかも壊れやすいので半消耗品でもある。しっかり確保したい。


 次点で魔法書製作。

 魔法書は魔法屋で買うかダンジョンで拾うかしか入手経路がない。

 で、魔法屋の品揃えもそのときによってまちまちなのだ。

 安定してよく使う魔法の魔法書が手に入るなら助かる。


 逆にあまりいらないのは杖製作と巻物製作。

 杖と巻物は俺の戦闘スタイルじゃあまり使わない。

 それこそ、町の店で買えば足りる程度だ。


 俺は経歴書を見て、錬金術スキルを持っている女性に注目した。

 パルティア人で年齢は三十歳。ちょいと年上だが、働くには問題ないだろう。

 この人は低レベルながら料理スキルを持っている。

 拠点に帰ったら手作り料理が食べられるなんて、いいじゃないか。


「この人にする」


「分かりました」


 今度は奴隷商人は余計なことを言わずうなずいた。

 さらに宝石加工スキル。

 このスキル持ちは一人だけで、パルティア人の六十三歳のじいさんだった。

 年を取っている分、スキルのレベルはやや高めだ。


「この三人にする」


「そうですか! 三人も買っていただいて、感謝でございます。ところで今ならおまけで子供をつけますが、どうですか?」


 奴隷商人は小さい子供を引っ張ってきた。

 まだ十歳にもならない少年である。やせっぽっちでおびえた暗い目をしていた。


「これといったスキルは何も持っていませんが、雑用くらいならできます。どうぞこき使ってやってください。今なら銀貨五枚ですよ」


 おまけと言いながらしっかりお金を取る気でいやがる。

 普通の成人奴隷の相場が金貨一枚から二枚なので、子どもの奴隷が銀貨五枚(金貨半分)なのは高くも安くもないと思う。

 こいつ、お得感を装って売りつける気だな。


 断ろうと思ったが、子供と目が合ってしまった。

 年齢にそぐわない全てを諦めきったような目。ろくに食事をもらっていないと分かる、ガリガリの体。

 金髪だと思うんだが、薄汚れてぱさぱさなのでよく分からない有り様だった。


 今日買った三人の奴隷は、拠点で生産しながら店番をしてもらう予定だ。

 ダンジョンに連れて行くつもりはないので、危険はない。

 それなら――


「分かった。その子も買うよ」


「毎度あり!」


 奴隷商人のホクホクした顔がムカつくが、俺は黙って代金を支払った。

 四人合わせて金貨六枚なり。

 全財産の金貨二十二枚から出して、残りは十六枚。まだ大丈夫。


 魔法契約で俺を主人に設定する。

 農業スキル持ちのササナ人はイザク。

 錬金術スキルの女性はレナ。

 宝石加工のじいさんはバド。

 少年はエミルという名前だった。


「みんな、これからよろしくな」


 声をかけても反応が鈍い。

 エリーゼがとりなすように言った。


「皆さん、ご主人様は優しい方です。どうか安心して仕事に励んでくださいね」


 同じ奴隷のエリーゼの言葉は、少しは響いたようだ。

 彼らはもそもそと挨拶をしてくれた。


「反抗的な態度を取ったら、容赦なく鞭打ちをおすすめします。鞭も売っていますよ。銀貨二枚」


 奴隷商人がそんなことを言っているが、無視だ無視。

 俺は奴隷たちを引き連れて、市場を出た。







 夜になるまでまだ間があったので、服屋に行って奴隷たちの服を買った。

 奴隷制は嫌いだが、必要以上に甘やかすつもりはない。

 これからしっかり働いてもらわないとな。

 でも、不潔でボロボロの服は良くないだろ。

 一年前までボロばっかり着ていた俺が言うんだ、間違いない。


 次に宿屋の部屋を取った。

 そこで桶と湯を借りて、それぞれ体を洗わせた。不潔は病気の元だからな。


 さっぱりした奴隷たちに新しい服を着せる。

 これで見た目は小市民と変わらなくなった。


 次に飯を食わせる。

 安宿の食堂なので味は大して良くない。

 が、みんな目を輝かせて食べていた。


「あんまり急いで食うなよ。胃がびっくりするぞ」


 今までろくに栄養が取れていなかったところに急にたくさん食べると、かえって体に良くなかったはず。

 食事のペースを落とされて奴隷たちは不満そうだ。

 エリーゼが口を挟む。


「わたしも最初はそうでした。ゆっくり食べて、ゆっくり体を回復させましょう。これからはいつだって、お腹いっぱい食べられますよ」


「……はい」


 エリーゼ有能!

 彼女の言葉に奴隷たちは納得したようだった。エリーゼがいてくれてよかったわ。


 満腹になった奴隷たちを宿の部屋に入れた。

 残念ながら普通の部屋ではなく、奴隷部屋だ。家畜小屋よりちょっとマシな程度である。

 でもクマ吾郎は家畜小屋なんだよなあ。

 逆に俺だけいい部屋で落ち着かない。まぁ仕方ない。


 こうして俺の生産強化計画はスタートした。

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