第三章 最強への道

第33話 はじめての奴隷

 俺にまともな冒険者としての生活が戻ってきた。

 もう衛兵に追われることはない。

 ならず者の町ディソラム以外でも、住民に嫌な顔をされない。

 今後はしっかりカルマを管理して、犯罪者にならないよう気をつけないとな。

 特に税金関係はコリゴリだ。


 だが、俺はどうも性格的にうっかり屋なところがある。

 一人で完璧に管理できるか心配だったので、人を雇うことにした。

 クマ吾郎は頼りになる熊だが、やっぱり熊だからなあ。

 雇い人に税金やその他のスケジュール管理を頼んで、ダブルチェック体制にすればミスは減るだろう。


 できれば事務能力だけでなく、戦闘もある程度こなせる人がいい。

 なにせ俺の本業は冒険者。稼ぎ場はダンジョン。

 危険はつきものだからな。


 人を雇うアテがなかったので、盗賊ギルドでバルトに相談してみた。


「雇い人はどこへ行けば雇えるだろう?」


「奴隷を買えばいいんじゃない?」


 あっさり言われて、俺は眉をしかめる。


「奴隷って。俺、ああいうの嫌いなんだけど」


「ユウは好みがウルサイよね。奴隷は嫌、犯罪者も嫌」


 バルトはニヤニヤしている。

 そんなもん嫌に決まってるだろうが。


「でもね」


 と、バルトは続けた。


「奴隷も別に悪いものじゃないよ。この国は奴隷制が合法。買うのは何ら問題ない。非人道的な扱いが嫌だというなら、ユウが優しくしてやればいい」


「虐げるつもりはこれっぽっちもないが、やっぱり奴隷はなあ……」


「奴隷なら最初にお金を払って、あとは衣食住の面倒をみてやればいい。雇い人のほうが面倒だよ。毎月給金を払って、しかも裏切るかもしれない」


 奴隷であれば魔法契約を結ぶので、主人を裏切る心配がないのだという。

 いやなにその人権無視な契約。そういうのが嫌なんだが?


 まあでも、有り金盗んで逃走とか、ダンジョンで危機一髪の状況で俺を盾にして逃げるとか、そういうのがないのは助かるといえば助かる。

 それが信頼関係ではなく強制された契約というのがモニョるが……。


 その後もバルトは奴隷の良さを俺に説いた。

 で、俺は言いくるめられてしまった。


「分かった。奴隷にする。奴隷市場に行ってみるよ」


「そうこなくちゃ。付き合ってあげよう」


 そうして俺たちはディソラムの町の奴隷市場に向かった。







 奴隷市場はなかなか悲惨な場所だった。

 人々は狭苦しい檻に入れられ、鎖につながれている。

 売り物として引き出された人は、自分の名前と年齢が書かれた札を首から下げて、台の上に立っている。

 ここでは本当に人間が『商品』なのだ。


 彼らの年頃はさまざま。男性も女性も子供もいる。

 誰もが無気力な目をしていた。


「やあ、店主」


「これはバルト様」


 バルトと奴隷市場の店主は知り合いのようだ。店主は愛想よく笑っている。


「うちのギルド員が奴隷を買いたいんだって。希望は事務処理能力と戦闘能力の両方があるやつ。いいのがいるかな?」


「それでしたらこれはいかがでしょう」


 店主は鎖を引っ張って、奴隷を引き出してきた。

 かなりの大男だ。

 ムキムキの筋肉に油が塗られて、テカテカと光っている。


「元拳闘士で、戦闘能力は抜群です。頭を殴られすぎたせいか、少々物覚えが悪いですが」


 脳筋じゃん。

 事務処理できる人って言ったのに、聞いてなかったのか?


 俺が首を振ると、店主は次の奴隷を引っ張ってきた。


「これはおすすめです」


 まだ幼い少女だった。かわいそうに、おびえて震えている。


「このくらいの年齢から厳しくしつければ、何でも言うことを聞く奴隷になりますよ。それこそベッドの温め係でも」


「却下!」


 こんな子供を前にしてなんつーこと言うんだよ。

 正直言えばこの子を買って優しくしてあげたいが、ダンジョンに連れていけば危険が伴う。怪我や最悪のケースを考えるとやはり駄目だ。


 奴隷市場の店主は「やれやれ」とため息をついた。

 ため息つきたいのはこっちなんだわ。


「じゃあ、こいつでどうでしょう」


 引き出されたのは若い女性だった。年齢は十代半ばくらいか。

 赤毛に灰色の目をしていた。

 痩せていて髪にツヤもない。目が落ちくぼんでいる。


「可もなく不可もなくの奴隷です。力はそんなにありませんが、一応、読み書きができるのがウリです」


 ふーん。まあ、この世界の識字率はそこまで高くないからな。


「戦いの心得はあるかい?」


「……弓が少しだけ、扱えます」


 おお、いいじゃないか。

 前衛のクマ吾郎、中衛兼サポートの俺、後衛の彼女。


「この人にします」


「毎度あり。代金は金貨一枚ですよ」


 金貨一枚はそれなりに大金だが、人の命の対価としては安いよな……。

 俺は店主にお金を払って、奴隷契約を済ませた。

 契約書には名前が『エリーゼ』とある。

 でもここは、本人の口から聞いておかないとな。


「これからよろしく。俺はユウだ。きみの名前は?」


「エリーゼ……です」


 こうして俺は、奴隷の主となった。




・エリーゼのステータス


 名前:エリーゼ

 種族:パルティア人

 性別:女性

 年齢:15歳

 カルマ:0


 レベル:5

 腕力:3

 耐久:3

 敏捷:5

 器用:5

 知恵:3

 魔力:1

 魅力:3


 スキル

 弓術:1.4

 裁縫:0.8

 歌唱:1


 装備:

 木の弓

 丈夫な布の服

 丈夫な布のマント

 皮のブーツ


 奴隷に売られる前は開拓村で狩りの手伝いをしていたので、弓が少しだけ扱える。

 裁縫は生活の知恵レベル。

 歌を歌うのが趣味。


 装備はユウが買い与えた。店で売っているごく普通の装備。

 


ユウ「俺の初期ステよりよっぽど強いわ」

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