第32話 とりあえずの解決

本日2話目の投稿です。

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「――さて。ユウの用件は済んだが、そいつは?」


 ヴァリスが鋭い目でバルトを見た。

 バルトは気圧された様子もなく、丁寧に礼をする。


「申し遅れました。僕は盗賊ギルドのバルトと申します。ギルド後輩のユウの用事を助けるついでに、名高い白騎士ヴァリス様にお会いしようと思ってやって来た次第です」


「……目的は?」


 バルトは丁重な態度を崩さずに言った。


「特には。騎士中の騎士と名高いヴァリス様をこの目で間近に見られて、それだけで満足ですよ」


「よく言う」


 吐き捨てるように言われたセリフに、バルトはにっこり笑ってみせる。


「強いて言えば、僕らのことを知ってもらいたかった……というところですね。盗賊ギルドは誤解されやすいのですが、犯罪者集団ではありません。冒険者としての盗賊職を支援する、真っ当な面もあるんですよ」


「本当です。俺、盗賊ギルドに入ったおかげでかなり腕を上げました」


 俺は口を挟んでみた。

 盗賊ギルドに世話になっているのは事実だ。サポートくらいしないとな。

 ヴァリスは俺たちの言葉に首を振った。


「あくまで真っ当な『面もある』だけだろう」


「あはは、バレちゃいましたか」


 バルトはまったく悪びれない。


「じゃあ仮にですけど。裏社会としてのギルドと冒険者としてのギルドが分離したら、冒険者の部分は表舞台に立つのを許されるでしょうか?」


「……完全に分離したと証明できるのなら、検討の余地はある」


 ヴァリスの慎重な言葉にバルトは笑みを浮かべた。


「今の段階では、そのお言葉が聞けただけで満足ですよ」


「おいバルト、そんな計画があるのか?」


 俺は思わず口を出すが。


「さあ、どうだろうねえ。ただ、組織はいつだって柔軟に変わっていかないといけないから」


 軽くかわされてしまった。


「用件は済んだな」


 と、ヴァリス。


「すでに侵入者で騒ぎになっている。これ以上事を荒立てる前に、さっさと帰ってくれ。……ユウは明日、納税を忘れずにな」


「はい」


 俺がうなずくと、バルトも言った。


「ご心配なく。帰りは誰にも見つからず、きれいに撤退してみせますよ」


 それには俺がヘマしないよう頑張らないとな……。


 そして俺たちは塔を出る。

 慎重に進んで衛兵の目をごまかして、王城の壁を越えた。

 衛兵たちは侵入者が中にいると思い込んでいる。

 おかげで外に出ようとする俺たちの動きはノーチェック。幸運だったといえるだろう。

 無事に帰還できた。


「ただいま、クマ吾郎。待たせてごめんな」


「ガウガウ! ガウッ!」


「わ、ちょっと! 顔舐めるなよ!」


 町の外で待機していたクマ吾郎に、とても心配されてしまったのは言うまでもない。







 ――ユウとバルトが去った後、ヴァリスの執務室にて。


『おい。ヴァリス』


 ヴァリスしかいないはずの部屋で声がした。


『あのユウとかいう小僧、森の民だろう』


「ふむ。お前も気づいたか、ヨミよ」


 ヴァリスは壁に掛けられている剣を見た。


『見りゃ分かるだろ。奴らの魔力は独特だからな。まああいつは、森の民の中でもさらに変わり種のようだが』


 声は剣から発せられている。

 パルティア王国の国宝と名高い、生ける魔剣ヨミだった。

 ヨミは今代の主であるヴァリスにだけ聞こえる声で話し続ける。


『今からでも追いかけて、あいつぶった斬ってやろうぜ。あの変わった魔力、ぜひ啜ってみたいもんだ』


「冗談はよせ。脱税の罪を悔い改めた市民に、危害を加えるわけにいくか」


『本気なんだけどなあ。じゃあ斬らないなら、「封印」の確認をさせりゃあ良かったのに。森の民なら適任だろ』


「それも考えたが、盗賊ギルドがいたからな」


 ヴァリスは肩をすくめて、ヨミの鞘に軽く触れた。

 剣の柄に嵌っている宝石が淡く光る。


「次に会ったときにでも頼んでみるよ。彼はなかなか見どころのある若者だ」


『うっかり税金滞納するヤツがか?』


「そう言ってやるな。結果、王城へ忍び込んで私に会いに来るなど、大胆不敵な真似をしたのだから」


 ヨミはさもおかしそうに笑い声を上げた。

 ヴァリスはなだめるように鞘を叩く。

 それきり会話は止んで、執務室に静寂が戻った。







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これでこの章は終わりです。次章からはまた少しの変化が訪れる予定。

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