第23話 カルマとは

 鉱山町の事件が解決された。

 報奨金で懐が温まった俺は、ほくほくしながら冒険者ギルドに立ち寄っていた。

 また町から町を移動して、配達依頼をこなしてく予定だ。


「お。港町への配達依頼が出てる」


 かつて拠点にしていた港町カーティスだが、しばらく戻っていない。

 久しぶりに顔を出すのもいいだろう。

 そう考えた俺は配達のアイテムを受け取って、クマ吾郎といっしょに町を出発した。


 そうして二日ほど歩いたときのことである。


『警告! 警告! 請負中の依頼は、あと一日で期限を迎えます』


「え?」


 荷物袋からそんな音声が流れた。

 何事かと確かめてみると、声の発生源は冒険者ギルドの依頼票である。

 いやしかし、あと一日ってどういうことだ。

 鉱山町で引き受けた配達依頼は、十分に期限に余裕があるのに。


「あっ」


 そこで俺は気付いた。

 警告を発した依頼票は、王都パルティアで引き受けたものだということに。

 内容はボサボサ頭ことジェイクへの魔法書配達依頼。


「しまった、それどころじゃなかったから、配達品を渡すのをすっかり忘れていた」


 あと一日だって? もっと早く警告してくれよ。

 鉱山町を出てから二日歩いてしまったが、急いで夜通し走れば一日で何とか町まで戻れるかもしれない。


「あっ……」


 しかし俺はもっと悪いことに気づいた。

 配達品として預かったマジックアローの魔法書は、昨日勉強として読んでしまったのだ。

 あれが配達品だとすっかり忘れていて、普通に手持ちの魔法書と一緒に読んでしまった。

 魔法書は数回読めば魔力を失って崩れて消えてしまう。

 つまり悪意はなかったとはいえ、俺は配達品をネコババしたことになる!


「まじかよ。勘弁してくれよ」


 俺は頭を抱えた。

 クマ吾郎が心配そうに顔を舐めてくれる。

 彼女の鼻面をぽんぽん叩いて安心させてやってから、俺は考えた。


 このまま知らんぷりをして依頼をぶっちぎるか?

 ……それはまずいだろう。

 せっかく今までコツコツ信用を積み重ねてきたのに、自分からぶち壊してどうする。

 要はもう一度マジックアローの魔法書を調達してジェイクに渡してやればいいのだ。

 鉱山町に魔法屋はある。魔法書を買い直して届けてやろう。


「そうと決まれば、急いで戻らないと」


 俺は呟いて、来た道を急いで戻っていった。







 翌日の日没間際に、俺は鉱山町に戻ってきた。

 ギリギリセーフだ。

 いやまだ終わりじゃない。

 魔法屋でマジックアローの魔法書を買って、入院中のジェイクに届けてやらねば。


 魔法屋は店じまいを始めていたが、俺は強引に割り込んだ。


「すみません! マジックアローの魔法書を一冊ください」


「売り切れです」


「えっ!」


 ど、どうしよう! 売り切れは予想外だった!


「どうしても必要なんだ。在庫、一冊もないんですか?」


「ないですねえ。三日もすれば入荷しますから、お待ちください」


 三日後じゃ意味がない。

 しかし在庫がないのならどうしようもない……。

 俺はとぼとぼと病院に向かった。ジェイクに説明をしないといけない。


 開腹手術で虫を取り出したジェイクは、思ったよりも元気そうだった。


「やあ、ユウさん。その節はお世話になりました」


 笑顔で出迎えてくれる彼に罪悪感を覚える。


「ジェイク。とても言いにくいんだが、きみ宛の配達品をなくしてしまった……」


 ネコババしたとはさすがに言えない。

 ジェイクが顔を曇らせる。


「僕としては構いませんが、冒険者ギルドの規定だと配達品の紛失はペナルティが重かったはずです」


「そ、そっか」


「今回はこんな事件がありましたから。事情を考慮してもらえるかも」


「だといいな」


 しかし俺の希望的観測は打ち砕かれた。

 冒険者ギルドの受付のおばさんは、冷たく言い放ったのだ。


「どんな事情があっても配達依頼の失敗は失敗です。しかも期限切れだけでなく配達品の紛失。カルマ、マイナス20ですね」


「カルマ」


 カルマというと、依頼を成功させるごとに少しずつ上っていった謎のステータスだ。

 お金目当てで依頼を引き受けてきちんと達成していたので、いつの間にか上限の30まで上がっていた。

 そこから一気にマイナス20。きついといえばきついが、そもそもカルマって何だ?


「カルマは一体どういうステータスなんですか?」


「あなたの身に宿る因果応報を数値で表したものですよ」


 よく分からん。


「もう少し詳しく」


 俺が言うと、おばさんはため息をついた。


「要するに王国においての善人、もしくは悪人の度合いです。依頼を成功させて人の役に立てばプラス。失敗して迷惑をかければマイナス。他にも盗みや殺人、脱税などの犯罪行為を行えば大きくマイナス」


「ははあ……」


「カルマが大きくマイナスになると、王国法上の犯罪者になります。そうすればお尋ね者として指名手配されて、各町の衛兵が逮捕しにきます」


「衛兵の皆さんがですか。あの人たち、すごく強いじゃないですか。勝ち目ないですよ」


 俺の言葉におばさんはうなずいた。


「だからカルマには気をつけるように。今回はかなりのマイナスですが、ユウさんはもともとカルマが高かったのでまだ余裕があります。でもこれ以上は危ないですよ」


「は、はい」


 依頼を成功させさえすれば、カルマはまた上がる。

 今まで通り地道にお金稼ぎと依頼こなしをやっていくことにしよう。

 とりあえずは先日引き受けた、港町への配達依頼だ。


 俺はちょっとしょんぼりしながら、再び鉱山町を出発したのだった。



 現在のユウのステータス。


 名前:ユウ

 種族:森の民

 性別:男性

 年齢:15歳

 カルマ:10


 レベル:11

 腕力:15

 耐久:9

 敏捷:13

 器用:14

 知恵:6

 魔力:12

 魅力:1


 スキル

 剣術:4.1

 盾術:0.8

 瞑想:1.8

 投擲:3.3

 木登り:3.5

 隠密:0.8

 釣り:1.9

 魔道具:2.7

 詠唱:2.1

 読書:2.6


 装備:

 鉄の剣(剣術ボーナス付き)

 皮の盾

 丈夫な布のマント

 丈夫な布の服

 鱗のブーツ(敏捷ボーナス付き)


 配達品の紛失と依頼失敗でカルマが大きく下がった。でもまだ10ある。

 毒薬を飲んで生還したので耐久がだいぶ上がった。

 寄生虫の魔物との戦闘で戦闘スキルや関連ステータスがそれなりにアップ。


 ダンジョンの中で敵に気づかれないよう行動することで、隠密スキルも手に入れた。


 防具はやっと初期装備のボロシリーズから卒業した。

 これでユウもいっぱしの冒険者に見えるようになった。

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