第19話 王都パルティア

 王都パルティアは大きくて立派な城下町だった。

 遠目から見ても目立つ城壁が、来訪者の最初の目印になる。

 大きな門は昼間の間はずっと開かれていて、冒険者のような人間でも自由に出入りができた。


 門から入った大通りを進むと税務署があった。

 中は人でごった返している。

 受付で質問しようにも人が列をなしている状態だ。

 仕方なく順番待ちをした。


「納税のやり方? そこのカウンターで請求書と一緒にお金を出してください」


 たったこれだけを教えてもらうために並ぶとか、めんどくさいわ。

 隣のカウンターを見ると、やっぱり人がたくさん並んでいる。

 内心でため息をついて並び直した。


「はい、確かに納税を確認しました。次の請求書は二ヶ月後に発行されます。くれぐれも未納のないようにしてくださいね」


 カウンターのお姉さんが疲れた笑顔で応対してくれた。

 この人数を相手にするんだ、休む暇もないんだろう。

 お役人も大変だな。


 税金を納めるという第一の目標が達成できたので、次は冒険者ギルドを探す。

 表通りをさらに進んで大きな通りを右折すると、冒険者ギルドの建物があった。

 さすが王都、今までの町よりも建物が立派だ。


「こんにちはー。スキル習得にきました」


「はいはい。どのスキルをご希望ですか?」


「詠唱スキルを」


「了解です! メダルは四枚必要ですよ」


 受付のお兄さんにメダルを四枚渡す。

 メダルは冒険者ギルドの依頼を成功させると、ときどきもらえるのだ。

 俺は何度も配達依頼をこなしていたおかげで、メダルはけっこう貯まっていた。


 詠唱スキルの魔力を体に入れてもらって、習得完了。

 さあ、これでまともに魔法が使えるようになったはず!


 さっそく試し撃ちをしたいところだが、町なかでぶっぱなすわけにもいかない。

 こんなことなら、攻撃魔法だけでなく自分にかけるタイプの補助魔法も覚えておけばよかったな。それなら場所を選ばない。

 まあまずは一通り王都観光をして、何なら宿で一泊して、明日町を出るときに試すとしよう。


「クマ吾郎、行こう。町の見物だ」


 俺はクマ吾郎を連れて、軽い足取りで冒険者ギルドを出た。







 王都の町並みは見事で、街路もよく清められている。

 街角には多くの店が軒を連ねて、冷やかしているだけでも楽しい。

 中には武具店や魔法屋もあって、さすが充実した品揃えだった。


 武具屋を覗いていると、手頃な服とマントが売っている。

 何の変哲もない布製だが、今のボロ布より何倍もマシだろう。


「すみません。この服とマントをください」


「まいどあり。今着ていくかい?」


「はい。古い服はどうしたらいいですかね?」


「じゃあうちで引き取るよ」


 というわけで着替えた。新品の服の感触がくすぐったい。

 ボロ布の古着を店主に渡すと、苦笑されてしまった。


「こりゃあ使い込んだなあ。申し訳ないが、この品質じゃ下取りは無理だ」


「いえ、いいんです。適当に処分しちゃってください」


「はいよ」


 こうしてピカピカの新品の服に身を包んだ俺は、さらに街路を歩いていく。

 と、リンゴーン、リンゴーンと鐘の音が響き渡った。


「国王陛下ご一家のお姿が見えるぞ!」


「広場へ急げ!」


 周囲の人々がにわかに騒ぎ出した。

 何だかよく分からないが、せっかくだ。俺も人の流れに乗って歩いてみることにした。

 流れ着いた先は王城にほど近い広場である。

 広場に面した大きな建物があって、高い位置にテラスが作ってあった。


 鐘の音が続く中、テラスを見上げていると、やがて何人かの人影が現れた。

 豪華な衣装を身にまとった四人の男女だ。


「国王陛下、王妃陛下、万歳!」


「王子殿下、王女殿下、万歳!」


 人々は口々に叫んでいる。


 ほお、あれがこの国のロイヤルファミリーか。

 遠目だから顔立ちまでは分からないが、気品のある出で立ちでいかにも王様一家という感じである。

 俺は彼らそのものよりも、背後に立つ騎士のような男が気になった。

 白いフードを目深に被り、意匠を凝らした剣に手を置いている。


 最近は俺もちょっと強くなったので、相手の強さというかオーラというか、そういうものが何となく分かるようになった。

 あの白いフードの男は相当な達人だ。騎士団長かなんかだろうか。


 いつか俺もあのくらい強くなりたい。

 そうすればどんなダンジョンだって踏破できるし、どんな魔物だって倒すことができる。

 そうすればいい装備を手に入れて、アイテムも拾い放題でお金儲けもガッポガッポだ。

 ……あれ? 俺、意外に俗っぽい欲望の持ち主だったんだな。

 ついこの前まで食べるものにも苦労する極貧生活だったから、お金への執着が強くなってしまった。


 でも、今でも一番の願いは生き抜くことで変わりはない。

 生きて命があればこそ、冒険も贅沢もできるってもんだ。


 まあそれはともかく。

 ロイヤルファミリーも騎士団長も今後縁があるとは思えないが、見物としては面白かった。

 国王一家が手を振った後に引っ込んでいったので、俺とクマ吾郎は次の場所に行くことにした。







 そうして一日かけて王都見物をした。

 王都は全体的に物価が高くて、服とマントを買った後だとちょいと財布が厳しい。

 魔法屋に見たこともない巻物があって、欲しかったんだが諦めた。もっと金持ちになってからまた来よう。


 宿屋もグレードの割にお値段が高い。

 クマ吾郎と同室を頼んだんだが、断られてしまった。


「動物は一律で家畜小屋です」


 だってさ。

 クマ吾郎の柔らかい腹毛にくるまって寝るのは最高なのに。


 残念に思いながら家畜小屋をチェックしたら、清潔で手入れが行き届いていたのでまあいいかとなった。

 クマ吾郎もふかふかの藁の寝床をゲットして嬉しそうだ。

 むしろ俺もここでいいんじゃないかと思ったが、今度は「人間は部屋へどうぞ!」と言われてしまった。ちぇ。


 人間用のベッドはきちんとマットレスの上にシーツが敷いてある。

 これが昔愛用していた激安宿だと、藁、しかも湿って不潔な藁のベッドだったっけなあ。

 あの頃に比べれば生活が安定して、貯金もそれなりにできて、いいことだらけだ。


 でもまだまだ、一般的に見れば俺が貧乏なのに変わりはない。

 もっと効率よく依頼をこなしたり、さらに難易度の高いダンジョンに挑戦するなど上を目指していきたい。


 そんなことを思いながら眠りに落ちた。

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