第18話 小さな魔物
※後半、虫の魔物で少々気持ち悪い表現があります。
行動範囲を広げる決意をして、しばらく後。
俺は内陸部の町まで来ていた。もちろん初めて訪れる場所だ。
旅自体は特に問題なく進められた。
弱い魔物や野生動物は殺して、手ごわそうなのに出くわしたら全力で逃げる。
テレポートの巻物やテレポートの杖を駆使すれば、格上相手でも逃げ切れた。
もっともテレポート系のアイテムはちょっとアテにならないときもある。
うんと遠くへ飛べるときもあれば、すぐ近くに出てしまうこともあるからだ。
三回連続で敵の目の前に出たときは、死ぬかと思ったな。
まあそれはともかく、新しい町である!
ここは山に囲まれた場所で、鉱山が近くにある。鉱山町だ。
あちこちに鉱石が入った箱などが置かれていて、人がたくさん行き来している。活気のある雰囲気だった。
俺はまず冒険者ギルドに行ってみた。
スキルが習えるかどうか確かめたいからな。
「ユウさんね。あら、あなたレベル10になったばかりかしら」
受付のおばさんが書類を見ながら言った。
「あ、はい。この町に来る途中でレベルが上がりました」
俺が答えると、おばさんは一枚の紙を渡してきた。
「レベル10以上の冒険者は、それまで免除されていた税金が請求されるようになるから。請求書の発行は二ヶ月に一度、偶数月よ。忘れずに納税してくださいね」
「えっ、税金?」
「そりゃあここは王国ですもの。国民に税金がかかって当然でしょ」
それはそうだが、いきなり税金払えと言われてがっかりである。
この国も冒険者ギルドも理不尽のかたまりだと思っていたが、レベル9までの駆け出しに情をかけるていどの配慮はあったのか。意外だ。
「納税はどうやってすればいいんですか?」
「王都の税務署まで行って、窓口に納めてね。王都はここから東に三日の距離よ」
うわー、めんどくさい。二ヶ月に一度の税金のために、わざわざ王都に行かないといけないとか。
「……税金を納めなかったらどうなります?」
「そりゃあ犯罪者になるわね。脱税の」
ですよね。
おばさんは俺に税金の請求書を渡してきた。
読んでみる。
どうやら二ヶ月間内に得た金額が勝手に集計されて、うち二割を税金として取られるようだ。
なんで国が俺の収入を把握してるのか不思議である。
依頼料は冒険者ギルドを介するから分かるとしても、ダンジョンで拾ってきたアイテムの売却もしてるのに。怖。
それで気付いた。請求書は納付期日が記されている。
期日は半年先だった。
請求書の発行は二ヶ月に一度だが、納付自体は半年に一度でいいようだ。
それなら王都へ足を運ぶ機会も減って、まだマシかな。
俺はもう一つ質問をした。
「魔法を使うためのスキルは、ここで覚えられますか?」
「魔法を? それなら詠唱スキルね。残念だけどここでは無理よ、王都なら習えたはずだけど」
おぉ! ついに魔法のスキルをゲットできそうだぞ。
この町を軽く見回ってから、王都へ向かうとしよう。
一通りの店を冷やかしていたら、辺りは夕暮れ時になっていた。
そろそろ宿を取って、明日配達の依頼などをチェックしてから王都に向かおう。
そう考えた俺は、クマ吾郎といっしょに宿屋のあるエリアへと足を向けた。
その途中、道端に座り込んでいる人を見つける。
ぶつぶつと呟きながら本を読んでいた。あれは魔法書だ。
(頑張れよ)
魔法で苦戦中の身として、軽く心の中でエールを送っておく。
「あっ……ヤバ……」
ところがそいつは、魔法書の解読に失敗したらしい。
魔力暴走の気配がした。ぐにゃりと空間が歪むのが見える。
あれはまずい、魔物召喚だ!
強敵が出てきたら俺ではとても勝てない。衛兵を呼ばなければ。
俺が動いたのと同時に、歪んだ空間から魔物が飛び出した。
それは小さな――片手に乗るほどの大きさの、サソリともクモともつかない虫のような生き物だった。
あのくらい小さければ俺とクマ吾郎で勝てるか?
俺は剣を引き抜いて、虫の魔物に向かって振り下ろした。
虫は飛び上がって驚き、剣をすり抜けるようにかわした。
もう辺りは夕暮れで薄暗く、敵は小さい。攻撃がなかなか当たらない。
魔法書を読むのに失敗した当の本人……ボサボサ頭の兄ちゃんは、おろおろと戦闘を眺めているだけ。
何度目かの攻撃をかわして、虫は大きく飛び跳ねた。
ボサボサ頭の肩に飛び乗り、ぽかんと開けられた口の中に入った。うげえ!
「ひいいぃっ!?」
ボサボサ頭も悲鳴を上げて、口の中に指を突っ込んでいる。
「おい、大丈夫か」
「大丈夫じゃない……飲み込んじゃった」
うへえ。
「き、きもちわるいぃぃ~……」
ボサボサ頭は喉に指を入れて吐こうとしているが、うまくいかない。
腹をさすりながらうずくまってしまった。
まさかこんなことになるなんて。
俺はクマ吾郎と顔を見合わせた。
とても気持ち悪い場面を見てしまったが、胃で消化されてしまえば大丈夫……かな?
「おい、そんなとこでうずくまるなよ。家まで送っていくから、立って」
「ううっ」
ボサボサ頭はよろよろしながら立ち上がった。
肩を貸して家まで歩く。
一人暮らしのアパートに入っていくのを見届けて、俺は今度こそ宿屋に向かった。
しばらく後、俺は後悔することになる。
あのとき、もっとしっかり魔物を始末しておくべきだった……と。
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