第6話 不注意一瞬、事故のもと
袋の中身は少々の食料と、何色かのポーション。それに巻物がいくつか。
うち、赤色のポーションは体力を回復する。これは自分の体で体験済みだ。
では赤色以外のポーションと巻物はどうだ。
解呪の巻物は何の役にも立たなかったが、攻撃に使える巻物はないだろうか。
そう思って巻物を取り出してみたがけれど、これがどんな効果を発揮するのか皆目分からん。
そういえば解呪の巻物もニアが「これで解呪できる」と渡してきたからそういうものだと分かったのであって、俺が解読したのではなかった。
だが、それならとりあえず読んでみよう。やってみればよかろうなのだ。
解呪も失敗はしたが、白い光が出てきた。俺程度の魔力でもちゃんと発動はする。
俺はボロボロの巻物を手に取った。
開いて呪文を読み上げる。すると……
「――えっ?」
ヒュン! と軽いめまいのような感覚がして、次の瞬間、俺は地面に立っていた。
場所はさっき登っていた木から十メートルちょい離れた場所か。
なんだこれ。瞬間移動した!?
木の上から消えた俺が地面に立っていると気づいて、グミどもがわらわら転がってきた。
ぎゃああああ!
俺は再び猛ダッシュして、手近な木に登った。
「なんだこれ! なんだこれ! また死ぬところだったぞ」
何とか別の木に登って、俺はゼエゼエと荒い息を吐く。
やっぱり効果不明のものに思いつきで手を出すのは良くない……。
俺はとても反省した。
次。
反省した俺は、少しでも効果を確かめてから使うことにした。
巻物はもうどうしようもない。だって、いくら眺めても効果の予想ができないからな。
俺はポーションの瓶を取り出した。
赤以外では、緑色、ピンク色、透明(わずかに黄色)がある。
それぞれ瓶のふたを取り、匂いをかいでみる。
緑色のポーションは生臭い匂いがした。
ピンク色は甘い匂い。
そして透明は全くの無臭である。
ちなみに体力回復の赤ポーションは青臭い匂いだ。どれも似ていない。
俺は考え込んで、一つ思いついた。
「無臭がアヤシイ」
液体なのに全く匂いがしないのは逆におかしい。
ただの水ではない。ごくわずかに黄色がかっているから違う。
これは確か……。
俺は実験の意味も込めて、透明ポーションの瓶をグミの群れに投げつけた。
パリン!
瓶はあっさり割れて中身の液体をぶちまける。
木の真下にいたグミは、上から投げられた瓶に気づくのが遅れて二匹がもろに液体をかぶった。
「ピギャーッ!」
ジュウ!
肉の焦げる音がして、液体をかぶったグミが悲鳴を上げる。
二匹のグミは身を震わせながら、あっという間に溶けてしまった。
「あー、やっぱり。これ硫酸だな」
硫酸は常温で揮発しないから、匂いを発することもない。
前世知識の賜物だ。
前世も個人情報は日本人くらいしか思い出せないが、時々こういう役に立つ情報を思いつく。助かるぜ。
仲間たちが溶けた硫酸の水たまりを、残りの二匹が呆然と(?)眺めている。
残り二匹は例の色違い(赤)が一匹、洞窟で戦ったノーマルの白が一匹だ。
その片割れ、白グミがおっかなびっくりという感じで、硫酸溜まりを触った。
あ、バカ。
「ピ、ピギャ……」
白グミは情けない断末魔の悲鳴を上げて、仲間と同じように溶けた。
あいつら知能が高いとは思えないが、その中でもバカっているんだなぁ……。
最後に残った赤グミはさすがにそこまでバカではないようだ。
慎重そうに硫酸溜まりから距離を取って、それでも木の上の俺を諦める様子はない。
一匹なら勝てるか?
だがあの赤グミは、白グミよりも動きが素早い。手ごわそうだ。
硫酸の瓶はもう一つある。投げつけてヒットすれば倒せるだろうが、かわされたらそれで終わり。
「よし。やってやろうじゃないか」
俺は覚悟を決めて木から飛び降りた。
地面に降り立った俺に、赤グミが体当たりを仕掛けてくる。
その動きの素早さも重量感も白グミより一回り上で、俺はやっとのことで盾で受け止めた。やっぱりこいつ、手ごわい。
呪われた剣を振り下ろす。赤グミにかすったが、大したダメージになっていない。
赤グミの動きは素早く、俺ののろまな剣がまともに当たる気配はない。
二度目の体当たりを受け、俺は降りたばかりの木に背をつけた。
防戦一方に追い込まれて、じりじりと木を回り込みながら反撃のチャンスを探す。
そうして何度目か、赤グミは助走をつけた体当たりを仕掛けてきた。これをもろに食らえば、たとえ盾で受け止めても無事でいられないだろう。
弾丸のような勢いで飛びかかってくる赤グミを、渾身の力で盾で受け――
「くらいやがれ!!」
受け止めはせず、受け流すように。
木の幹に沿って勢いを流しながら、赤グミを盾ごと地面に叩きつけた。
――まだ残っていた硫酸溜まりへと。
「ピギ――――――ッ!!」
硫酸に体を焼かれて、赤グミが絶叫する。
何とか逃げようともがくが、必死に盾で押さえつけた。
やがてだんだん抵抗する力が弱まって、ついには何もなくなった。
「ハアッ、ハァ……」
硫酸溜まりから盾を引き上げ、何度も荒い息を吐く。
「ははっ……ざまあみろ」
ふと盾を見れば、もともと錆びてボロボロだったのがさらにひどい有り様になっていた。硫酸に焼かれたせいであちこち腐食している。
こんなでも呪われていて外せないとか、どんな理不尽だよ。
そして、ふと。
『ユウのレベルが2になりました』
奇妙に無機質な声が耳元で聞こえて、俺は飛び上がった。
声はそれだけを告げた後、ふっつりと聞こえなくなる。
「レベル上がったって? マジでゲームの世界だな……ステータスオープン」
名前:ユウ
種族:森の民
性別:男性
年齢:15歳
カルマ:0
レベル:2
腕力:2
耐久力:2
敏捷:2
器用:1
知恵:1
魔力:1
魅力:1
スキル
剣術:0.1
盾術:0.3
瞑想:1
投擲:0.1
木登り:0.2
あ、ちょっとだけステータスも上がってる。
腕力と盾術が上がっているのは、必死こいて盾を振り回したせいか。
敏捷は猛ダッシュと木登りのおかげかもしれない。
ていうか、スキルに木登りと投擲(とうてき)が生えてるな。
投擲はあれか? 硫酸投げつけて白グミを始末したせいかな。
剣もけっこう頑張ったつもりだが、全く上がっていないのはちょっとへこむわ。
まあ、剣で一匹も殺せなかったし仕方ないのかも。
「はぁ……まあ、何にせよ。これで町に行ける」
だいぶ時間を食ったせいで、太陽はそろそろ傾き始めている。夜になる前に町にたどり着きたい。
「のどが渇いた。体力も減ったし、ポーション飲んでおこ」
俺は赤ポーションの瓶を開けて中身を飲み干す。
うん? なんか味が甘いぞ?
あとなんか、体がしびれて動かないんですけど。
バタリと倒れ伏した俺の視界の端に、ポーションの瓶が転がっている。
ちょっぴり残った液体は、赤ではなくピンクだ。赤を飲もうと思って間違ってピンクを飲んでしまったんだ。
あっこれ、たぶん麻痺薬だ! 体が動かねえ。
今、魔物に襲われたら確実に死ぬ!
麻痺していた時間はそんなに長くない。せいぜい二分とかそんなもんだったと思う。
でもその間は生きた心地がしなかった。
ようやく麻痺がとけた俺は、今度ポーションを飲むときはよく確認しようと反省しながら町に向かったのだった。
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