第2話 謎肉(カップ麺のあれではない)

 ため息をついたルードが投げやりな口調で言った。


「まあいい。意識が戻ったのだから、我々は先に行く。あてのない旅ではあるが、他人のために足止めはごめんだからな」


「ルード。彼は目を覚ましたばかりよ。もう少しだけ助けてあげましょう」


 ニアが言うと、ルードはあからさまに舌打ちをした。なんだこいつ、性格悪いな。


「そういえば、名前を聞いていなかったわね」


「ニア、よせ。名など聞けば余計な縁ができる。今の我らにそんなものを抱える余裕があるか?」


「縁ならもう十分にできているわ。今さらよ。……それで、あなたの名前は?」


 俺の名は――


「ユウ、だ」


 何も思い出せないくせに、名前だけはするりと出てきた。

 それともYOUのユーだろうか。

 分からんが、ユウは意外に馴染みがいい。本当に俺の名前なのかもしれない。


「ユウ。もう少し眠るといいわ。私たちが火の番をするから、安心して」


 ニアがにっこりと微笑んだ。

 横ではルードが苦い顔をしている。


 分からないことだらけで不安だったが、体は冷えて疲れ切っている。

 返事をするのもままならず、俺は再び眠りに落ちた。







 再び目覚めると、体はずいぶんマシになっていた。

 焚き火のそばには、相変わらずニアとルード。二人は小声で何事か話している。

 俺が目を開けたのに気づいて、ルードが言った。


「顔色は良くなったな。起き上がれるか?」


「ああ、大丈夫だ」


 体のあちこちが痛んだけれど、俺は立ち上がった。

 ぐっと手足を伸ばす。洞窟の天井は案外高くて、俺が手を伸ばしてもぶつかったりしなかった。

 深呼吸をすると、腹がぐうと鳴った。

 いいことだ。空腹を感じるのは、正常なことだからな。


「ほら、飯だ。食え」


 ルードが投げて寄越したのは……生肉である。

 生肉は地面を転がり、土で汚れている。

 いや生肉って。病み上がりの怪我人に与えるか普通?


 生肉を手に取って俺は困った。困ったが、腹はぐうぐう鳴っている。

 仕方なく肉を焚き火であぶってみる。

 串もなくあぶったものだから手が熱い。


「うおっアチッ」


 肉の端に火がついて、ついでに俺の手もやけどしそうになった。こりゃだめだ。

 仕方ない、生のままだがかじってみよう。

 俺は口を開けて肉にかぶりつく。


「ォエェェッ」


 で、普通に吐いた。

 胃の中が空っぽだったので胃液を吐いてしまった。

 当たり前だろう、弱りきった体に生肉だぞ?

 せめて焼いてから渡してくれよ。

 この理不尽さ、先々が心配になる。


「大丈夫?」


 ニアが首を振りながらマグカップをくれた。中身は白湯だ。

 俺はかじりかけの肉を置いて湯を飲む。

 胃液を吐いたせいで口の中が酸っぱかったので、助かった。


「さて、それじゃあ最後の親切といくか」


 ルードが言ってまた何かを投げて寄越した。




+++


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