転生したら最弱でした
灰猫さんきち
第一章 理不尽の始まり
第1話 気がついたら流れ着いていた
ドォンッ!
体を突き上げるような激しい衝動で、俺は目覚めた。
まわりは真っ暗。何がなんだか分からない。
手探りでドアらしきものを探り当て、必死の思いでこじ開ける。
外は嵐だった。
激しく揺れる地面は木の床で、雨粒と波をかぶって水に沈みかけている。
大波が襲うごとに船は軋んで、今にも壊れてしまいそうだ。
船だ。俺は船に乗っていたんだ。
どうして? 思い出せない。
まるで見知らぬ場所の影絵を見るように、目の前の光景が展開されている。
ドンッ!
また衝撃が走る。
すでに沈みかけている船が、波をまともに受けて揺らいでいるのだ。
ギィィと木が軋む嫌な音がして、床の傾きの角度がぐんと上がる。
高波をかぶって俺は転んだ。為すすべはなかった。
船の手すりを掴もうとしたが、全てが遠い。
俺は海に放り出された。
次々と襲ってくる波と雨のせいで、水中に落ちたと気づくのに時間がかかった。
激しい波に濁る海中で、船が真っ二つになっているのが見えた。
真っ二つになって、渦を起こして沈んでいくのが。
それが、俺の意識の最後になった。
パチ、パチと小さな音がする。
全身ひどく寒かったけれど、その音のする方向だけ少し暖かい。
そっと目を開けてみると、オレンジ色の炎が見えた。
焚き火だ。
焚き火のそばに二人の人影がいる。
俺の目はまだかすんでいて、どんな人物なのかまではよく見えない。
「うう……」
声を出そうとしたが、うめき声しか出なかった。
「おや。目が覚めたか」
若い男の声が答える。
「君は三日も眠っていた。ニアに感謝するんだな。わざわざ君を海から引き上げて、こうして世話までしたのだから」
少し視力が戻ってくる。
よく見れば、二つの人影は若い男と少女のようだ。
「あなた、難破船から落ちて溺れたのよ。覚えてる?」
ニアという少女が言う。十三歳か十四歳くらいに見えた。
「覚えて……る」
かすれた声だったが、ちゃんと喋れた。
男が立ち上がって、俺にマグカップを差し出してくれた。
中身は温めたミルクで、ゆっくりと飲めば腹が温まってくる。
「ありがとう、ええと」
「ルードだ」
男、ルードは素っ気なく言ってまた焚き火の前に腰を下ろした。
「運が良かったな。船はバラバラになって、浜に打ち上げられたのは瓦礫と死体ばかりだった。生きているのが不思議だよ」
「……はは」
俺は何と答えていいか分からず、ぎこちなく笑った。
視線を周囲に向けてみると、どうやらここは洞窟のようだ。むき出しの岩壁が焚き火に照らされて、薄いオレンジ色に染まっていた。
ルードが続けた。
「まあ、ニアの温情と同族のよしみということにしておいてやろう。お前も冒険者か?」
「同族?」
「その耳、森の民だろう。故郷を失った流浪の民。そんなことも分からないとは、まだ寝ぼけているのか?」
俺はマグカップを置いて、自分の耳を触ってみた。
……尖っている。
なんだこれ。耳なんぞたまにしか触らないが、いつの間にこんなに先が尖った形になったんだ。
これじゃあまるで、ファンタジー映画に出てくるエルフのようだ。
よく見たら、ニアとルードも同じ形の耳をしていた。
そして二人とも不思議な色の髪と目をしている。青とか緑とか、人間にありえないような色。
俺が呆然としていると、ルードは興味なさそうに息を吐いた。
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