第3話 初めての戦闘

 足元に転がってきたのは、古びた剣と盾だった。

 どちらもあちこち錆びついており、いかにもガラクタといった様子。

 手に持ってみると無駄にずっしりと重い。質の良くない金属で作ったものなのだろう。


 ルードが言う。


「お前がこれから一人で生きていくには、まあ、冒険者になるのが妥当だろうな。なにせ森の民だ。下手に出自を知られれば、定住はおろか迫害を受けかねん。であれば、自分の身くらいは自分で守ってみせろ。……ニア」


「うん」


 ニアが立ち上がって、小さく何事か呟いた。

 ぐるり、空気が奇妙な渦を巻く。その渦の中心に小さい何かが生まれた。


「ピキー」


 それは丸くっこくて水分が多そうな、よく分からない生き物だった。

 白っぽいしずく型でぷにぷにしている。

 俺は何となく某国民的RPGの一番弱い敵を思い出した。


「ピキー」


「ピキッ」


 そいつらは全部で三匹いる。ぴょんぴょんと跳ねている動きは、ちょっと可愛いかもしれない。

 ルードが腕を組む。


「最弱魔物の『グミ』だ。初心者の相手としてはちょうどいいだろう。そいつらを殺せば、ルード先生の親切は終了だ。さあ、やってみせろ!」


「ピキーッ!」


 そいつらはぴょんぴょん跳ねながら、襲いかかってきた!


「うわ!」


 俺は慌てて剣と盾を持つ。

 すると――


 デロデロデロ……


 何とも不吉な気配がした。手元の剣と盾は不気味な赤黒い色に包まれている。

 ただでさえ無駄に重量があったのに、さらに重くなりやがった。ここまで来ると素手のほうがいいと思うくらいだ。


「あぁ、すまん。その武具は呪われていたか。まあ後で解呪法も教えてやろう。とりあえず頑張れ」


 ルードが無責任なことを言っている。

 絶対わざとだ、あれ!


「ピキ!」


 どすっ!

 グミの一匹が体当たりをしてきた。


「ぐふっ」


 小さい割に強烈な体当たり。いや、俺が弱いのかもしれん。


「ピキピキ!」


「ピーッ!」


 立て続けに三匹からぶつかられて、俺は思わず膝をつきそうになる。

 だがここで体勢を崩せば、よってたかって襲われて死ぬ。ルードは助けて……くれなさそうだ!

 俺は必死に周囲を見た。

 洞窟はそんなに広くはなく、奥に行くに従って幅が狭まっている。

 奥の壁を背にすれば、三匹同時に攻撃されることはないだろう。


「くそっ!」


 重すぎる両手の剣と盾を引きずるようにして、俺は洞窟の奥へ走った。

 思惑は当たった。狭まった通路では小さいグミですら一匹ずつしか通れない。

 つまり、一対一で戦える!


 剣を振り下ろす。

 しかし重すぎる剣の動きはのろくて、グミは器用にかわしてみせた。

 けれど俺もやられっぱなしではない。次の体当たりは盾で防いだ。

 グミが盾にぶつかったせいで、コロンとひっくり返る。

 俺はその腹(?)目掛けて剣を突き立てた。


「ピギャーッ!」


 悲鳴を上げて、一匹目のグミが弾けた。ぶちゅ、と体液が飛び散って動かなくなる。

 すかさず次の奴が飛びかかってきたが、これも盾で防いだ。

 こいつはひっくり返らなかったので、何度も剣を振って少しずつ傷をつけていく。

 やがて何度目か、体液が飛び散った。


 最後の三匹目。

 俺もそろそろ慣れてきた。

 限界に達しつつある体に鞭打って、剣と盾を扱う。

 錆びた剣の切れ味は悪い。剣先も鈍くて突きの威力が弱い。

 けれどもグミの体に切り込むたび、手応えを感じた。


「ピギ……」


 ぶちゅ。

 最後の三匹目も床の染みになった。


「ゲホッ、ゲホ……」


 俺自身ももう限界だ。咳き込みながら床に座り込む。

 こうして俺は、何とも無様な初戦闘を終えた。




+++


カクヨムコン参加します!

面白そうでしたらフォローや★で応援してもらえると嬉しいです!

よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年11月29日 19:15

転生したら最弱でした 灰猫さんきち @AshNeko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画