第12話 特許権って、ここにもあるのかな?


 その後、試行錯誤を重ね、本当に内腿と下腹部、腿からお尻や腰に繋がる筋肉を鍛える器具はすぐにでも完成し、一月後には、肩まわりや背中、上腕もスッキリさせるものまで、数種類の筋トレマシンが完成した。


 そして、なぜか、私の使わない時間に、エイナルが愛用していた。

 アルベリータやマルティンも、ちょこちょこと、基礎体力作り程度に使っているのを見かけた。



「私たちだけで使うのも、なんだか勿体ないかも」


 故障した時のために、各部品や、予備の器具一式も作ってあるので、ふと思いついて(ほんとに行き当たりばったりなのは反省するけど)予備の器具をバラして馬車に積み込ませた。


 一組は本邸古城屋敷カントリーハウスに残し、一組は王都の町屋敷タウンハウスの練習用の小ダンスホールに置いて王都にいる時の利用分、そして、更にもう一組運び込む。


 合金鋼製品だからかなり重く、馬車も荷台はそんなに大きくないのにも関わらず、六頭立てにして馬力を出し、街道沿いに設けられた伯爵家の分家が管理する別荘や馬屋で定期的に馬を取り替えることになった。



   ✧ ✧ ✧



「何やら、重そうなものを、騎士を多く連れて運び込んだらしいな?」

「え、ええ。まあ。大袈裟に、厳重に運ぶものを貴重品や金目の物だと勘違いした野盗に襲われないように騎士をつけたのですが、却って目立ってしまったみたいで、王都に入るまでに、三組の野盗を殲滅しましたわ」


 面白いものを見るような目で、ニヤニヤと笑みを浮かべるマクシミリアンⅢ世国王陛下。玉座の肘置きに肘をついて、顎髭を捻るように撫でながら。

 ちょっとだけ、居心地悪くなってきた。


 そう。何をそんなに大層に守っているのかと、貴族家の馬車と騎士と荷馬車は、実入りが良さそうに見えたのでしょうね。

 残党を逃がすと、後々物騒なので、行きがかりのついでとばかりに、騎士を多く連れてきていたのをいいことに、本拠地まで乗り込んでの、近隣住民を困らせる野盗を一網打尽にしたのだ。

 まあ、それはそれは近所の村民や領主に感謝されましたとも。ええ。そんなつもりはなかったのだけれど、感謝されれば悪い気はしませんでしたとも。


 野盗は、貧しい農民を態々わざわざ襲うことはしないけれど、王都と各都市を往き来する商隊を襲うのだ。

 そして、野盗を恐れ、商人達が別の道を行くようになると、農村へは立ち寄らなくなるので、日用品などを入手しづらくなる。

 商人が農作物を仕入れに来なくなるので自分達でおろしに町へ出て、収入を必需品に替えて戻る道で、せっかく買ったものを盗られる。


 かといって、規模の小さな村の自警団程度では、組織立った盗賊達をどうにかする事は難しい。

 稼ぎを盗られるので、傭兵やフリーの騎士団を雇うことは出来ない。


 私たちが、自分たちの都合とはいえ無償で退治してくれたのだから彼らの感謝は尽きることなく、農作物を献上してくれるというのを断り、感謝の宴を開くというのを先を急ぐからと辞退して、ここまでやって来たのだ。


「面白そうなことをやりながら来たのだな」

「いえ、実際に戦うのは騎士達ですし、わたくしは馬車の中で怖がるだけで、何も面白くなどありませんでしたけど」

「まあ、そうであろうな。言ってみただけだ。わたしも混ぜて欲しかったが、言っても仕方なかろう。

 それよりも、持ち込んだという物、見せてくれるのであろうな?」

「勿論ですわ。そのために遥々持って来たのですから。是非、お試しくださいな」

「試す?」


 陛下は、見たことのないおもちゃを見せられた子供のような表情かおで玉座から降りてくる。


案内あないせよ」



   ✧ ✧ ✧



 ギッギッギッ カション


「陛下。音を発ててはいけませんわ」

「む? そうなのか?」

「はい。勢いに任せて踏み込んでも戻しても筋肉にいい影響はありません。重りが音を発ててぶつからないように、ゆっくりと力をかけて下ろしていくのです。そう、そうですわ。で、完全に下ろしきらないところで止めて、ゆっくりと力を入れて、再びあげていくのです」

「ふむ。なるほど、確かに、勢いで踏むより、ゆっくりと重りの力に負けないように力を入れながら動かす方が、腿や膝に効くな。明日は、震えたり筋肉痛になるやもしれぬ」

「お試しなのですから、そんなに重りを積まなくても、軽めでやっていただければ……」


 ふ、ふふ、ふはははは!


「まこと、其方そなたは飽きぬな。面白いぞ。空いた時間でもこれで退屈せずに済む。ついでに身体も鍛えられて一石二鳥だな」


 なんだか、気に入ってもらえたみたい。


「そうだな。これを量産出来るか?」

「どうでしょう。合金鋼を精製するのはレシピがあるので出来ると思いますが。重りも。部品があればこの器具を組み立てるのも難しくはないかと思われます。けれど器具各部品は本体も含め、今は作業員達の手で寸法を測り、仮組立てで微調整しながらの手作りでして。鋳型で作る鋳造品では強度が足りないかもしれないので、やはり鍛造していただいてるのです」

「そうか。それはそうだろうな。とりあえず、一通り、一つづつ納品してもらおうか」

「え?」


「ブランド名は? クラウディアではなかろう? ルファか? エリュテイアかな?」


 楽しそうに各器具の部品を撫でたり引いたりする陛下。


 え? は? あの、待って待って? 納品?


「あの、今ここにある分は、すべて陛下への献上品です、が?」


 にっこり 綺麗な笑顔を見せる陛下。ああ、お髭がなかったら、本当にハリウッドスターになれそうな綺麗めの精悍なイケメンなのに、なんで独身貫いてるのかしら。てか、王様なんだから、早く王妃様をもらって王子をもうけないといけないのでは?

 私が社交デビューの夜会で、確か、今はまだ結婚できない理由があるとか言ってたっけ?


「勿論、これらは、君からの贈り物としてありがたくいただくさ。定期的に、点検に来てくれるんだろう?」

「はい。これを開発するに当たって、わたくしのイメージ画を元に設計してくださった技師や、陛下が派遣してくださった宮宰と共に定期的に参ります。贈れば終わりでは、故障したりいつか事故を起こすかもしれませんから、メンテナンスは定期的に行いますし、その時は、わたくしも参るようにします」

「うん、頼むよ。それとは別に、だな。騎士団の者にも使わせたいと思ったのだよ。まずは、近衞の近侍から、今後量産できるようなら、王宮騎士団の者達にも。可能なら、其方のブランドとして、国内外にも売り出したい。

 わたしに献上したのは、それもあるのだろう?」


 ニヤリと口の端をあげるだけで微笑む陛下。


 見透かされてたかぁ──


 

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