第10話 美しいカーテシーのためには筋トレは必要です
「なんか、ヒントになったことはあったのか?」
「そうねぇ、どこでもあまり変わらない、地道な筋トレしかしてないことはわかったわ」
私の求める情報じゃなかったけど、これがこの世界の普通なら、自分でどうにかするしかないわね。
軍隊とかにある地獄のブート
そういえば、お母さまの結婚祝いにお祖父さまから贈られたのを私が相続した、あの鉱山。
山頂が三つあるみたいな連山っぽくて、鉱山口がサヴォイア公国側は主に宝石を産出するみたいだけど、こちらキュクロス王国側は、水晶や雲母、金属になる鉱石が殆どなのよね。
あれ、上手く使えないかしら。合金の知識はないんだけど…… どうにか出来たら、私でも作れるかもしれない。
王城から領地へ戻る途中、婚約者の領地を通るのに素通りはまずいだろうから、早く帰って試したいことがいっぱいあるけれど、バスティアンに会って行くことにした。
「ライニンゲン伯爵ホーエンローエ卿にはご機嫌うるわしぅ」
「うむ、よく来てくれたな。生憎、バスティアンは王都の知人の茶会に参加していましてな、しかも、その後
バスティアンも私より年上で、上に
その大人で初老の男性が、私のような小娘に頭を下げるシュールさよ。
それより何より、バスティアンがいないのなら、先触れにマルティンを遣いに出した時に、不在だから日を改めるように伝言してくれていたらそのまま寄らずに帰ったのに。
「いいえ、それには及びません。王都から領地へ戻るのに、挨拶もなく通過するのは礼儀に反しますから立ち寄っただけですので。特に、急用があった訳ではないのです。一目だけでもお顔を見たかったのですけれど、入れ違いになったのですね」
バスティアンは、嫉妬の翠眼の悪女だとか、厄災の種の紅い魔女だとか言われる私の、
早く帰りたいのを
「いやいや、あれも最近は忙しくしておりまして、中々、婚約者にも会いに行けませんで申し訳ない」
なぜか汗をかきかき弁明するホーエンローエ卿。
マルティンを遣いに出した時に婚約者の不在を伝言しなかったのは、どうやら私を引き留めてその間にバスティアンを呼び戻すつもりだったらしい。
先代ライニンゲン伯爵様と先代マグニフィクス伯爵のお祖父さまとが取り決めた婚約で、当然正式に婚姻契約を結ぶ以上、間に聖教会の聖王猊下とキュクロス国王陛下の承認を盛り込んである。
王命ではないにせよ、正式に陛下の直筆のサインをもって承認された婚姻契約である以上、少しでも良好に保とうと思っているのだろう。
同じ伯爵家とはいえ、ライニンゲン伯爵はキュクロス王国が建国して百年ほどの情勢が落ち着いた頃に領地を拝領し授爵したどちらかといえば新興貴族で、建国当時から王家を支えるマグニフィクス伯爵家とは格が違うと見るのが一般的らしいので、その後継である私に気を遣っているのかもしれない。
配慮に謝意を述べつつこの場を辞する断りを入れて、そそくさとライニンゲン伯爵邸を後にした。
✧ ✧ ✧
マグニフィクス伯爵領に入ってもカントリーハウスには戻らず、まっすぐ鉱山町まで向かう。
「おや、王都へ行かれたのでは?」
「あ、うん。ちょっと、ね。あの、相談があるのだけれど、いいかしら?」
アストゥリアス町を一望できる高台に建てられた元サピヴィディアス領主邸に整えられた執務室で、書類仕事をしていた家宰モーリッツは、細い銀縁の眼鏡をかけ直し、部屋の真ん中に設えられたソファセットに私を促した。
「勿論です。わたしは陛下から貴女様のために派遣された家宰でごさいますから。伺いましょう。本日はどのような発案を?」
うーん、何度か現代知識をこちらに合わせて調整するのを相談してきたからか、今日の相談も、私の現代知識チートの何かだと思ってるのね。
もちろん前世の記憶があることは誰にも言っていないので、私のいろいろ考えてるうちに浮かんだ思いつきを形にしようとしているのだと思ってるようだけれど。
「こちらから出る鉱石を金属に製錬する課程で、強度や純度を調整出来るのかしら?」
「勿論、
「そう。それがある程度確立するのにどれくらいかかりそうかしら?」
「目的にもよりますが。まずは、どのような目的でどのような金属が必要なのでしょうか?」
「これを見てもらえるかしら?」
私は、マルティンに持たせていた筒状に丸めている紙を、テーブルの上に広げた。
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