第3話 キュクロス国民やめちゃおっかな?
それは、母が亡くなって数日後の、高熱から覚めた時に理解したこと。
母が亡くなったショックと、女子高生だった私の母が亡くなった記憶が重なり、脳内に急速にインストールされたように女子高生だった私が入り込んできて、ひとつに融合しようとして、高熱が出たのだ。
そういう人は、どの国でも数人はいるらしい。
前世が、この世界で普通に生きた人なら特に問題はない。
でも、異世界で、そこが今の世界よりも高度な文明を築いていた世界だったなら、その知識は金の延べ棒を生み出す財産になり得る。
ので、国に申し出て、保護されたり王族のような生活を送る人も僅かにいるという。
私は、ただの女子高生で、進学校に通っていた秀才とか、何らかの得意分野のある天才だったとかって事もない、普通の一般人だったので、前世の記憶のことは、父にも言っていない。
せめて、会社勤めをしたことがあるとか、医者だったとかならまだ役に立っただろうに、ただの女子高生の日常の記憶が朧気にあるだけで、習ったはずの数式すら曖昧だ。
商業高校だったならまだ、領地管理に役立てられたかもしれない。
だから、今の私は、現代女子高生の感情と日常生活習慣の感覚を持った、ただの女の子が貴族社会を覗き見している気分なのだ。
11歳までは令嬢として育ったはずなのに、身体に染みついた所作は残っても物事の考え方は、十歳そこそこの世間知らずの深窓の令嬢の感性よりも、現代女子高生の精神年齢が勝ってしまった。
女子高生の感情と記憶が混ざった時から約6年。
私の精神年齢がこの6年で22歳まで成長したかというと、そんなことはなく、そのまま実年齢が追いついただけだった。
子供の柔らかいけど知識量の少ない知能が女子高生の既に人格形成された個性や人格に押し負けたのか、11歳伯爵令嬢としての経験値と記憶はそのままに、自分は平成令和を生きた女子高生だという認識を持って貴族社会って大変ねぇと人事のように見ている、
それでも子供扱いされる環境に左右されるのか、肉体年齢に精神年齢が引っ張られるのか、女子高生である人格のまま子供らしく振る舞ってしまうちょっと恥ずかしい少女時代を、父に愛され、侍女に躾は厳しいながらも可愛がられて、それなりに順調に暮らしてきた。
本来なら伯爵令嬢らしく、凜とした高貴な女性に育つはずが、平成の小学生令和の中高生の、親の庇護のもとにゆるゆる過ごしてきた甘ったれた未成年の性質が、高貴な女性への成長を阻害してしまったらしい。
結果として、現代人の考え方がこの世界の貴族社会には馴染まない、突飛で思考が読めなくて付き合いづらい変人令嬢として、赤毛の魔女ぶりもレベルアップしてしまった。
「そう考えると、バスティアンと上手くいくはずがないのね…… わたくしったら、お莫迦さんだったわ」
自嘲してひとりごとが漏れると、侍女ふたりは即座に否定してくれた。
「お嬢さまの良さもわからず、可愛らしいところも見ようとせず、伯爵家の人脈と資産と利権を手にする付属品としか見られなかった、古色蒼然とした貴族脳のあの方が愚かなのですわ」
「バスティアンのことも、わたくしのことも、さり気に貶めてない? アルベリータ?」
「そんなことはありません。婚約者様の考え方は、女性でも爵位を継げて宮廷でも進出できるこの国に於いて、女性
アルベリータは子爵令嬢で、彼女の言う人形のような深窓の令嬢とは真逆の自分の意志と主張を持った、だけど侍女という身分に
私が令嬢をやめるに当たって、ちょうどいいタイミングだからそろそろ結婚して欲しいと思う。
22歳は、高位貴族なら行き遅れと揶揄され始める年齢。働く下位貴族や平民には結婚しない女性もいるけれど、平成・令和の現代なら珍しくもないけれど、この国では、多くは二十歳までに親の決めた家に嫁いでいる年齢なのだ。
「私は、お嬢さまの持参金や輿入れ家具の一部のようなものです。伯爵家を継がれるならそのままお側に、どこかへ嫁がれるのならその先まで、どこへでもご一緒致しますわ」
熱弁するアルベリータ。彼女は、私の侍女になったことを誇りに思っているらしいのだ。
ありがたいことだけれど。私が10歳の時からずっと侍女として側にいてくれた、姉のように思って来たアルベリータだから、幸せになって欲しい。
「わたくしはサヴォイア公国の出身ですから、大公閣下にお会いになるのならお供致しますし、閣下の元に留まられるのでしたら、わたくしは元々伯爵ではなく閣下に雇われているのでそのまま大公家に戻ります」
そういえば、カロリーネは、お母さまの小間使い兼侍女見習いとして、弱冠12歳で母の実家から伯爵家にくっついて来たんだっけ。
こちらで、交流のある男爵家に縁を得て結婚はしたもののお母さまの侍女も続けていて。
子供を産む前に旦那様が亡くなっちゃって、相続問題に巻き込まれないように相続放棄を宣言して本格的に伯爵家に戻ってきたのだけれど、まさか、お父さまがお給金を払ってるんじゃなくて、隣国のお祖父さまが雇い主のままだったとは⋯⋯!
「そんな
一応、これはカロリーネ流のジョークである。
私が、そんなことを考えていないと
めったに笑わないけれど、表情筋を使うのがヘタなだけで、笑うことや冗談の応酬などの楽しい事が、本当は大好きらしい。
そのギャップで旦那さまをゲットしたのだから、わかる人にはわかる、彼女の良さがあるのだ。
「そうね、お祖父さまの国で暮らすのも悪くないかも?」
この国にいても、緑の目と赤い髪が『嫉妬の魔女』だとか『厄災の火種』だとか言われて貴族社会から弾き出され、古い因習の迷信ゆえに、土着の庶民達にも似た考え方がある以上、平民になっても爪弾きにされるかもしれない。
友達もなく寂しく暮らす未来しかないのならいっそのこと、この国に
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