BAR異世界〜これは異世界モノではありません〜
根上真気
第1話 ニート
時計を見て、自己嫌悪に陥る。
月曜日からダラダラと夜更かしをして、起きた時には午後一時を回っていた。
「せめてバイトぐらいしないと......」
ひょろっとした身体を怠そうに起こし、ボサボサの頭を掻きながらスマホを手に取る。
求人アプリを開いた。
数回画面をスクロールすると、すぐにポイッとスマホをベットに放り投げる。
「メシ食ってからにしよ......」
洗面所で歯磨きをしながら、鏡に写った自分の顔を見た。
「髪、伸びたかな」
ロン毛ではないが、前髪が片目を隠しかけている。
バンドをやっていた頃には気にもしなかった。
だけど最近では、
「切ったほうがいいんだろうな」
真面目に思う。
だが、途端に面倒な気分になって考えるのをやめた。
食事を済ませると、部屋に戻ってコーヒー片手にスマホを眺めていた。
開いている画面は求人サイトではない。
「課金しないと、もう無理じゃね」
再びスマホをベットに放り投げ、今度はノートパソコンを開いた。
ハマっている映画シリーズの続きを観るためだ。
数時間後。
「ちょっと、ヒロ。いるんでしょ?早く来なさい。晩ごはん冷めちゃうわよ」
ドアがノックされて声が届いた。
時間を見ると、とうに二十時を過ぎている。
いったんパソコンを閉じ、仕事から帰ってきた母のいるリビングへと移動していった。
いつまでこんな生活を続けるんだろう。
天井を見つめながら思った。
まもなく日付けも変わる。
結局、今日も何もしていない。
こうしてベッドに横になったところで、眠れるはずもない。
「ランニングでも、始めようかな」
やりもしない事を口にすると、
そんな時。
「ん、誰だろ」
ブー、ブー、とスマホが震えた。
メッセージじゃない。電話だ。
「仲井?」
画面を見ると、バンド時代に仲が良かった友人の名が表示されていた。
久しぶりだった。
最近は、会うどころか連絡もほとんど取り合っていなかった。
なぜか。
博音の方から距離を置いていたからだ。
「どうしよう......」
青年は葛藤した。
今の状態でかつての友人と話しても、劣等感と置いてけぼり感に
そんな自分自身に嫌悪感を抱いて苦しむことはさらに怖かった。
「寝てたことにしよう......」
スマホをベットに置き、振動が止むのを待つことにした。
しかし見通しは甘かった。
一分過ぎても、一向に着信が収まる気配がない。
「まさか......何かあったとか?」
にわかに
さっきまでの態度が嘘のように、素早くスマホを手に取り応答ボタンをタップした。
「も、もしもし」
声が強張っているのが自分でもわかる。
緊張していた。
ところが、聞こえてきた友人の声は、いたって明るいトーンだった。
「おっ、悪い。寝てた?」
「いや、まだ」
「だよな〜。ヒロは夜行性だもんな〜」
友人の声を聞くなり、特に何かあったわけではない事を悟る。
ほっと一安心。
「久しぶりだな」
「バンド解散してからもう一年だもんな。あれ以来、ヒロは俺を遠ざけてたからな〜」
「あっ、いや、その」
図星を突かれて博音は言葉が詰まる。
「ま、気にしてないからいいけどさ」
友人の仲井は電話の向こうでアハハと笑った。
それはからかうようであり、心を和らげるようでもあった。
博音は、不思議と心がスーッと楽になるのを感じた。
「それで、仲井は元気にしてた?」
「おれは元気だぜ。最近またバンドも始めたしな」
「えっ、マジで?」
「つってもさ。実家のオンボロ神社の仕事を手伝いながらの趣味のバンドだけどな」
「全然イイ感じじゃん」
「ヒロはどーなんだ?」
「俺は、まあ、微妙かな......」
「なにしてんの?」
「なにもしてない」
正直に答えた。
見栄を張るほうが嫌だった。
「自宅警備員ってやつか?」
「うん......もう、二十四なのにね」
「そっかぁ、ハハハ......なあ、ヒロ」
「なに?」
「今でも音楽は好きなんだろ?」
「それは、うん」
「じゃあさ。良いバイトあるんだけど、やる気ないか?」
「うん?」
「音楽好きのオーナーがやってるちょっとした飲食店なんだけどさ。服も髪型も好きにしていいし、履歴書もいらないってさ。今詳細送ってやるよ」
「いや、ちょっと、あの」
「よーし、送るぞー」
「いや、待って、まだやるとは...」
「送ったぞ。じゃ、健闘を祈るぜ〜」
「だからまだやるって言ってないけどぉぉぉ!?」
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