第2話
俺の通う
松原は強豪校からのスカウトもくるような逸材だそうだが、誘いを断ってなぜかうちの学校に来た。
それにより松原の在学中にサッカー部初のインターハイ出場をと学校中が注目している、そうだが俺はあまり興味もなかったから気にしていなかったけど。
朝から練習しているサッカー部の周りには既に10人ほどのファンの女の子が群がっている。
改めてその注目度に驚きながら俺たちはその後ろから様子を伺う。
「あれがサッカー部ね、たしかに貴方よりもイケメンが揃ってるわ」
「そういえばなんで和服なんですか?」
「あら、この学校の商業科は私服登校OKなのよ」
「へえ、知らなかった」
「あなたこそ、本当にここの学生なの? 常識よそんなの」
妖子さんがそういうと、ケラケラ笑う六道さんと何故か照れる氷堂さんが追いかけてくるのが見えた。
「でも妖怪が学校って、どういうことなんですか?」
「ま、その辺はあとでじっくりベッドの上で説明するわ。まずは優の好きな子を」
「ちょいちょい俺を誘うのやめてくれませんかね。ええと、松原はあの青いジャージのやつです。」
「あら、ピロートークの最中に他の男の話なんて野暮ね」
「勝手に事後にするな! あれが松原なの!」
俺が松原を指さすと、六道さんが少し色めきだす。
「えー、いい男じゃん! 優が好きになるのわかるわー。だって甲斐君より全然爽やかじゃん?」
「わ、私はそんなことないと、思いますよ……甲斐さんもす、素敵です……」
「あらあらー、雪花ったら随分庇うわねー? どうしたのかなー? ニヤニヤ」
「そ、そんな、何も、ない、です……」
なんか雪女なのに顔を真っ赤にしながら俺の方を氷堂さんが見てくる。
この子、よく見るとめちゃくちゃ可愛いな。
でもなんでだ、ポカポカ陽気なのに鳥肌が……
「さ、無駄口叩いてないで松原君とやらの弱みを探るわよ?」
「い、いやだからなんでそこまでしてくれるんです? 別に管理人欲しさにそこまでする必要なんて」
「大アリよ。だって待望の男子でしょ? やっぱり学校生活には男、男がいないと始まらないでしょ」
「いや管理人なんすよね俺? 別に俺がアパートにいたからって何も」
「あ、でも優がいなくなったら連れ込み放題なのか。じゃあやっぱりあなたいらないわ」
「いやいや極端だな」
「でも、ゴミ捨てとかゴミ捨てとかゴム捨てとかで一人は雑用がいるし、やっぱりあなたにいてもらわないといけないわね」
「ゴミの中に変なもん混じってますよ」
「あらあら、エッチな人ね? ゴムって輪ゴムよ」
「ゴミの中に入れとけ!」
ニヤリと笑う妖子さんの横で六道さんが割り込んでくる。
「やっぱ男女でいないと間違い起きないしー? 管理人と住人の禁断の愛……アリ寄りのアリかも? ニヤニヤ」
「いやいや、俺の恋路を助けるフリして襲うつもりなの?」
「一回くらいいいでしょ」
「よくない! 俺は一途なんだ」
「でもろくろ首の首ってうなぎみたいにぬるんとなるから気持ちいいんよ」
「怖いよ!」
こいつらの頭の中は何を考えてるんだ……
「そ、それなら……ナナちゃんが松原君を誘って、ホテル行く、とか、ダメ、かな?」
「いや氷堂さんあっさり友達差し出すんだな!?」
「雪花、ホテル代はあなた持ちよ?」
「いやそこ?」
なんかこの三人の関係ってのもよくわからないな。
首をかしげているその時、パンと手を叩いてゴタゴタとなる会話を妖子さんがまとめた。
「じゃあそれで行きましょう。そろそろ登校時間だから次は昼休みに中庭で待ち合わせね」
「い、いやいや何かすっかり馴染んでるけど俺たちさっき会ったばっかりだし」
「そんな小さなことを気にするなんて、さてはアソコもスモールね?」
「べ、別に普通ですって」
「じゃあチェックしてやろう」
「見てわかるんかい! じゃなくて見せるか!」
何が妖狐だこいつ。
ただの下ネタ好きな美人じゃないか。
いや待て、下ネタ好きな美人ってエロいな。
い、いかんそんなの言ってる場合じゃない。
流されるな俺。
「じゃあね」と手を振って銀髪な先輩がどこかに行くと、六道さんと氷堂さんは同じ一年の校舎に向かいだした。
「そういえば二人ともクラスは? 俺はA組だけど」
「私は隣のB組よ。あれ、雪花とクラス一緒じゃん」
「え、そうなの? ごめん全然気づかなかった」
「い、いえ、私、そんなに目立たないから……」
目立たない、とは言ってもこんなに可愛い子にすら気づかないでいたとは俺もつまらない学校生活を送ってきたもんだ。
まあ、優のことしか頭になかったもんなあ。
「雪花は普段からこんなんだもの。だから気づかなくて当然よ」
「い、いやまぁ。そういや妖子さんもあんまり目立たない人?」
「何言ってんの、あの人は2年では超人気なのよー。知らないとかまじ陰キャねー、それでも人間?」
「いや半分妖怪に言われても」
まぁあの容姿なら人気者には違いないと思うけど。
でもなんで妖怪なんかがこの学校に紛れてて何も騒ぎにならないんだ?
「とにかく、そんなんだから優にフラれるのよ?私は優と一緒のクラスだからわかるけど、あの子めっちゃモテるわよ? 松原君だって多分イチコロよ」
「うっ……」
「それに優は一度言い出すと聞かない感じでしょ?どうあれ、もう管理人の仕事はしないだろうし邪魔しても無駄だとおもうけどなー。さっさと次の恋に行けばいいのに」
「で、でもそんなに簡単に優を諦めるなんて……それに協力してくれるんじゃなかったのかよ」
「ま、妖子ちゃんはこの手の話大好きだから楽しんでるだけだろうけど管理人いないと困るのは事実だしー。協力はするから今日から仕事よろしくね」
そう言って六道さんは隣の教室へ入っていった。
そして残された俺と氷堂さんは少し気まずそうに教室に入っていった。
「あの、氷堂さんは俺のこと知ってたの?」
「え、あ、はい。いつも静かに本を読んでるなぁって、そ、それに……」
「それに?」
「い、いえ、大丈夫、です……わ、私のことは……雪花ってよ、呼んでください……」
「え、ええと…じゃあ雪花?」
「は、恥ずかしい……」
「か、可愛い……」
え、なにこの子? やっぱり可愛い。
ちょっと幼くて、でも顔は目がクリクリでハーフみたい(いや一応ハーフなんだろうけど)だし、なんか俺に対して好意的だし。
しかしなぜか教室が冷え込みざわついてきた。
「なぁ、今日なんか寒くないか?」
「ハックシュッ!ううっ風邪でも引いたかな」
「来月から夏服よね? これまだカーディガンほしいよ……」
彼女が照れると周りの気温がグングン下がって行くのはもちろん偶然ではないのだろう。
これまでもクラスで急に気温が下がり体調を崩した人間がいたような気がするが、原因は彼女だろうな。
そんな彼女に、教室ではおはようと声をかける相手は特にいない。
雪花もまた、誰にも声をかけることなく。
俺たちは静かにそれぞれの席についた。
俺の日課は読書。
とは言ってもラノベだが、字を読まないやつよりは良いと勝手に思っている。
雪花は俺より前の方の席だ。
こうやって見てみると、たしかにあそこにいたな。
今までよく気がつかなかったものだ。
彼女も何か本を読んでいる。
真面目な子なのだろうか、それにしてもあんなに可愛いのにクラスの男子の食指は動かないのだろうか?
そんなことをぼんやり考えていると、何事もなくあっという間に昼休みになった。
俺はすっかり忘れていた妖子さんとの約束を雪花が声をかけてきたことによって思い出した。
「か、甲斐くん、い、いきましょう……」
「あ、そうだったな。でもお昼は?」
「よ、妖子ちゃんがパンを、その、買ってきてるので」
人見知りなのかな、ずっとこの調子だ。
しかしどんどん寒くなる教室に耐えられず俺は雪花と一緒に教室を出た。
「でもさ、雪花は他の男子から声かけられたりしないの?」
「え、えと……私、普段は気配を消してるから……あんまり目立たないように」
「あ、そんなこと出来るんだな。でも可愛いのに勿体ないよ」
「か、可愛い!? ほ、ほんと、に?」
「いや、普通にめっちゃ可愛いでしょ?」
「そ、そんなこと、言われたこと、ないから、う、嬉しい」
雪女の顔が溶けるほど真っ赤になった。
そして俺の腕に霜がついていた。
「て、照れると冷気が出る仕組みなの?」
「ド、ドキドキすると、その、コントロールが効かなくなって」
ああそういうことかと納得するのもおかしな話だが、頭ごなしに否定していても始まらない。
一旦は彼女たちが半妖だということをわかった上で話をすることを決めた。(いちいちツッコんでいるとキリがないので)
中庭には既に妖子さんと六道さんが待っていた。
銀髪を靡かせながら妖子さんが俺たちの方へ歩いてくる。
「二人で仲良くやってくるなんて、案外優じゃなくても誰でもいいのねあなたって。節操がないわね」
「いや初対面でヤろうとしてくる人に言われたくないんですけど?」
「そんな狭い心ではやっていけないぞ甲斐君よ。あ、ちなみに私のここは狭いわ」
「だからいちいち下ネタ挟まないで下さい! 何しに集まったんですか……」
一刻も早く早く終わらせてほしい。
一人でも目立つのに、そんな美女が三人集まって俺みたいな陰キャラとワイワイしてたら何事かと注目を集めてしまう。
既に通りがかりの何人かの視線は浴びている。
「そうそう、優と松原君をゴールインさせる話なんだけど」
「松原に気持ちよくシュート打たすな!」
「あら、ツッコミが冴えてるわね? とりあえず松原君へはナナが誘惑をかけるわ。そしてホテルに誘って、一緒に入るところを優に目撃させる。出てくるところならなおよし、題して『ホテルで火照ってる』大作戦ね」
「ダジャレかよ……でも六道さんは大丈夫なのか?」
「ナナでいいわよ。それに松原君なら一回くらい抱かれても損しないしー」
「軽いなぁ」
「ふん、童貞につべこべ言われたくないわよ」
「お前だってどうせ処女だろ!?」
「童貞と処女は同列じゃないわよ?」
「いばるなよ……」
まだ三人のことをよくわかってはいないが、何となく性格は見えてきたな。
妖子さんとナナは……ちょっと頭がエロの方に行きすぎているな。
雪花はおとなしいけどいい子だ。
雪花が一緒のクラスでよかったよ。
「さて、作戦も決まったしパン食べて放課後に備えるわよ」
「すみません、パンいただきます。」
「パンツはやらんぞ」
「誰が頼んだ!」
「あ、和服の日はノーパンなんだ」
「学校には履いてきてください!」
この銀髪妖狐、本当にただの変態である。
結局ろくな昼休みではなく、また雪花と教室に戻った。
そして放課後、またしても中庭に集結した俺たちだったが、重要なことに気がついてしまったのは俺だった。
「さぁ、松茸狩り……じゃなくて松原狩りと行こうか!」
「あ、あのー」
「なんだ少年、言いたいことははっきり言うこと!」
「いや、高校生ってラブホは入れましたっけ?」
「…………よし、この作戦は一度棄却しよう」
「あっさりだなおい! で、どうするんですか?」
「明日考えよう」
「はい?」
「明日だ明日。とりあえず今日は新たな管理人の歓迎会を催すこととする!」
「はぁ?」
妖子さんが急遽歓迎会をすると言い出して「スーパーに行くぞ」と先陣を切り出した。
ノリノリなナナとそれについて行く雪花に連れられて俺達は近くのスーパーまでやってきた。
「さ、今日は鍋にでもしようかしら」
「いやいや妨害は? ほんと協力する気あるの?」
「ふっふっふ、妖狐に二言はない。あなたの為に優も誘っておいたから」
「え、優もくるんですか!?」
「もちろん、彼女の送別会も兼ねてだ。願わくば今日の席で愛の告白まで済ませてしまえば妨害工作なんて必要なくなるんだから」
「優が、くる……」
優と飯なんていつぶりだろうか。
高校に入ってからはクラスも違うから学校で話すことも減った。
今日なんてこいつらのせいで一言も喋ってないし、ちょっと邪魔なくらいに思っていたけど、案外気が利くのか?
急な話にソワソワしながら買い出しを終えてアパートに戻った。
そして共同のキッチンで手際よく食事の準備を始める妖子さんに俺は質問した。
「あの、優は何時くらいにくるんですか?」
「え、サッカー部の練習を見終わって松原君に連絡先を聞いてから駆けつけるそうよ」
「いやそれを妨害しろよ!」
え、もうそんな感じなの?
呑気に鍋叩いてる場合じゃないじゃん。
「焦るな焦るな、すぐに結果を求める男子は嫌われるぞ」
「そうそう、すぐに挿れたがる男子とはそれっきりだしね」
「焦るよそりゃ! え、どうしよう」
「ま、松原君、氷漬けにし、してきましょう、か?」
「いや殺したらまずいから」
「じゃあ腰を据えて待つのよ。大丈夫、連絡先くらいで男女の仲はそんなに発展しないから」
「ほんとかなぁ」
結局鍋の準備ができるまで優のことを考えていると気が気でなく、和気藹々とする三人、いや三妖の様子など見向きもせずただ時間が過ぎていった。
俺の街にやってきた半妖美女たちは、なぜかラブコメを欲して止まない 天江龍 @daikibarbara1988
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