第2話 GO TO TOKYO

― 平成6年 ―


夢を抱いて出てきた東京。

西武新宿線 上石神井駅から徒歩10分。

6畳ワンルーム、ユニットバス 家賃65000円。管理費2000円。

この管理費、何を管理しているのか分からないくらいポスト回りも汚すぎる。

お願いだから2000円分は管理してくれと願う俺。

そんな住まいが俺の城だが、狭くて家賃が高すぎだ。恐ろしいぞ東京。

これだけ払えば俺の地元なら3LDKが借りられる。

でも、そのアンバランスさがある意味流石のトーキョーだ。

まさしく、NO TOKYO NO LIFE・・・。

_____


テレビで見ていた通りの人だらけ。

― 渋谷スクランブル交差点 ―

主要な駅は人だらけ。ゴミだらけ。

歩いていて人とぶつかる事って初詣くらいだった俺にとっては、

あまりにも衝撃的だった。

東京の人間は皆、謝るって事を知らないのか?

俺なんか、謝る事しかしてこなかったからぶつかる度に謝ってしまう・・・。

世の中で一番「ごめんなさい」と「すいません」が上手く言える男、それが俺。


茨城と違い、人混みを見ているだけで目は回るし、気持ちが悪くなる。

空気もまずいというか臭すぎる。

よくもこんな臭い空気を吸いながら笑顔で歩けるもんだ。


でも、それが憧れの東京だから仕方がない。

俺も意味もなく一人笑顔で歩き回る。間違いなく不審者そのものだ。

______


高校卒業後、4月から練馬にある電機関連の小さな会社に就職が決まった。

職種は営業。もっとも苦手な職種だが、ここしか内定がもらえなかった。

正直、高校時代はコミュニケーションというものを一方的にされていた俺にとって、商品を売り込むという営業が出来るのかどうか不安しかなかった。

上京して早々、俺の家に来た新聞配達員に定期購読を勧められ、仕方なく半年だけ取る事に。その配達員に対して営業が上手いと感じた。これも何かの縁だ。

ティッシュペーパーを沢山貰い、なんだか東京優しいな、と思った俺もいた。


おっと、そんな事は二の次だ。とにかく東京が俺を待っていた。

入社から1カ月以上が経ち、社内は和気藹々として笑顔で溢れ、皆で仕事の後はいつものご飯屋さんに行く。

カウンター越しに料理を作りながら楽しい会話を提供してくれるマスターとは仲良くいろんな話で盛り上がる。アルバイトで働くいつもの女の子も常に笑顔で接してくれる。時には「またー、広瀬さんたら!」とか言って肩とか叩かれたりしてちょっと照れ笑いの俺。そして会社の意中の女子社員と見事付き合う事になる・・・みたいな、

俺の妄想と夢のような東京での出来事は全てドラマから頂いたものだった。


トレンディードラマの見過ぎだった・・・。

そんな事を夢見ていた俺だが・・・、現実はかなり違っていた。


いまだにパワハラのような発言をする直属の上司。

背中越しに捨て台詞のように言ってくる発言は見ていたドラマとぴったりだった。

そして、ひそひそ話や噂話が好きそうな女子社員達。何となく俺に向けている悪口にしか聞こえない。かなり被害妄想だ。

さらには冴えない感じだけど先輩風を何となく吹かしている1つ上の先輩。

少数精鋭と言えばカッコいいが、精鋭ではない。どちらかというと俺を含め弱小な感じが見ただけで分かる。

何よりも、この会社の人達は「いじめ問題」ってものを何も知らないらしい。それとも無知なのか?あるいは、ニュースを全員見ていないのか?というような化石のような会社だ。本当にここ東京ですか?と、疑いたくなるくらい時が止まっている。

まあ、高卒の俺が入れる会社がほとんど無かったのも事実だ。仕方がない。

そうだ、俺の夢は金持ちになる事でもなく、有名になる事でもなく、過去を捨てて、新しい自分を手に入れる為に「東京」に来ただけだったから文句は言えない。

思い描いていたような会社内でのランデブーは諦めよう。

それでも最初の望み、「地元からの脱出」は成し遂げた。

これからが重要だ。過去の自分が経験出来なかった煌びやかな人間関係を手に入れるんだ。今はそれしか頭に無いのが正直なところだ。

そうだ、とにかく出会いを求めよう。

会社ではなく、他にきっと俺を待っている場所があるはずだ。

と、思っていたが、俺は何をしているんだろう。

今まで住んでいた茨城から出てきて、人生を180度変えるつもりだった・・・。

変える・・・。そう、Change!いや、絶対にそうなる予定・・・だった。

結局、変わるどころか、たった一カ月で、よりバージョンアップして俺の人生は孤独感が・・・。そんなはずはない。”錯覚?”それとも”既視感?”、”デジャヴュ?”

何なんだ。早く抜け出さないと。俺の孤独無限ループ地獄から。

信じろ、まだ始まったばかりだ俺のニューライフ。そう、俺はシティボーイになるんだ。俺はまだまだいけてる昭和51年生まれの18歳なんだ。

待ってろ、俺の華やかな人生よ。夢見ろヤングボーイ!お前の求めるモノが沢山詰まった場所、それがビックシティ・トーキョーなんだから。

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