第40話 先輩と桃香は違うんです(夢花桃香視点)
◇◆◇◆◇
突然、治ったと思っていた黒い痣が浮かび上がり王子マリスティアが倒れた。
そうなれば神子の仕事どころではないとなり、王子が運ばれた医務室に一緒に運び込まれる。
桃香に課されたのは王子の治療。最優先事項だそうだ。
気怠げに小鳥に命令する。
「小鳥くぅん、はやく王子様治してくれるぅ?」
小鳥は前回のように近付いて、手をかざす。
「ボクが出来るのはここまでだよ」
浮かび上がっていた痣が消える。これで大丈夫だよね? なのに、彼は動く気配が全くない。
「何で起きてくれないのぉ!? ちょっと、小鳥くん!! どうなってるのよぉ!!」
「これは原因が守護神獣から流れ込んでる。こちら側だけ治しても意味がない」
「何それぇ。でも前はこれで目を覚ましたじゃない。また時間を置いたらいいんじゃないの?」
「……駄目だと思うけど」
「いいから、何とかして!」
桃香のこれからがかかってるんだから、しっかりやってもらわなくちゃ。
「モモカ様、どうですか?」
「あー、ちょっとまた時間がかかるみたいでぇ。でもほら、体の黒いのは消えてますよぉ。だから、もう少し待ってれば、……桃香疲れたんで少し休んできていいですかぁ?」
向こうに意味が伝わらないように小鳥とは日本語で話す。見守ってる人間に説明する時は魔法【言語通訳】を使って。
「わかりました。あとはこちらでマリスティア殿下の容態を見ます。モモカ様はお部屋でお休み下さい。何かあればお呼びします」
「じゃあ、そうしますねぇ!」
ヒージェを伴って部屋に戻る。
「席を外してもらえますかぁ?」
中にいたメイド達も部屋から追い出し、小鳥と二人きりにする。
「で、どうすればいいわけぇ? 先輩が殺されたくないならはやく何とかしなさいよ」
「だから、守護神獣側をなんとかしないと――」
「それって、本当にぃ? 嘘ついてない? 先輩死んじゃいますよぉ」
「嘘じゃない。だから、殺さないで」
嘘じゃないならどうしたらいいんだろう。桃香が探しに行かないといけないの?
王子の神獣は桃香達がいたあの森の中に飛んでいってしまったと聞いている。ここに来る途中だって真っ黒な神獣達に何度も襲われかけたあの森にもう一度?
そんなの絶対に嫌だ。
一度は目覚めたんだから、きっともう一度くらい目覚めるはずよね。
ノックの音が響く。
「誰ぇ? 桃香、今は誰も中に入らないでと言ったんだけどぉ」
「申し訳ございません! ですが、緊急事態でして! 城の目と鼻の先で黒い神獣が暴れていると報告があり、神子様のお力でどうか鎮めていただけませんか!?」
「……」
もう! なんなのよ。桃香は先輩みたいな頼まれたら何でもこなす便利やなんかじゃないんんだから。
何で知らない場所で、知らない人の為に働かなきゃいけないわけ? 知らないわよ! でも、何もしないとここから追い出されるのかも。まだお礼の品物やお金は受け取ってない。高待遇も一日しか受けてない。
まだまだなーんにももらってないんだから! もっともっと貰わなきゃ。
「ねぇ、小鳥くん。桃香のかわりに見に行ってくれるぅ?」
「……わかった」
「あっ、逃げたらどうなるかわかってるよねぇ?」
「わかってる」
桃香は椅子に座り小鳥に手を振る。小鳥が外に出るため部屋の扉を開く。
ノックしたのはヒージェだったようだ。
「モモカ様?」
「桃香はぁ、王子様が心配なのでここに残りまーす。桃香の小鳥くんが行ってくれるから連れて行ってあげてぇ」
「わかりました!! 行きましょう」
「よろしくぅ。あ、メイドさぁん! 桃香、ドレス着替えたいんだけどぉ! いーーっぱい持ってきてくれる? 汗かいちゃってぇ、ベタベタするからぁ」
外に控えていたメイドは一斉に動き出す。その間をヒージェと小鳥が駆けていった。
部屋にある大きな窓から外を見る。
大きな姿になった小鳥が空を優雅に飛んでいくのが見えた。
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