第39話 アリステアの神獣①
アリステアの神獣の蛇が大きくなってる。グミほどじゃないけれど、子どもくらいは飲み込めるんじゃないかってくらい大きくて、体長も胴体半分ほどで立ち上がれば確実に私の背丈より高くなる。
「はよ、店から出ぇ!!」
「でも!」
「いつものウチのコやないのわからんか!? ソラっち!」
アリステアの指示にソラが従い私を店の外へと手を引いて連れ出す。アリステアもすぐに外に飛び出した。入り口を閉め、扉を押さえる。
「アリステア、下がれ。そこは危ない!」
「でも、ラヴィが外に出てもうたらどうなるんや!? いなくなってしまうんか? そんなん、イヤや!!」
アリステアの気持ちも虚しく店の横の窓が割れる。蛇の尻尾が窓からだらりと垂れていた。黒い尻尾がスルスルと中に戻っていった次の瞬間真っ黒になったアリステアの蛇、ラヴィの頭がニョロリと出てきた。そのままずるりずるりと全身が出てくる。
「きゃあああああああ!」
「黒獣? いや違う! 全身黒いぞ!! まさか、逃げろッ!!」
「神獣を隠せっ!!」
店の近くにいた人々が叫びだす。逃げ出す者もいたが叫び声に反応して次々に野次馬も遠巻きにだが集まってきていた。
これじゃあ【温泉召喚】が使えない。店の中にいるうちに温泉召喚出来ていれば……。アリステアに知られるだけで済んだかもしれないのに。
「ラヴィ。どうしたんや。はよ、小さなって――」
ダンッと大きな音を立てラヴィが尻尾を地面に叩きつける。
「アリステア、離れろ。ラヴィは今お前を傷つける可能性が高いんだ!」
「ない! ラヴィはウチの大事なパートナーなんや! 絶対そんな事――」
「やっぱりだ!! 黒獣が正体を現したぞ!!!!」
私に詐欺を働こうとしたパン屋の男が大声を出していた。まるでまわりに同意でも取るように目配せしながら大声で話し続ける。
「怪しいと思っていたんだ! 何でも屋とかいう出鱈目な商売のくせに城から直接仕事をもらえるなんてな! 何でも屋アリステアは黒獣の国と結託してこの国を陥れようとしてるんじゃないのか!? だってよお! 王子殿下の神獣が黒くなった日は城にあるモノを納品するって言ってた日だったよなあッ!?」
「それはッ――――」
アリステアが口を
「ほら、見ろ! 言えないんだろ! 黒獣の持ち主がこの街でデカい顔してるのが気に入らなかったんだよ! 正解だったなあ! 見ろ! あの真っ黒になった神獣を!! アレが証拠だああああ!!」
「違う! ラヴィは、今日やるつもりの箱を開けたら、黒い羽が飛び出してきよって――。ウチを庇おうとしてっ!!」
ラヴィの左頬に黒い羽が刺さっている。あそこから広がったんだ。アリステアの言葉は間違っていないと思う。だって、目の前で傷からどんどん黒くなっていくライを私も見ているから。
「黒獣黒獣って、あなたの心の方が真っ黒でしょ!! 黙っていてください!!」
あまりに言い方がムカムカしてしまい、パン屋の男に私は叫んでしまった。そして驚く。私ってこんな風に叫べるんだ。会社では他人からの評価を気にしてこんな事言えないけど。そっか、今は私の知ってる人がいないからだ。
「ああん? なんだおま……」
パン屋の男が私と、その横に立つソラを見て驚く。目が飛び出……しはしないけど大きく見開いて、顔色が一瞬で蒼くなる。
「――――ッ! 神獣が黒くされるぞ! 皆逃げろ!!」
一目散に逃げていくパン屋の男。ご立派なヒゲの一本でも抜いて涙目にしてやろうかしらと思ったのに。でも、今は、そんな事やってる場合じゃないよね。
「何でや! 何でウチらばっかりこんな風に言われなあかんのや――。ウチらが何したって言うん? 何が悪いんや!!」
アリステアが悔しさで拳を握りしめている。その力があまりに強すぎるのか爪が食い込んだようだ。ぽたっと血が地面に落ちた。
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