第38話 可能性を探しに!

「ここが魔法を付与してくれる(かもしれない)お店ですか?」


 あのあと戻ってきたソラは私を先に連れて行きたいと、あのお願いしていた魔法の服の作れるお店に向かった。道すがら聞いた話では、再び倒れた王子殿下の治療に神子があたっている。けれど目覚めないし、どうするか話し合ってるみたい。私の事を言おうと思ったけれどずっと殿下のそばにいる人達の前で温泉召喚させるのは酷だと思いやめたそうだ。

 ありがとうございます。確かに、「見ない」と言って顔をしっかり背けてくれるソラや倒れて意識がない王子殿下だけならまだしも不特定多数の前では抵抗がある。やって見せろと言われても見せられないのよ。この魔法は!!

 なので、やってきました。温泉召喚しても服をきたままでいられるかもしれない可能性!

 ソラが慣れた足取りで店の前に立つ。


「そうだ。オレの知り合いがやってる」


 ソラが先に入ろうとしている店は、ちょっと前にお世話になったアリステアがやってる【何でも屋アリステア】だった。え、あの人が気難しい? 気さくそうな人だったけど。


「ここきたとこだよね」

「だよナ。見覚えあるゾ」


 ライ達も言ってるから間違いなさそう。ソラの後ろについて中に入る。


「いらっしゃい」


 ほら、この声。笑顔で迎えてくれるアリステアが――。って、えええ?

 店番としてカウンターにいたのは、アリステアで間違いないのだけど、目が違う。人を殺せるんじゃないかってくらい睨んでる。すべてが嫌そうな顔。こんな顔で商売って出来ないでしょ!? どうしたの? 何があったの!?


「赤獣の神子の服やったら何度きてもお断りやで。いくらソラっちのお願いでも」


 え、服お断り? まだ何も言ってないのにまさかこの人心が読めるの!? でも、あれ? 赤獣の神子って……。


「って、あれー? お嬢ちゃん達やん。さっそくいらっしゃいかいな? さ、入って入って。ソラっち、後ろの人が先や。どいてどいて」


 ん? え? アリステアの態度が急に軟化する。目も「遊びにきてなぁ」と言っていた時のものになっている。


「アリステア、オレが頼みたいのは……この人の――」

「え? 違うん? なんや、それやったらはよ言うてくれたらいいのに。あーなるほど、あのお金の出どころはソラっちってわけか。どうりで」

「ユウカ、知り合いなのか?」


 突然話を振られ急いで顔を縦に振る。


「そやでぇ、ウチがカッコよく現れてお嬢ちゃんの危機を救ったんやからなぁ!」

「あの、私が食べ物を買う時にあのお金を使おうとして、お釣りを騙されそうになって」

「なに、どこだ!?」

「大丈夫です!! アリステアさんに助けてもらってきちんとした値段にしてもらってオマケまでつけてくれたので」

「そうか、でも――」

「ソラっち、こっち商店通りのことはウチらでするからさぁ。城の中の方をもうちょっと見ときよぉ。昨日からさぁ、神子様が再来したかもしれないって言ってウチに最高の防御魔法と能力強化魔法を何着もドレスに付与しろってうるさくてさぁ。付与にどれだけ力使うのかわかってないやろ。ウチ殺す気かって。一年に十回までって言ってあるのにさぁ。もう使い切ってるでしょ? 今年の分。なのに、二度も三度もやってきおって、しまいには物まで置いていきおった。一着くらい明日までに作れるだろってさぁ」


 アリステアがクイッと指差した後ろには箱が積まれていた。

 ああ、それであんなにすごい顔してたのかな。これ以上付与を頼まれるとアリステア達が死んでしまうらしい。なら、どうしようもないのではないだろうか。


「う、それを言われると……。だが、この人の分は」

「え、まさか付与の依頼やったん? やったらお嬢ちゃん、ごめんやけど無理やわぁ。ウチの子の脱皮がすむまで待ってくれん?」

「えっと、脱皮?」

「そや、ウチら付与する時に反動でケガするんや」


 アリステアが着ていた服の袖を捲ると傷あとだらけだった。アリステアの神獣の蛇君も頭を持ち上げ体の傷を見せてくれる。痛々しい。


「ウチはまあ我慢出来るけど、こっち神獣の傷は深くてね。数回脱皮したらマシになるからさ……」

「痛みと引き換え――。ソラ、無理に頼むのは」


 流石に人様に怪我をさせてまで服を作ってもらうなんて出来ない。それで死んでしまうなんてもってのほかだ。


「だが、しかし……」

「私ならレベルアップ頑張ればもしかしたら自分でなんとか出来るかもしれませんし」

「そうかもしれないが、その時間がないかもしれないんだ……」

「そんなに、……なんですか?」

「わからないが嫌な予感はするんだ」


 これはいよいよ覚悟を決めなければいけない時かもしれない? もしかして、人命がかかっていたり? 王子殿下の……。うう、人命の前には私が恥をかく事なんて軽すぎるよね。


「なんや、深刻な話? あー、聞きたない。聞いたらきっと……。ソラっち悪いけど外に行ってくれん? お嬢ちゃん、ごめんなぁ。そんなわけだからさ、ウチは受けれそうにないねん」

「いえ、大事な子の傷は見たくないですよね。失礼します」


 私だって、ライが傷ついた時血の気が引いた。何度もあんな目にあわせるなんてしたくないよ。


「すまない」


 店から出てすぐにソラが頭を下げてきた。


「謝らないで下さい。なんとか、ソラと私達だけで王子殿下には会えないんですか?」

「今は無理だろう……。神子とその神獣がついているからな」

「……そのやっぱり神子の神獣ってことは」

「神獣は赤い髪の少年だった。もとは赤い鳥の姿だったらしい。神子と言われている女性の名前はモモカ。ユウカの言っていたコウハイと同じ名だった」

「それで、迎えにはこれないわけだったんですね。なるほど王子殿下につきっきりにされてたんじゃあ、これるわけないですね」

「……それが」


 ソラが何か言おうとしたその時、店の中から声が上がる。


「な、ラヴィ? どうしたんやッ!?」


 アリステアの声を聞き、クーが耳をピンと立て警戒態勢をとった。

 ソラと私達は再び店の中に入る。


「入ってきたらアカン! これ、たぶんいま広がってるヤツや!」


 アリステアの神獣の色、元から黒かったけれど白色だった腹側まで黒くなっていた。


「ユーカ! あの子」

「あれは元の色じゃナイ。一緒ダ! 他の神獣達ト!!」

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