第37話 お城の中に入るために?
「あまりくつろげないかもしれないが」
ソラに勧められるままふかふかのソファに腰掛ける。ライも横にちょこんと座る。
「くつろぐくつろげない以前に気になる事があるんですが」
連れてこられたのは第一近衛騎士団の団員舎。ここはその中の一番いい団長用のお部屋みたい。しかも立地場所は城内の一角。近衛って言うくらいだしお城の中にあるものなのよね、きっと。高そうな調度品の数々に、壊したらいくらだろうと庶民の私は震えるばかり。正直に言えば緊張しすぎてくつろぐなんて無理。
でも、この緊張の原因はそれだけじゃない。
「どうした?」
「その、さっきの……ごにょごにょ」
「すまない、聞き取れなかった。もう一度言ってもらえるか?」
「その、…………婚約者っていったい何なんですかっ!?」
「ああ!」
ああ、じゃないんですよ。城門を通る時、ソラってば私の通行許可証を見せながら言ったのよ!
『その方が?』
『そうだ。婚約者だ』
城門の人とソラが確かにそう話して、そのあとどうぞって中に入ってここにきたのよ。
婚約者? 婚約者ってどういう事なの? 私まだ誰とも婚約なんてしてない。むしろ男の人と付き合った事もないんですけど!? 絶賛運命の人探してる最中です!!
「城内に入れる為には恩人程度じゃ神子の安全を優先されると思って、オレの婚約者だと言ったんだ」
言ったんだ(キリッ)じゃないんですよ!?
「なんでそんな嘘を――」
「外だとどうしても守りが薄い。ここならオレの部下達が居てくれるから安心出来るんだ。守るって約束しただろう。駄目だったか?」
「あ、それは……なるほど。そういう事だったから」
確かに守るって約束してくれて、ソラは一番安全を考えてここに入れるように考えてくれてたんだ。つまり、全然意識とかしてくれてるわけじゃなくて――。
「わかりました。それならよろしくお願いします」
「ああ、ここなら第二近衛のヤツらはそうそう入ってこられない。オレは今からカイの事を報告しにマスターの様子を確かめてくる。オレがいない間に色々と起こっていたみたいなんだ」
「あの、もし調べられるならなんですが、桃香がここにきていないか確認出来たりしませんか? 私を牢に連れて行った人が桃香を連れて行った人と同じ格好だったんです」
「そうか、なら――。わかった。そちらも確認してこよう」
「よろしくお願いします。えっと……」
「ん、まだ何かあるのか?」
「ソラスティア団長と呼ばれていたから、そちらの名前で呼んだほうがいいんでしょうか?」
ソラスティアが正式なお名前ならそちらで呼んだほうがいいのではないかと、会社勤めの私が気になってしまった。
「いや、ソラのままでいい。そちらの名前は堅苦しい」
「そうですか、ならそのままで」
自分の名前が堅苦しいとは、何か理由でもあるのだろうか。でも、ソラがそのままでいいと言うのならそうした方が彼にとってはいいのだろう。
ここで小さくなってソラの足下に座っていたクーがピクリと顔を上げた。クーはグミ達と違ってこちらが変身した姿らしい。子犬の様な愛くるしさがあって可愛いすぎる。抱っこしてみたいけれどライから圧のようなモノを感じて言い出せていない。
クーは室内ではこの姿になるそうだ。体の大きさを変えられるなんて神獣ってすごいなと改めて思う。そして気がついた。黒くなっていた小さな神獣達が突然大きくなっていたら危なかったのではッ!?
私の驚きをよそにクーの小さなお耳が動いてる。それとソラに前足をくっつけていた。何かを知らせるように。
コンコンコン
ノックする音が響き、ソラがすぐに応える。扉を開け二人の男が中に入ってきた。
「ソラスティア団長大変です!」
「なんだ?」
かなり焦った二人は私の顔を見ながら言うかどうかを目配せしあってる。
「気にせず話せ」
「はっ、殿下が再び倒れました。現在、神子様による治療を施されているところですが、ソラスティア団長を部屋に呼んで欲しいとユナー団長が」
「そうか、わかった。クラウはともに来てくれ。レインはここに残り、ユウカの事を守ってくれ」
「わかりました!」
「わかりました! って、え?」
「ユウカ、すぐ戻るからここにいてくれ」
入ってきた二人のうち一人を置いてソラが出ていく。残されたレインという男は少し困りながらもお辞儀してきた。
「レインです。団長が戻るまで護衛します」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「…………」
「…………」
いきなりだったので困ってしまうよね。共通の話題なんて思いつかないだろうし。それどころか全然知らない人間の護衛を任されるなんて。
「あの、良かったら一緒にお茶して待ってます?」
「は、えっ!?」
「今コーヒー淹れますね。インスタントですが。キャンプ」
「えええええええ!?」
面白いほど驚きを隠さないレイン。かなり顔が幼い。まだ10代ではないかと思う。
「ココアとか甘い方がいいですか?」
「僕はココアがいい!」
ライが元気いっぱい答えた。いま聞いてるのはライじゃないんだけどね。
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