第35話 先輩がきた?(夢花桃香視点)

 ◇◆◇◆◇


「先輩がきたみたいだよ。小鳥くん」


 豪華な装飾品の数々で彩られた部屋の中。赤い髪の男の子に桃香は笑いかける。


「でも、桃香がぁお願いすればいつでも殺せるみたいだよ。だからぁ、わかってるよね? 桃香の言う事ちゃんと聞かないと先輩死んじゃいますよ」

「それはダメ!」

「あ、やっと喋ってくれた。もぅ、全然話してくれないから桃香の勘違いだったのかと思った」


 城に連れてこられて、王子を治してくれと言われた時、桃香は焦った。どうすればいいのかさっぱりだったからだ。

 小鳥に助けてってお願いしたら、今の男の子の姿になった。男の子は王子に近付き魔法をかけた。黒く染まっていた王子の体から黒痣はすっと煙のように消え去る。だけど、見た目は元通りなのに目を覚まさなくて困っていた。その日は、一度部屋から出されてそれなりの扱いを受けていた。

 次の日、王子は突然目を覚ます。それからの扱いは比べ物にならないくらいに丁重になった。笑いが止まらないほどのお姫様扱い。本当、気持ちいい。

 この小鳥さえ言う事を聞いてくれれば、桃香はずーっとこの扱いを受けられる。だから……。


「先輩の事、死なせたくないよね? ならぁ、桃香の事しっかり手伝ってよ」

「……わかった」


 はあ、でもめんどくさいなぁと桃香は思う。いちいち先輩の事を言ってから言う事を聞かせないとダメだからだ。ただの小鳥だったら餌でもあげてれば懐くと考えていたのに違ったから。

 外からノックをされた。桃香は自分の髪を一撫でして応える。自動で魔法【言語通訳】が発動してる。ということはこの魔法が必要な相手。この国の人だ。


「なんですかぁ?」

「モモカ、神子の仕事をお願いしたいのだが」

「はぁい。今いきますぅ」


 桃香が治してあげたこの国の王子様。マリスティア・スナンザーク。銀色の長髪、青い目の彼は顔はいいけど、病のせいか、男らしくなくか細くて頼りなさそう。桃香の好みではない。桃香の好みはやはり浪野のように背が高くがっちりしてて守ってくれそうなイケメン――。同じ銀髪なら黒い犬から桃香を助けてくれたあの男の人とかもなかなかいい感じだったな。王子様も病気が治ったなら……とも思ったけれどまわりが言うには彼はもとからこんな感じだったみたい。


「でもぉ、優しいし言う事聞いてくれるし大事にしてあげないとね」


 なんたってこの国の王様になる人なんだから。

 そうだ、先輩はどうしようか。桃香が放置してもいいって言ったのにやはり一緒にと迎えが行った時は焦ったけど、先輩ってば何か面白い事をしていたみたい。あれは魔女ですってユージュが言ってきたから、


「そうなんですぅ。先輩は桃香の好きな人を奪おうとしたり、力があって愛されている桃香に嫉妬して……うぅ。あなた達にあの時出会ってなければ今頃――」


 なーんて言ったら、面白いくらい信じてくれたっけ。

 第一近衛騎士団の団長が森から連れてきた【ユウカ】という女性を入城させてくれと申請してきたって情報が回ってきたから捕らえて欲しいと言ったらすぐに動いてくれたし。これで、先輩はここに近付けないよね。


「ユウカ……」

「先輩はここにはいませーん。はい、行くよぉ? 小鳥くん」

「……」


 先輩が桃香のもとに行けって、助けろって小鳥に願ってくれたから桃香の言う事を聞いてくれる。だ、か、ら、先輩と小鳥を会わせたら駄目なんだよね。この立場に立つのは桃香なんだから。

 先輩は遠くでうらやましがっててくれると桃香嬉しいな。

 先輩のもの、先輩のものになる予定のものぜーんぶこの魔法【奪取】でもらっちゃうんだから。

 赤い髪の男の子の首には【奪取】の証の黒い蛇のような首輪模様。あーぁ、浪野の首にもこうやって印がつけたかったなぁ。あの時のあの男にも……。

 くすくす笑いながら扉を開ける。外で待っていた男に最上の笑顔を見せた。

 第一近衛騎士団の団長かぁ。ユウカなんて呼んでるということは、二人は一晩で親しくなってたりするのかなぁ。そっか、今度はその人を盗ればいいのかな。ねえ、先輩?


 ◇◆◇◆◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る