第33話 牢キャン始めました。
かなり離れた場所まできてしまった。ソラはまだ私達を探し始めてはいないだろうか。
「あまリ心配しなくていいダロ」
「でも、ここまで遠いと探すのは大変じゃない?」
耳元にいるグミに話しかける。珍しくライの腕から離れて私の肩に乗っているのだ。ライがあちこちパタパタ走り回るのが気に入らなかったのだろうか。
「あっちハ鼻の利ク神獣がついてるダロ」
「ああ、そういえば」
「すぐニ見つけるダロ」
「そうだといいのだけれど……あれ?」
さっきまでそこにいたライがいない。一瞬しか目を離してないのにいったいどこに?
「ライ! ライー!」
呼んでも返事がない。どうしよう。こんな人混みの中で迷子になってしまったら――。ライは鼻は利かないだろうし、戻ってこられないのでは!?
「どうしようグミ! ライが、ライがぁぁ」
「まったク。世話が焼けル」
グミが地面に降り、ほんの少し大きくなる。私もよく知る通常の蛇サイズ。これならまわりの人にも驚かれないかな。
「探してくル。ユウカは動くナヨ」
「え、でも」
「ボクは犬ほどは遠くノ匂いヲ追えナイ」
「わかった。お願いね、グミ」
また異世界で一人ぼっち。話し相手がいない寂しい状況に少し戸惑ってしまう。なので、無事に二人が戻ってきますようにとお祈りする。
さっそく願いが叶ったのだろうか。後ろから声がかけられる。
「ユウカ――」
「グ……ミ……?」
名前を呼ばれ後ろを向くと見知らぬ男性。でも、何かが引っかかる。そうだ、この男の格好見たことある。桃香と一緒に行ってしまった三人のうちの二人が着ていた鎧だ。ということは、桃香の事を知ってる人なのかも。
「もしかして桃香の事知ってる人ですか?」
「見たぞ! 魔女。いま自分の神獣を街に放ったな!? いったい何を企んでいる!! また災いを振りまく気か!!」
「え、魔女? 災い? 何のことですか」
「神子様のところには行かせない。私達がお守りする!!」
「え、え? あの、いったい何のことですかああ!?」
もう一人同じ格好の男が現れ、二人がかりであれよあれよという間に手に縄をかけられて引っ張られる。せっかく買ったパンが地面に落ちてしまう。ああ、もったいない。まだ全然食べてないのに。
というか、まさか異世界でお縄になんてどうしてこうなるのよ!? 私、何も悪い事してません!!
だけど、今は全然話を聞くような雰囲気でもなくて……。二人とも帯刀してるし歯向かったら殺される?
さっと背筋が寒くなり、私はただ二人に連れられ歩くしかなかった。うう、街の人達の視線が痛い。きっと、何かの間違いでちゃんと話せば何とかなる……よね。
グミ、ライを見つけて合流出来てるといいな。二人ともちゃんとソラに見つけてもらえるかな。
自分の心配より、小さなライ達が大丈夫か。それが心配でしょうがなかった。
「しばらくここにいてもらう」
連れてこられたのは留置場みたいな場所……なのかな。牢屋っぽい鉄格子のある部屋に放り込まれる。テレビでしか見たことないような光景。私このままどうなってしまうのか。
先ほどの二人のうち一人がどこかに行ってしまう。私を魔女だ災いだと言った方だったから少しホッとする。もう一人の方が大人っぽいし話を聞いてくれそう。
「あ、あのー……」
「なんだ魔女?」
あ、ダメだ。こっちの方が私を見る目がかなり据わってる気がする。私、何もしてないんだって。ちょっと黒くなった神獣達をグミに捕獲してもらって、お風呂に沈めて、きれいにしたくらいで――。よくよく考えるとちょっとひどいような気がしなくもない……。レベルアップのためにけっこうな数の神獣をお風呂に沈めたわ……。そういえば……。でもあれはあくまで黒くなる奇病から救う為であって、決して楽しんでいたわけでは――。
ただ、確かに傍目から見ればなかなかの光景に見えそうだ。
「いえ、何でもありません……」
すごすごと引き下がり、壁際に座る。硬くて痛いので何かしきものが欲しくなる。……でもなぁ。
「お前はモモカ様の
「はあ、そうですね」
確かにあの時、出会っていなければ2人揃ってどこかで野垂れ死にしてたかもしれない。それは確かだわ。
「認めたか、魔女」
「その魔女ってなんですか。私は――」
ん、待てよ。魔法が使えるなら魔女なのかな? なら、私はいま魔女ってこと? んん?
「何を話している。さっさと行くぞ」
「あ、ああ」
もう一人の男に呼ばれ話していた方もどこかに行ってしまった。少し離れたところに見張りの人が立っているだけになってしまった。
「あ、しまった。桃香の事せっかく知っていそうな人達だったのに――」
失敗したなと後悔する。まあ、でもモモカ様と言われているくらいだ。きっと彼女は丁寧に扱われているんだろう。それに比べて私は……。はあああああと大きなため息をついた。まあ、悩んでいても仕方がないよね。とりあえず、腹ごしらえしよう。さっきからお腹がなりっぱなし。腹が減っては戦はできぬ!
「キャンプ!」
私はリュックサックを呼び出し、誰も経験したことなさそうな部屋キャンならぬ牢キャンを始めた。
ここなら別に黒くなった神獣に襲われるなんて事もないだろうしゆっくり出来るね♪
たぶん、この時の私はきっとやけっぱちになってたんだと思う。
キャンプファイヤーまでしたら流石に怒られるかな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます