第32話 困ったパン屋と何でも屋
「これがおいしそうだよ。ユーカ!」
ライが目星をつけたのは、つやつやしてこんがり焼けたパイ。中身は何だろう。
「いらっしゃい。全部
恰幅のいいお髭が決まってる店主さんがポーズを決めながら近寄ってきた。肩の上には丸くて小さい、一部に赤い羽が生えてる鳥。丸すぎて飛べるのかなとちょっと心配になるけれど、店主と同じ様にポーズを決めている。可愛い。
「ユウカ、こっちも
グミはライと違ってシンプルそうなパンに顔を向けていた。
「あの、これはどんなパンですか?」
「ん、んーお客さん、お目が高い! こちらただのシンプルなパンに見えますが実は中にたっぷりの炒め細切り肉が入っておりまして一口食べればその味の
へー、肉まんみたいなものかしら。
「じゃあ、こっちは?」
「あー、お客さん。流石ですね。そちらは超高級フルーツ「赤実」の砂糖漬けをふんだんに使った重ね焼きパイでございます」
ふむふむ。グミはお肉、ライは果物に惹かれるのか。いつも一緒にいるのに好みは全然違うんだな。
「こちら2点ご購入でよろしいでしょうか」
「え、あ、はい。えっと、お金――」
ソラから手渡された硬貨を二枚渡してみる。
「えっと、これで足りるんでしょうか?」
「…………お客さん、この国の住人じゃないの?」
「あ、はい。きたばかりでして何も分からなくて。すみません、足りませんか?」
「いやいや、大丈夫。これでちょうどだから。はい、商品」
店主はばたばたと紙袋を用意して二つを包み入れてくれた。
「ありがとうございます」
お礼を言って受け取ろうとした時だった。
「ちょーっと待ったぁ! 店主さんそれは駄目でしょうぅ?」
何だろう。桃香みたいな話し方だけど低くて格好いいよく通った声。振り返るとベリーショートの中性的な人物が立っていた。いったいどっちなのだろう。格好いいし背丈もあるけど、声は女性っぽくて、どっち?
「お嬢ちゃんも騙されたらあかんでぇ。このお金あったらこの店の商品全部買ってもお釣りがくるからなぁ」
「ええ!?」
「ななななななな、なんのことだ」
「これのことだよぉ!」
声の主が店主の商品を持ってない右手をがっちり握るとさっき渡した硬貨が二枚音を立てて落ちた。
「ちゃんとした代金にしないと、然るべき場所に告発しちゃうよぉ? ここで商売できなくなるよねぇ」
「す、すみませんでしたああああああ!!」
叫びながら店の奥に入った店主が硬貨の一枚と追加で銀色の硬貨が数十枚入った袋を渡してきたので受け取る。商品袋にも違う種類のパンがいくつも詰め込まれていた。
「あの、これは」
「サービスです。もらってくださいいいいいい」
「やって、もらっときなぁ。お嬢ちゃん」
「え、あの、はい」
お兄さんなのかお姉さんなのかわからないその人がククッと笑いながらそう言うのでとりあえずお釣り(?)をもらう。店主は壊れた人形みたいにペコペコ何度もお辞儀していた。
「じゃぁ、気ぃつけなぁ。お嬢ちゃん。カモにされんようになぁ」
って、はや!? もう2軒先位まで歩いていってるその人を追いかけた。
「あの、もしかして助けてくれたんですか?」
追いかけて引き止め聞いてみる。
「だって、お嬢ちゃんあまりに世間知らずそうやったからなぁ」
「ありがとうございました。えっと」
「あー、ええよぉ。ウチはこの辺に店構えてる人間やから、治安ようおってもらわな困るから声かけただけやしぃ」
「でも、お礼をちゃんとしないと」
「気にせんでもええのに。同じ黒獣の神獣持ちやん?」
「え?」
「お嬢ちゃん達の神獣、蛇なんやろぉ? ほら、ウチも」
黒と白のしましま模様の腕輪がニョロリと顔をあげる。グミと違って目も真っ黒な蛇だった。
「なぁ? 仲間やっ」
にこりと笑うと八重歯が見える。
「私、優花って言います。あなたのお名前うかがってもいいですか?」
お礼をしたいので名前が知りたい。ついでといってはなんだけど、名前からどっちかわかるかも!?
「あー、ウチの名前かぁ。アリステアやで」
「アリステアさんですね」
「そや。
うーん、ますますわからない。アリステアって男性名なの!? 女性名なの!?
「それじゃぁ、気前のええお嬢ちゃん。また気ぃ向いたら店にも遊びにきてなぁ。あ、お礼はこれでええわ」
アリステアは私が持っていたパン袋の中から一つパンを取り出しかぶりつく。私が頭に?をたくさん浮かべていると手をふりふりしながら建物の中に入っていってしまった。お店に掲げられた看板。文字が読めない。
「何でも屋アリステア」
ライが代わりに読んでくれた。何でも屋さん。まちの便利屋さん的なお店なのかな。
「ねえ、あっちにも行ってみようよ」
「え、あ、うん」
「ユウカ、ボクはアレが食べたいゾ」
「僕も!」
「ちょっとー」
お城からどんどん離れていってる。ソラがいつ戻ってくるかもわからないのに。
「待ってよ、二人ともー!」
ライもグミもそんな事全然気にせず、早々に次の場所へと走っていった。
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