第25話 血を浴びる魔女(優花を迎えに行った騎士視点)
◇◆◇◆◇
スナンザーク近衛騎士の一人がある場所へと向かっていた。第二近衛騎士団団長ユナーの命によりある女をスナンザーク城へと連れていく為だ。男の名はユージュ。
一緒に連れていけば二度手間はかからなかったのに。あの女いったい何を探していたというのか。そんな事を思い浮かべながらユージュは馬を走らせる。
「ピピッ」
「おう、戻ったか。どうだ? まだあそこにいたか?」
先に様子を見に行かせたユージュの守護神獣。黒くなる奇病にはなっていない事を確認しまずは良かったと思った。
ついてこいと先導する小鳥型の神獣。ユージュはその後を追った。
一日この森で、一人でいると言い切った女だ。それなりに魔法が使えるのだろう。
他国の言葉だからか、自身は女の話した言葉は理解出来なかった。だがユージュと同じ言葉を使う事ができたモモカはユージュ達にそう言っているのだと伝えてきた。
探し物は見つかったのだろうか。一緒に来てもらうと言って通じるのだろうか。素直についてきてくれるのだろうか。
「
そう言えば伝わりますとモモカに習った言葉をユージュはゆっくりと反復練習した。本当にこの言葉でついてきてくれるのだろうか。
「ピピピッ」
「ん、そうだな。このあたりだった……」
がさりがさりと近付いていく。何かの匂いがする。鉄錆か?
そっと枝葉の隙間から覗く。目の前に広がる惨状に息を呑む。
赤い液体が大量に地面に広がる。これは血の海ではないだろうか。いったいどれだけの死体が集まればこの量になるというのか。
心臓がドクンドクンと跳ねている。これは女を探している場合ではないのではないか。
「✕、✕✕✕✕✕。✕ー、✕✕✕✕✕✕✕!」
探している女の声だ。声のした方へと視線を動かすと血の海の真ん中に肩まで浸かる女がいた。あの横顔は間違いなくモモカとともにいた女だ。
女はゆっくりと立ち上がったようだ。前だけ覆う布の服なのだろうか。背中側がすべて見えてしまう恐れがある。膝立ちだったのかぎりぎり腰のところで下側は血の中に隠れている。が、背中を赤い液体が伝っていく様は艶めかしくあり美しくあり恐ろしさを感じる。
立ち上がったのは自分の神獣だろうか、血の海の外にいる巨大な蛇に指示を出しているからのように見える。蛇はたくさんの小さな神獣を捕らえていた。小さな神獣達は黒い病にかかっているように見える。それを次々と血の海の中へと放り込んでいく。
「なんて事だ…………」
もしかしてあの女が黒くなる奇病の原因なのではないだろうか。ユージュはそう考えた。
血の海の中、楽しそうに笑う女はどこからどう見ても恐ろしい魔女だ。
「報告しなければ……。うっ、……次の指示をもらわなければ」
恐ろしさから来る吐気を抑えつつ、ユージュは魔女達に気付かれないよう静かにその場を後にした。
「✕✕✕ー!✕✕✕✕✕✕✕!」
笑い声がいつまでも後ろから追いかけてきている気がした。
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