第23話 今起きている事
あまり期待はしていないが桃香が来るかもしれない。だから待ち合わせ場所からあまり遠くには行けない。なので洞窟まで戻り一息つく。本格的に話したいだろうからと色々キャンプ道具から引っ張り出した。また出番が来たコーヒーセットとお菓子と敷物。ライとグミは慣れた手順で包装をとり中のクッキーを頬張る。むしゃむしゃと食べている二人の姿をソラが見て同じように包装をとり口へと放り込んでいた。
「
「そうですか。口に合って良かったです。
犬にはチョコレートが駄目だった気がして、クーには我慢してもらっているが横でヨダレをほんの少し垂らして我慢してる姿が心にくる。それに気がついたソラは携帯していたのか、クー用のご飯らしき固そうなお肉(干し肉?)を取り出し与えていた。
少しゆっくりとした時間の後、私達はお互いの事を話し始めた。
私はここではない世界から突然この場所にきてしまった事。ライとグミはこの場所に来た時に出会った事。私が使える魔法、【温泉】の事と【キャンプ】は今実演してみせた。そして、後輩の桃香とここで待ち合わせしてる事。
「――異なる世界からきたという事なのか? だから言葉がわからなかったんだな」
「そうです。あ、この指輪お返ししてませんでしたね」
「それは話が終わったあとに」
それはそうだ。私も話せないとすごーく困る。今からソラの話を聞くのだから。
「ありがとうございます。もう少しお預かりしますね」
「ああ、そうしてくれ。――それでユウカはコウハイとともに元の場所に戻りたいと」
「そうですね。出来ればはやめに」
だって浪野さんが助かってるのかどうか心配だし、私自身もいったいどうなってるのか。桃香はそのままの姿だったけど、私は
「ふむ、そうか。……それにしてもユウカの魔法、癒しや不死……何度でも甦る食べ物か。まるで赤獣に属するような魔法ではないだろうか」
「セキジュウ?」
「ああ、ユウカはこれも知らないんだな。赤獣は国の象徴四獣の一つ。オレの国の象徴は赤獣だ。他の国では黒獣、白獣、青獣が象徴として使われていてそれぞれその神獣のマスターを王に据えている。赤獣は鳥型赤い色の獣が多く、神獣自身とそのマスターともに炎魔法を使う者が多いんだ」
「まるで、さっきの――」
「――ッ」
私の言葉でソラが一瞬眉をひそめた。だけどすぐにもとの顔に戻り話し続けた。
「そうだ。あの鳥は次期王になるべき者をマスターとする神獣なんだ。神獣が黒くなる奇病になってから彼は体に黒い痣が浮かび病床に伏せている」
「それは、とても大変ですね……。というか、そんな情報私が聞いてしまっていいんでしょうか」
王様って一番偉い人なのでは? その次世代、王子様がそんな事になってるって知ってるということはソラもそれなりに偉い人なのでは?
そっか、中間管理職って大変だよね。上から色々言われ下からは頼られ、きっと毎日頑張ってるんだろうな。上の人が倒れたならそれはもう必死に治療方法を探すよね。だから、危険だとわかっていてもソラ達はこの森にきたのね。
うーん、それにしてもただの温泉&キャンプ大好き会社員の私がやっぱり聞いていい話じゃない気がするんですが……。
「ユウカは何も知らないのに巻き込まれてしまったんだ。知る権利はあるだろう。それにユウカなら知られても困らなそうだ」
「そういうものでしょうか」
知られても困らないって、それはどう意味で言っているんだろう。指輪がなければ意思疎通もままならない異世界人だから?
「……ユウカ、頼みたい事がある」
「はい? 何ですか?」
「オレと一緒にきて欲しい」
「えーっと、どこに?」
「あの鳥のマスターに会って欲しい」
「ええ!?」
何がどうなってそうなるのか。あ、でも私はここで桃香を待たないとだし、動かない方がいいのでは?
「オレやクーにしてくれたように【温泉】というので彼の治癒が出来ないか試してもらいたいんだ。元の場所に戻ってしまう前に」
「えっと、でもあの……」
温泉召喚に付随する服が消える効果がある限り、人前では出来る限り使いたくない。次期王なんて言ったらまわりにお世話の人や警備の人がいっぱいいるよね。そんなの無理だよ。大人数の前で温泉召喚なんて絶対に無理。今度こそ社会的にも精神的にも死んじゃうよ! ここが異世界だとしたら知り合いは桃香くらいだけれど。もし彼女に見られたら、絶対面白がって元の世界に戻れた時、全力で言いふらすわ。そんな未来しか見えない。頭が痛い。
「あの……服が消えるので……ごにょごにょ」
人差し指同士をツンツンしながら答えると、ソラはその外側からふわっと両手で私の手を包みこんできて優しく握った。またこの距離!? 近いの。ほんと、ソラの顔が近いの!!
「オレは元の場所に帰る方法を探そう。ユウカが帰るその時まで、クーを、そしてオレの命を救ってくれたユウカを、――オレがユウカを必ず守るから」
「あ……」
天国のお父さん、もしかしてこれはお父さんが課した条件の一つに当てはまったりしないでしょうか。
『――――おっと、これも大事だ。優花を守ると言ってしっかり実行する男!』
男の人から守るって言われたの初めて……。どう、答えたらいいの!?
「ユウカ、頼む」
じっとこちらを見てくるソラの目。この感じ、私知ってる。父が交通事故で運ばれた日、私必死にお医者さんにお願いしたの。あの時の感じだ。
そうだよね。治るかもしれないなら、目の前にその可能性を秘めた手段があるなら必死になるよね。
「は……、はい。やってみますっ!!」
頭の中はまだぐるぐるなのに、勢いに押されて頷いてしまった。出来なかったらどうするの? 責任重大じゃない? 何やってるのよ。私!!!!
でも、父を助ける手段がなくて絶望していたあの日の私を少しだけど慰められたような、そんな気がした。
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