第21話 漆黒に染まる赤獣の王②
ソラの服を着た男の人。腰までありそうな長い髪の色は途中まで銀色、真ん中位から群青色に変化してる。頭の左右に犬みたいな耳があって、腰のところにふさふさの尻尾まである。
その場にはその男しかいない。ソラもクーも姿を消している。
「ユウカ! 距離を取っていてくれ」
男の声はソラのものだった。もしかして、これが二人の魔法?
ソラと思われる男は地面を蹴り跳び上がる。洞窟の入り口がある岩壁を器用に蹴りながら上へ上へと駆け上る。人間が出来る動きじゃない。
一瞬で黒い鳥のいるところの高さに到達し、一段と高く跳んだ。黒い鳥よりも上へ。
「すごい!」
「ユーカ! はやく逃げないと!」
「え、でも……」
もし、彼らが怪我や黒くなる病になったらすぐ回復してあげられるように近くにいたほうがいいんじゃないか。でも、ソラは離れてくれと言っていた。
「ほら! 危ない!!」
ライにグッと引っ張られる。顔の数センチ前を黒い炎が追加して落ちた。こんなのが大量に降ってこられたら死んでしまう。
「……危ないね」
よし、逃げよう。私一人でどうにか出来る相手ではない。空を飛ぶ相手と戦うことが出来るのはあの子くらいじゃないかな。桃香と一緒に行ってしまったあの子なら。
「ライ、グミはまだ寝てるの?」
「いヤ、起きてるゾ」
「そう。走って逃げるから振り落とされないようにね!」
ライを抱え走る用意をする。ライは一人で走れると言っているけれど、子どもの足の速さと大人の私の足の速さなら私の方が足の長さ、歩幅的に速いはず。グミも、ライの足は遅いという感じで言っていたし。
「任せて! 毎日大量の書類抱えて会社を走り回ってたんだから!」
ソラ達に背を向け走り出す。どうかソラ達が無事でありますようにと願いながら。なのに――。
「どうしてこっちにくるのおおおおお!?」
黒い鳥の狙いは私達だったというのだろうか。私が走る方向に飛んで追ってくる。
「ユウカ!!」
「ソラさん!!」
黒い鳥がこちらにきたからだろう、ソラもすぐ追ってきて横に並んで走っていた。
「何故だ。狙いはいったい」
「わかりませんよ。何で私が追いかけられるんですか?」
必死に走る。どこに向かってるかなんてわからない。木々の中に隠れてしまえばわからないんじゃないか? そう思った私は即森の中に入ろうとした。ソラが一緒なら、迷子にならないよね!?
木々が深くなる手前まで走った時、ソラが私の前に立ちふさがった。突然の事で止まることもできずソラの胸に飛び込むカタチになってしまった。
「ちょっと、ソラさん。突然なんですか……!?」
目の前に次々と炎の羽が突き刺さる。その炎は大きく広がって、まるで行く手を阻む炎の壁になった。
止まってなかったら炎の中に飛び込んでいたのだ。
正面に進めないならと横を見るとそこにも炎の羽が舞い落ちてくる。
私達を取り囲むようにぐるりと炎が走る。行く事も戻る事もできない。黒い鳥の炎の壁に包囲された。
「ソラさん、いったいどうしたら……」
「…………」
聞いたって答えられるわけないのはわかってる。わかってるけど聞いてしまう。絶体絶命だと思いたくないから。
炎の壁の高さはとても飛び越えられる高さじゃない。飛び上がったところで頭上には黒い鳥が待ち構えている。
「ライ! そうだ。ライの水は出せない?」
「ユーカ、ごめん。この炎を消すほどの水を出すのは僕には無理だよ」
どうしたらいいの? どうしたら。ジリジリと炎の壁が狭まってきている。
「ユウカ、あの鳥を黒くなる奇病から救えないだろうか」
「えっと?」
「病さえ治せる事が出来れば、オレの話を聞いてくれるはずなんだ」
「そうなんですか?」
あの鳥とお知り合いなのだろうか。私だって温泉が届くなら治してあげたい。……でも、ソラの前で?
この状況で温泉召喚をすれば120パーセント見えてしまう。タオルがあったとしても見えてしまう。うわあああああ。でも、そんな事言ってる暇なんかなくてっ!!
「ユーカ、水さえあれば僕が空めがけて魔法で打ち上げるよ!」
「ボク達ダ! ユウカ、それでいくゾ」
「え、ええ? えええええ?」
「ユーカ!」
「はやク!」
「ユウカ、頼む」
三人からお願いされる。もうどうにでもなれ!!!!
「呼ぶわよ。ソラさん、出来れば今から私の事見ないでっ」
「見るな? ……わかった――」
「お願いしますっ!!」
空に浮かぶ黒い鳥を恨めしく見上げ、私は呼んだ。
「温泉召喚ッッ!!!!」
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