第20話 漆黒に染まる赤獣の王①

 一通り叫んだ後、ソラはクーの色が戻っていることに気がついたみたい。かなり驚いた顔になってその後すぐホッとした表情を浮かべていた。そして、私に視線を戻し少し赤くなりながら声をかけていいのかどうかを考えているようだった。


「あの、見えました?」

「あ、ああ。すまない。一瞬だが、その……」

「見えてしまいましたか」

「その、すまない」


 誤魔化ごまかさず正直に言ってくれるのは悪い事ではない。ないのだけれど、恥ずかしさで顔が赤くなる。


「ああ、お嫁に行けない……」


 座り込んで顔を手で覆う。ソラの顔を真正面から見るなんて出来ない。


「お嫁? あの……、ユウカ」

「すみません、ちょっとだけ時間を下さい」


 感動のクーとの再会なのに、私が壊しちゃダメじゃない。見られたと言ってもタオル……、タオルがあったからっ!! それにこの体は私だけど、私が作ったアバター? みたいなものだし。似てはいるけど私の裸というわけじゃないし……? たぶん……。

 なんとか自分に言い聞かせ顔をあげる。青色の目に自分の姿があるのがやっぱり恥ずかしい。

 私はライの小さな体の後ろに隠れた。


「ユウカ?」

「ど、ど、ど、どうぞ、私の事は気にせずクーとの再会をッ!」

「そう……か?」

「どうぞどうぞ」

「わかった――」


 ソラはクーの立つ場所に足を進める。でも、クーはというとソラに背を向けたままだ。


「クー、もう大丈夫なのか?」


 ソラの声かけにもまったく反応しない。父と喧嘩した時の私とクーの姿が重なって見える。ここで私が出しゃばってクーの言葉を伝えてしまったら、クーは意固地になってしまうだろうか。


「クー! すまなかった! オレが詳しく調べないままこの森に入ったから、お前まで黒い病にかかってしまって――」


 ソラがこちらをちらりと見た。そして何かを決心したような顔になった。


「どうやって治ったかはわからない。だが、ここにいれば黒くならずにいられるんだろう? なら、クーはここで待っててくれ。あとはオレが一人で追うから」


 クーはその言葉を聞きしょんぼりとソラから背けていた顔をあげた。ソラをじっと見据えている。

 ああ、ダメだよ。それじゃあ、守護神獣として自信を失ってるクーには逆効果。足手まといだって言ってるようなものだよ。

 私も水を求めて置いていこうとした時、ライはきっと足手まといなんだって思って泣いたんだろう。


「ソラさん!! お節介かもしれませんがクーは一緒にいたいって思ってますよ。だって、マスターを守護するためにいるんでしょ? 守護神獣って! なのに置いていくなんてダメです! ね、クー。クーもそう思ってるでしょ? だから、もし黒くなるのが怖いなら私もついていきます! 私が一緒にいれば、黒くなる奇病は治せるんですからっ!!」


 あ…………、言っちゃった。治すためにはまるっきりスッポンポンな姿をソラに晒すことになるのに……。

 ああああああああああああ!! 言っちゃったあああ!!

 ソラがすごーく驚いた顔してる。それとほんのり期待のまなざしが入っているような。


「ユウカ、キミはもしかして……」

「あの、もし黒くなったらですよ? えーっと、えーっと」


 言ってしまったものはしょうがない。どうかクーが黒くならないように祈るしかない。


「いや、やはり危険だ。それにもしそうならオレはキミを守らなければならない。詳しい事も聞きたいが、時間が惜しい。せっかく見つけたんだ。だから急いで行かないと。やはりクーとともにここで待っていてもらったほうが――」


 あれ? 見つけたって、クーを探していたんじゃないの? じゃあ、ソラはいったい何を探していたのだろう。


「クゥァーーーーーーーン!!」


 甲高い声が空気を震わせながら響いた。クーの時よりずっとずっと強い威圧感がある。


「――何の声?」


 ライが再び私の前に立ち威嚇するように毛を逆立てている。何か恐ろしいものがこれからくるの?


「ユウカ、クー逃げてくれ!! アイツがくる。最初に黒くなる奇病にかかった赤獣の王が」

「セキジュウの王?」


 突然暗くなる。巨大な影を作る獣が頭上にいる。そんな気がして上を見た。そしてその通り、頭上に大きな黒い鳥がいた。まるで私の卵から孵ったあの子が変身した姿をそのままもっと大きくしたような鳥だった。違うのは色。全身真っ黒に染まった巨鳥。


「オレ一人で相手に出来るような強さじゃないんだ。はやく!!」


 え、でもさっき一人で行くって言ってたじゃない。もしかして、クーの事を思ってカッコつけて言ってたの!?


「一人で相手出来ないならソラさんだって逃げないとっ!!」

「それは出来ないんだ。オレはコイツをマスターのもとに戻さないとなんでねッ!!」


 ソラはそう言って剣を構える。ただ、空を飛ぶ相手だ。どうやって剣で攻撃するつもりなのか。

 クーがソラの下に駆け寄った。横で威嚇するポーズをとっている。


「クー?」


 二人は目で確かめ合っていた。


「もう一度一緒に戦ってくれるか?」

「ガウ」

「……ありがとう」


 大きな黒い鳥のおかげで二人が仲直りしたみたい。だけど二人になったところでいったいどうやって戦うの? 相手は空だ。人間がジャンプして届くような距離じゃない。


「クー、行くぞ!!」

「ワン!!」


 クーが光り出す。


神獣ディヴァインビースト装着・レイウェヤー!!」


 ソラの声が響くとそこにクーの姿はなくて――。

 クーみたいな毛の色の耳と尻尾、白い角のある男の人が立っていた。

 えーっと、誰ッ!?

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