第19話 ソラの神獣をもとに戻せるかな
大きな牙、大きな爪、大きな黒い体。何度見てもやはり怖い。でも――。
クーはこちらに気がついていない?
さっきからそこから動かず、ずっと何処かを見続けているみたい。
もしかしてまだ考える時間がある? だけど答えはまだ見つかってない。
「ユウカはやク、出セ」
「待って、いま出したってクーが温泉に入ってくれないと意味がないよね? そのままあっちに行ってしまうかもしれない」
そうだ、さっきの小さい神獣達と違って温泉に入れる作業があの大きさの神獣には流石に無理だ。
なら、確実に温泉に入れるためにどうすれば?
せっかくそこにいるのだ。ソラがまた傷つけられる前に元に戻せれば――。
「違うのユーカ。今だしてって言ってるのは――」
「ねえ、グミがもう一度大きくなって抑えられない?」
「ボクはもう2回変身しタ。まだ魔力ヲ回復出来てなイ。だかラ、温泉を――」
「ユーカ!!」
ライが叫ぶ。
クーがこちらに向かって跳躍したからだ。グミがはやく温泉を出して欲しかったのは魔力回復の為だったのか。何でさっさと呼び出さなかったのか。ここにソラはいない。また、私は何も出来ないまま……。
ギャンという鳴き声。クーが何かにぶつかり跳ね返される。私達の、いや私の前にいたライが大きな亀の姿になっていた。だけど、その姿は一瞬でもとの小さな子どもの姿に戻っていた。
「ライ?」
「ごめんね、ユーカ。やっぱりダメだ。逃げて……」
「え?」
ライがばたりと倒れた。どこか怪我した?
「契約がすんデないのに、無茶するからダ」
ライを抱き起こしているとグミはそう言った。
「はやク、温泉を出セ!!」
「わかった!」
こちらに飛び込んでくるならもうここに大きな温泉を呼び出してしまえばいい。ならっ!
「ダメだ! 来ル!!」
2回目の跳躍準備が出来たのだろう。グミが叫ぶ。間に合わない!
「――ッ!?」
クーのまわりに小さな神獣が現れ動きを止めてくれた。先ほど黒くなる病が治った神獣達が来てくれたのだ。
「みんな、ありがとう! よーし、呼ぶよ!」
迷ってなんかいられない。
「温泉召喚ッ!!!!」
『新しい温泉が確定しました』
眼前に広がる大きな露天風呂。前回の温泉旅行で行った「でっかーい湯」! その名のとおり、でっかーいのが売りの温泉!!
「これならグミが大きくなってクーと怪獣大決戦したって大丈夫!!」
「なんダそレ!」
ツッコミながらもグミは温泉の中に潜る。そのサイズで大丈夫!? と思ったけどすぐ杞憂に終わった。
大きくなったグミが温泉からざばりと顔を出す。
私はというと、服はないが大判サイズのでっかーい湯ロゴ入りタオルで体を隠しつつライを連れて温泉のはじっこに浸かる。ここなら他の人間が来ても湯の中に浸かって隠れられるはずだ。あ、髪の毛をまとめ上げてくれてる。これでいちいち髪をタオルで巻かなくても良くなった。これが創造性向上の効果なのかしら?
まあ、何あれ――。
「いっけー!」
グミがクーのもとまで近寄り、顔と長い体を上へと伸ばす。ちょうど小さな神獣達が振りほどかれ、わーと蜘蛛の子のように散っていく。
「暴れるなヨ!」
ぐるりと器用にクーの胴体へと巻き付き動きを止める。そのまま温泉へとずるりずるりと引っ張って行く。
「頑張って! グミー!」
見事、温泉の中にクーを沈める事に成功した。
数秒バタバタと大きな水飛沫が上がっていたがゆっくりとその勢いもなくなった。
水飛沫が上がらなくなった場所にはグミに巻き付かれる真っ白な角、白銀と群青色の毛をもつ大きな犬が尻尾をふりふりさせていた。
「もう大丈夫だロ。放すゾ」
グミが拘束をとき、私の横に戻ってくる。ライもちょうど目を覚ましていたのでその腕にグミは小さくなって戻った。
「ちょっト疲れタから寝るゾ」
グミはそう言ってぐるりとライの腕に巻き付き、まるで蛇の腕輪のように動かなくなった。目は開いてる気がするけどこれで寝てるのかな?
「えーっとキミがクーで合ってるのかな?」
クーはそうだと首を縦に振り意思表示する。真っ黒の時と違って目に穏やかさが感じられる。
「ユーカ、ありがとうだって」
「あ、クーも話せないんだ」
「そうみたいだよ。人語は理解出来てるんだけどね」
「そっか。どういたしまして。良かったね。ソラさんのところに帰れるよ」
ふりふりしていたクーの尻尾がぴたりと止まる。
「どうしたの? クー」
顔をもたげ酷くしょんぼりしているように見える。
大きいけど、ただのワンちゃんみたい。しょんぼりする姿はついよしよししてあげたくなる。
「守護神獣なのに、守るどころか傷つけてしまった」
クーの気持ちをライが言葉にしたのだろうか。クーの事を見つめながら話し出した。
「合わせる顔がない。どうしたら……」
「そっか。そうだよね」
私にもあった。大好きな父と喧嘩した。うちに何故母がいないのだと、大嫌いだと口にしてしまった。傷つけて酷い顔にさせてしまい、合わせる顔がなかった。
でも――。
「クー、ソラさんは探してたんでしょ。あなたのこと。大好きで戻ってきて欲しいから追いかけて行ったんだよ」
父は喧嘩した次の日には、笑顔でいつも通りだった。赤い目だったからきっと泣いていたのに。いつも通りだったから私もきちんと謝れた。ごめんなさいって涙と鼻水だらけにしながら。その日の学校のお弁当、しょっぱく感じたな。
「ソラさんはすぐ見つけてくれるよ。もうそこまできてるかも。一緒に待とう。ついていてあげ……」
「クーーー!!!!」
姿は見えないけど確実に近付いてくるソラの叫ぶ声。え、ちょっと!?今は――!!
「そ、そ、そ、ソラさん!! 今はちょっと待ってええええええ!!」
「――ッ!! ユウカ!? 危ない!! このあたりにクーがッ!!」
消さなきゃ! 消さなきゃ! 消さなきゃ!
間に合ってえええええええええ!!
「ユウ……!?」
目が合った。裸と服が切り替わるちょうどその時……。
「きゃあああああああ!!」
「わああああああああ!?」
私とソラが同時に叫んだ声が、どこかに反響したのかこだましてた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます