第18話 レベルアップしてみよう③

「黒くなると暴れたくなるの?」


 私が聞くとライが持っているタヌキっぽい神獣がうんと頷く。タヌキ君の言葉をライが代弁してくれた。


「マスターを守護しないとなのに、傷つけてしまいそうになるからみんな離れるんだって。だけどマスターが気になって、戻りたい気持ちもあって、ぐるぐるしちゃうんだって。この森にきたのは強い神獣が生まれた地で、その神獣には病気や怪我を治す力があったんだ。だから、この黒くなるのも治してもらえるんじゃないかって――」

「そっか、それで……」


 クーはソラに会いたくて探してたところだったんだ。だから、ソラがいた洞窟の外にいたんだ。中まで入ってこなかったのは傷つけたくないから……。

 絶対治してあげよう。ソラもきっと心配してるから。


「教えてくれてありがとう。マスターのところに帰らなきゃいけないのに引き留めてごめんね」


 ライが手を離すとタヌキ君はクルンと横に一回転して姿を消した。まるでどういたしましてと言っているようだった。


「さて、のぼせる前に一度上がろっか」


 連れてきた神獣達を全員治し終わったので露天風呂を消す。

 次はレベルアップして呼び出せる温泉が増えたから、服を着たまま入れる温泉を再び考える。


「うーん、うーん」

「何をそんなニ悩んでるんダ?」


 小さな蛇に戻ったグミがライの腕に戻りながら言った。


「ちょっと待ってねー。確かどこかにあったのよ。服を着たまま入れる温泉……」

「服? 何デこだわる?」


 うう、鱗をまとったグミと違って私には死活問題なんだ。色々とね。うん、ホント……。見られたらお嫁に行けない! それじゃ、ダメなのよ!! 私は幸せなお嫁さん目指してるんだから!!

 母が先に亡くなって、父がずっと頑張って育ててくれた。小さい頃「お父さんのお嫁さんになる」って言ったんだ。その時、父は――。


『ありがとう、うれしいよ。でもお父さんのお嫁さんはお母さんだけなんだ。だから優花は優花の事大好きになってくれる……い゛い゛男゛の子のお゛嫁ざんになる゛んだよおおおおお!』


 って、泣きながら言ってくれたっけ。だから、私天国にいる父と母に幸せなお嫁さん姿を見せないとなのよ!! まだ、誰とも付き合ったりしてないし、そんな話なんてまるっきりないけれど――。


「服はね、私を守る大切な道具なの! だからなんとしても成功させなきゃ」

「わかった! ユーカにとって大事なんだね」

「それじゃあ、やってみよう! 服を着たまま入ることが出来る温泉、温泉ー!!」


 頭の中で過去に行った温泉を思い浮かべつつ、インターネットのサイトで行ってみたい温泉を探したあの日々の記憶も探してみる。どこかに答えは――。


「おイ!」


 グミが何かに気がついたのかライの肩で首を高く持ち上げる。まわりを警戒してるみたい。

 ちょっと待ってね。頭の中の答えを探してるところで…………。


「今すグ、温泉を出セ!! ユウカ!!」

「え?」


 まだ、出てきてないのよ。前に行った大きくて気持ちよかった温泉の事しか!!


「はやク!!」

「え、まって。え!?」


 とりあえず手を前に出す。急かされてもまだ服を着たままの温泉が浮かばないのよ。


「大きいのがくるゾ!」


 ライとグミが警戒してる。大きいのってやっぱり大きな黒い神獣ってことだよね!?

 なら、大きな温泉じゃないと浸かれさせられない!?


「くる! ユーカ!」


 ライが私の前に立つ。その瞬間、大きな影が前方の木々の間から見えた。

 黒い大きな犬の神獣。ソラの守護神獣のクーだった。

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