第16話 レベルアップしてみよう①

 冷たいような温かいような、適度な硬さのベッド。寝心地もなかなか良くてもう少し眠っていたい。枕はないかと手を伸ばしちょうどいい感じに腕を回せそうな場所があった。さっそく両腕を巻き付ける。


「…………おイ」


 もう少し眠っておきたい。あ、でもそろそろ会社に行く時間じゃないかしら――。ちょっと待って!?

 ガバリと急いで目を覚ます。そうだ、今は眠っちゃダメなんだったと思い出す。


「ライ、グミ! 大丈夫!? ごめん寝ちゃって――」


 そこまで言って巨大な蛇の頭と目が合った。あ、これは夢? よく見れば巨大な蛇の体の上で寝ていたようで――。

 私、ここで飲み込まれて死んじゃうのね。蛇に丸飲みされるなんて、考えられないような死因。両手を合わせて哀しんでいると、ライが下から叫んでいた。


「ほら、もう! ユーカ起きちゃったよ!」

「だっテ、いきなり首に抱きつかれタんだゾ!」


 よく聞けば、巨大な蛇から発せられるのはグミの声。


「あれ、グミなの?」

「ん、そうだゾ。ボクの背の方が地面よりは痛くないだロ」

「ありがとう、グミ。こんな大きくなれるんだね」

「スゴイだロ!」

「うん、すごい」


 私がゆうに乗れるサイズ。体の十分の一くらいで私より長そうだからかなり大きい。


「あれ……? 外套がなんでここに?」


 ソラの外套が上から被せられていた。もしかして帰ってきたのかと見回すがまだ姿はない。


「それに獣避けの守りが付けられてる。下位の神獣やただの獣は近寄れないようになってたから」


 わー、勝手に使っちゃったんだ。涎なんかで汚していないか確認する。うん、……大丈夫だよね。ふわりといい匂いがする。ソラがそこにいるみたい。


「ユウカ、もういいのカ?」

「え、何!?」

「もう寝なくていいのカ?」

「あ、うん。そうだね。眠気は取れたよ。ありがとう」


 グミの上からすべり落ち、ライの立つ場所の横に着地する。


「じゃあ戻るゾ」


 グミが小さくなる。


「グミすごいね! 神獣って大きくなったり出来るんだ」


 そういえば、赤い鳥のあの子も大きくなっていたっけ。どんな仕組みなんだろう。これも魔法なのかな?

 なんて考えていたら、隣のライのほっぺたが膨らんでいた。


「どうしたの? ライ」

「……僕だって、大きくなれたのに。途中で交代って言ってたのに」

「オマエは背中が硬いだロ」


 グミに言われライのほっぺたがより膨らむ。これ以上は割れちゃいそう。


「ありがとう、ライ。ライも待っててくれたんだよね。大きくなるのはまた今度見せてね」

「……うん!」


 なんとか機嫌が戻ったようだ。

 ライ……は、亀だったから大きな亀になるのかしら。それとも人間の姿で大きくなる?

 まだまだ分からないことだらけのこの世界だけど、ライとグミがいれば頑張れそう。

 小さい手をぎゅっと握り笑ってみせる。


「さぁ、何時間寝ちゃったのかな。レベルアップの方法を考えないと!」

「えっと、寝てたの少しだけだからあんまり無理しないでね。ユウカ」

「そうだゾ。まだ昼にもなってないからな」


 昼になっていないということは二時間から三時間くらいかな。うん、徹夜に比べれば全然余裕!!

 ソラの外套を畳んでもとあった場所に戻す。


「そうだ!」


 どうせならと洞窟の外に出る。外は確かに明るくて気持ちいい風が吹く。

 キャンプはとりあえず置いておいて、温泉のレベルアップをしよう。


「ねえ、ライ。グミ! お願いがあるんだけど――」

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