温泉とキャンプが好きな優花は神獣がいる異世界で運命の人を探します！？

第13話 ソラの神獣

　洞窟の外に出ると大きな黒い獣がいた。私に飛びかかってこようとしたあの黒い犬。

　どうしてここに？

　ソラは大きな黒い犬と向かい合っていた。

「ユウカは危ないから下がってるんだ！」

　後ろを振り返らずソラが叫ぶ。

「でも、……危ないならソラさんだって！！」

「クーはオレの守護神獣だ。だからオレが何とかしないと！！」

「えっ！？」

　真っ黒に見えるけどところどころ紺色の毛がある。もしかして、さっき話していた神獣が黒くなる奇病なの？　それがクーという名の、――ソラの守護神獣もなってしまったということ？

「ユウカはライとグミを中に連れて行くんだ！　この病がどう広がっているのかわかってないんだ！　だから、はやく！！」

　黒い犬が大きく飛び跳ねる。一直線にこちらに向かってくる。

　私はその光景を目にして硬直してしまう。先ほどの恐怖が戻ってきたからだ。

「すまないッ！　クー」

　ソラが剣を引き抜きクーに立ち向かう。

　牙と剣が鍔迫り合いのような音を出す。

「ユーカ、中に行こう」

「う、うん。わかってるんだけど、足が動かなくて」

　地面に縫い付けられたみたい。足が全然動いてくれない。

「ユーカ！」

「ユウカ！」

　ライとグミが声を上げる。それもそうだ。黒い犬の狙いがこちらに向いたからだ。

「ユウカ！　クー！」

　大きな口、大きな爪が再び迫ってくる。動かなきゃいけないのに、体が動かなくて――。

　目を閉じるだけで精一杯だった。

　ドンッドンッと大きな音がした。だけどそれは私じゃなくて、ライが私を守ろうとして目の前で突き飛ばされた音とソラが黒い犬に体当たりした音だった。

　ギャンと一声黒い犬は鳴き、森の中へと消えた。

　ライは突き飛ばされ、ドサリと地面に落下した。

「ライっ！　ライーっ！？」

　ソラがライを抱き上げ私の前にそっと寝かせる。

　爪に引っかかれた怪我が痛々しい。

「ユウカ！　オレはクーを追わないとなんだ。すまないが追わせてくれ！」

「え、あ、え？」

　何がなんだかわからないまま、嵐のように起こった出来事に上手く頭が回らない。

「すぐに戻る。だから、ここで待っていてくれ！」

　ソラの守護神獣。ライのような存在なのだろう。いや、私はまだ出会ったばかりだから彼にとってはもっと大事な存在かもしれない。

　しっかりしなきゃ。ライは私を守ろうとしてくれたんだ。私がライを――、ソラはクーを！！

「はい。ソラさんは早く行って下さい！」

「すまない！」

　ソラは黒い犬を追ってまた消える。必ず戻ってくると言い残して。

「私も急がなきゃ」

　怪我なら、治せる。ちょうどソラもいなくなった。いまなら、温泉召喚ができる。

「ユウカ、ライが変だゾ！」

　グミがライの傷口近くに這い寄る。そこを見ると黒色がジワリジワリと広がっていた。

「黒くなる病！？」

　傷から感染するの！？　コレって私の力で治るの？

「……痛い……よ……」

　ライの額に冷や汗が流れる。歯を食いしばって、必死に痛みと戦ってるみたい。

　迷ってる場合じゃない。怪我は治せるはずなんだ。何かあってもそこから先はまたあとで考えればいい。

「待ってて、ライ。いま治してあげるから！」

　黒色が広がっていく。私は立ち上がって手を伸ばす。ここが外？　そんなの関係ない！！

「温泉召喚っっ！！」

　三度目の温泉召喚。今回は脱衣所もすっ飛ばして直接。つまりもう私の服は消えている。

　小さなライを抱え湯の中に勢いよく入る。

「治って！　お願い！」

　怪我はすぐに消えるのが目に見えてわかった。

　黒色は！？

「ライ！　大丈夫！？」

「ユウカ、落ち着ケ」

「大丈夫だよ。ユーカ。ありがとう」

　二人の言葉に私は胸を撫で下ろした。ホッとしつつ改めて傷口を見る。

「傷も黒色も消えてるね」

「黒色？」

「本当だナ。消えてル」

「なら、治ったのかな？　もしかして私、神獣が黒くなる奇病も治せる？」

「かもナ」

　無事だったライをくるくる回して確かめる。黒い箇所なし！　良かった。ホッとして体の力がスッと抜けた。そして重大な事を思いつく。

「ねえ、じゃあ、クーも助けてあげられる！？」

「どうやってあのデカいのヲここに突っ込むんダ？」

「う゛っ！！」

　確かに、暴れて難しそうだ。それに、ソラが追っているならセットでここにいる事になる……。

　あぁぁぁぁぁぁ！？　どうすればいいの？　せっかくソラの助けが出来ると思ったのに、この能力は人前じゃ使えないよっ！！

「裸が恥ずかしいの？」

「……恥ずかしいよ。ライとグミならまだしも、さすがに男の人に見られるのは……」

　ライはまだまだ子どもだし、グミは蛇だし……。というか、神獣だからそもそも人じゃないし。

「ううーん、なんとかできないかな」

　ふいーっと温泉に肩まで浸かる。いい考えが浮かばないかなと伸びをする。すぐそこが大自然。気分は露天風呂だ。だけど、あまり長くは出していられないな。ソラ達が戻ってくるかもしれない。

　視線の先に、小さなうさぎが姿を見せる。黒うさぎだろうか。ぴょんぴょんと跳ねながらこちらに――襲いにきてるっっ！？　まさかこの子も！？

「わわわわわわっ！？」

　驚いたけれど、サイズは通常のうさぎと変わらない。このくらいなら私でも捕まえられる？

　黒うさぎは私達のいる真ん中まで跳ぶことなく、ぽちゃんとお風呂に落ちた。