第12話 言葉が通じる

 心臓がドキドキする。この人の手、すごく大きい。


「ああああああのっ!?」

「✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕」

「えっと、ごめんなさい、私言葉がわからなくて。なんて言ってるのかわからなくて」


 焦りながらペコペコ謝る。とりあえず、手を放してもらえないかな。心臓がドキドキしすぎてもたないですっ!!


「手を一回放してもらってもいいですか」


 手を少し持ち上げ、通じないとは思いつつお願いしてみる。男は少し考えた後、手を放してくれた。

 解放され、私はふぅと一息つく。

 彼は自分の腰にあるウエストポーチのような小さなバッグに手を突っ込み何やら取り出した。小箱だろうか。まるで中から指輪でも出てきそうな。

 そんな予想通り、彼が小箱を開けると中には指輪が入っていた。銀色に輝くリングに控えめなサイズの赤い宝石が一粒埋め込まれている。

 何の指輪だろう? 首を傾げて見ていると再び手をとられる。今度は左手だけだけど、何が始まるの?


「✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕?」

「え、あ、はい?」


 何かを聞かれているような気がして頷くと、彼は私の薬指にその指輪をはめた。そこは、あの……。いやいや、指輪の位置の意味なんて日本とは違うよね?


「これで言葉がわかるか?」

「え!?」


 突然彼の言葉が理解出来た。


「わかります。え? 私の言葉もわかるんですか?」

「あぁ、わかる。この指輪は魔法で作られたモノだ。言葉の壁を取り除く」

「それは便利ですね」


 とても便利だ。あと、そんな便利な機能のある指輪ってとてもお高そう……。でも、これがあればきちんとお礼が言える。


「あの、今日は危ないところを――」


 助けていただきありがとうございましたと言おうとした。だけどその言葉の上から、


「助けてくれてありがとう!」


 彼の言葉が被さった。


「あぁ、すまない。言葉を遮ってしまった。今何か言おうとしただろう」

「あ、いえ。私も助けてもらったのでありがとうと言おうとしてました」


 少しの間があり、お互い顔を見合わせる。なんだかこそばゆく感じて次の会話を探す。社会人ならまず名刺でも出して自己紹介からの天気の話だろうか。名刺なんてないけれど。


「オレは……ソラという。君の名は?」

「私は泉優花いずみゆうか。えっと泉が苗字で優花が名前です。で、わかるかな」

「ユウカでいいのだろうか?」

「そうそう。ユウカです。ソラさん」

「さんはいらない。ソラと呼んでくれ。こちらもユウカと呼ぶから」

「え!? あ、はい」


 お互い敬称なしの名前呼び。ここではそういうものなのだろうか。私の常識と違ってて緊張してしまう。


「そうだ、この傷を治してくれたのはユウカなのだろう? いったいどうやって」

「あ、それは――」


 言えない! 私が裸になって出した魔法のスーパー銭湯の癒し効果です☆なんてっ……!!


「ねー、ユーカ! もう治ったからいいでしょ」


 ライがソラと私の間に入ってきた。そのまま私の膝を陣取りしがみついてくる。グミももちろん一緒だ。


「あぁ、ごめん。ライ。お手伝いありがとう。もう少しお話ししてもいいかな」


 ライは私の目をじっと見て、今度はソラの顔をじっと見る。


「うん」


 少し怒っているような気がして、よしよしと頭を撫でておいた。


「弟……と一緒に旅でもしているのか? 言葉が違う国から?」


 ソラがライを見ながら尋ねてくる。


「えっと、この子たちはライとグミ」


 二人を紹介しながらなんと説明すればいいか考える。弟ではなくて、神獣よね?


「神獣。僕達はユーカの守護神獣だよ!」


 私の代わりにライが神獣だと口にする。ん、守護神獣? 知らない言葉が増えてるんだけど?


「なっ!? 人型の神獣!? ユウカ、君はもしかして――」


 ソラが驚いている。そうそう、私もライが変身した時は驚いたよー。


「神獣の神子なのか?」


 またわからない言葉が出てきた。みこ? みこって神社にいる巫女さんかな? 神獣の巫女?


「すみません、その神獣のみこって何ですか?」

「神獣の神子を知らない――? ユウカはいったいどこからかきたんだ?」

「どこからと言われても日本からとしか」

「ニホン? そんな国は大陸にはなかったと思うが……だいぶ遠くからきたのか?」

「はぁ、たぶん」


 やはり日本は存在しない世界なのかと改めて実感させられる。


「そうか。なら知らないのも無理はない。この森はいま神獣が黒くなる奇病が発生していて危険だというのに仲間を連れず……いや、もう一人いたか?」

「あ、はい。会社の後輩がいました」

「そのコウハイも神獣の神子なのか? いまどこにいる?」

「えっと、鎧を着た人達と一緒にどこかに行ってしまいました。一応あとで迎えにきてくれるみたいなので私達はここで待ってるんですが」

「……そうか」


 ソラはふむと何か考えるように顎に手を当てている。聞きたいことが次々に増えていくけれどどこまで聞いてもいいのだろうか。


「神獣が黒くなるってどういう事なんですか?」


 そういえば、最初にソラに会った時黒い獣に襲われていた時だった。あれが、黒くなった神獣?


「……数ヶ月前からだ。ある人物の守護神獣が突然黒くなり、神獣のマスターのもとから逃げ出した。それからだ。大きなもの小さなもの関係なく神獣が黒くなり主から離れこの森に次々集まっている」


 えーっと、神獣っていっぱいいるの? 守護神獣?

 神獣のマスター? 全然話が見えません(涙)!!

 話の腰を折らないように頷いているけれど、何もわからない。神獣が黒くなると何が困るんだろう。マスターから離れちゃうから問題なのかな。確かにライとグミがいなくなったら寂しいよね。でも彼の表情、それだけでではなさそうな感じ……。

 あとで聞こうと思い頭の中で質問を考えておく。えっと、あれとこれとそれと……、そうだ! もし桃香が行った場所がわかるなら私がそっちに向かってもいいんじゃないかな。

 なんて考えが一瞬で砕かれる。

 大きな犬の咆哮が洞窟の外から聞こえてきた。桃香と私に襲いかかってきたあの黒い獣と同じ唸り声。


「クー!」


 ソラが立ち上がり洞窟の外に向かう。

 何が起こってるのだろう? 私はすぐにソラの後を追った。

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