第11話 温泉効能【癒し】と再会
温泉が好きなのは父じゃなくて母だった。だから私が温泉好きなのは母の血だなとよく言われていた。
温泉大好き。母は日本中、果ては世界中まで温泉巡りの旅をしたいと言っていたと父が話してくれた。
すごく同意。私もいつか日本中、世界中の温泉を巡りたい。
温泉が好きで良かった。もしあの時、温泉って入力しなかったら今この至福の時間はなかったのだから。
「はぁー、いいお湯ね」
会社帰りによく癒されに行っていた場所だから我が家のようにくつろげる空間。頭痛も無くて快適すぎる湯の中で私は疲れを癒す。ヒリヒリするかと思っていた擦り傷は全然無くて、むしろ玉の肌。これも温泉の力だったりするのかしら。もう少し浸かっていたいけれど、そろそろ上がらないとライがのぼせてしまうかもしれない。
「すごいね、ユーカ」
「ん、何が?」
「これ、癒しの水だよ」
「ふぇ? 癒し?」
確かに温泉は癒される。会社で忙しい日々が続いても温泉に入れば癒されまた頑張れる。
ウンウンと頷いていると、ちょろりと桶からグミが顔を出す。
「癒シ、魔法の力が回復してル。怪我なんかも回復できるんじゃないカ? やべー
「そうなの? だから頭痛もしないのかな。やっぱり温泉はいいわねー」
「いヤ、だから……。まあ、いいカ」
グミは何か言いたそうにしながら首を引っ込める。案外お風呂が気に入ったのかな。でも、あまり長長湯は良くないよね。
ごくりとつばを飲み、立ち上がる。
「上がろう!」
服がもとに戻るか否か。いざ、決戦の時。
二人を湯から上げて気合を入れる。
「お願い!! 神様!!」
スゥッと消えていく、いつもお世話になってるスーパー銭湯「湯〜屋」の浴場。景色が洞窟内に戻ってくる。肝心の服はというと……。
「戻った!! 戻ってるー!!」
無事服ももとに戻っていた。ホッと胸を撫で下ろしたところである事に気がつく。私の感情はまるでジェットコースターのように激しく上下する。
驚きすぎて声が出ない。パクパクと必死に息をする。
「あ、あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うるさイッ!!」
グミに怒られたがそれどころではない。だって、さっきまでいなかったのにいるの!! 洞窟内に、男の人がッ!! 座ってるのッ!!
一体いつから!! さっきからならお尻はばっちり見られた!?
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁと心の中で私が叫ぶ。もう、お嫁に行けない。お嫁に……お嫁に……。
「大丈夫だよ。ユーカ。あの人気絶してる」
「――え?」
よく見れば確かに
黒い獣から助けてくれた人じゃない!? 服装も助けてくれた人と同じ白い服の上に鎧の一部みたいな防具をつけている。たぶん、同じ人だ。
「あ、あのー?」
そーっと近付いてみる。反応がない。寝てるのかな?
「すいませーん」
あ、でも言葉が通じないんだったと思い出した。ただ、聞こえていたら起きてくれるよね?
「あの――」
「血の匂イがすル」
「え?」
グミの言葉に驚くと同時に男の上半身がズルリと横に倒れる。左脇腹を押さえている手が赤色だった。
「えっ!? えぇぇ!? ちょっと、大丈夫ですか?」
急いで駆け寄る。大きな怪我をしているようだ。
「どうしよう。えぇぇぇ!? どうしよう」
リュックにある救急セットでなんとかなる? でも、この血の量って相当だよね。どうしよう、どうしたら。動揺して頭が回らない。
「ユウカ、この人を助けたいの?」
ライの質問に即答する。命の恩人だもの。何かできるなら何でもしなきゃ!
「助けなきゃ! だってこの人は私を助けてくれたもの! だけど、どうすれば……」
「それなら癒しの水を使えばいいと思う」
「え?」
「癒しの水だヨ。さっきまで出してただロ!」
「うん、あの水に浸かれば治ると思う」
「浸かるって言ったって……」
ここに呼び出しても意識がなくて沈んでしまったら大変だ。それに意識のない知らない男性を温泉召喚による脱衣効果で素っ裸にするなんてそんな事――。
「じゃあ、僕達で癒しの水を運ぶからユーカはさっきみたいに出して」
「ボクガ入ってたアレで水も運べるだロ。傷口にかけてやれバ」
「それでいけるの?」
「たぶんナ」
「じゃあすぐやろう!」
立ち上がりもう一度と両手を前に出す。
あ……、さっきは脱衣所前までなら服は消えなかった。なら、私は中に入らなければいいのでは?
「温泉召喚!!」
よし、服は着たまま呼び出しは出来た。
「ライ、グミ! お願い」
「はーい」
「はいヨ」
二人が中に入って行く。だけど、何も持たずにすぐ出てきた。
「ユウカ、水がないゾ」
「え?」
「ユーカも中に入らないとダメなのかも」
「えぇ!?」
急いで脱衣所に入る。けどそこでもまだお湯はないみたい。こうなったら服を着たまま中に?
考えてる時間が勿体ない。
えいっと中に飛び込むとさっきまで確かに着ていた服がまた消える。
そうよね、浴場内は服着てちゃダメだよねー。
でも、私が中に入ることによって浴槽内には溢れるような温泉水が現れていた。
なんて、困った魔法なのかしら。でも――。
「ライ、グミ! お願い」
再びのお願いに二人は頷いて水を汲み上げ脱衣所へと出ていった。
外に出て水が消えたとかはなかったみたいですぐ戻ってくることはなかった。
「ライー、グミー、もういーい?」
「もういいよー!」
うまくいったみたい。ホッとしながら脱衣所に出る。服は……、ないみたい。次はここで脱いでから入ってみるのを試してみようかな。
大丈夫、さっきも上手くいったんだからと自分に言い聞かせもう一度消す。景色と服が再び戻ってきた。
私はすぐに男の人のところに駆けていく。
「どう? 傷は消えた?」
「問題なイ。癒えてル」
「びしょびしょになって体が冷えないように水は回収しておいたよ」
ライはそう言って水を魔法で固めた塊だろうか、それを近くに運びそっと地面に置いた。ライが置いた瞬間水の塊だったものが弾け、土へと吸い込まれていった。魔法って便利だ。
大きくえぐれていた脇腹の傷は無かったように消えている。大きな穴が空いているのと血で赤く染まった服が、ここに怪我があったことを物語っている。
「まだ、目は覚ましてないのね」
血は流れてしまったから無理もないのかな。
起きたらチョコクッキーを食べてもらおう。アレは鉄分入りだものね。
「大丈夫ですか?」
顔をのぞき込みながら聞いてみる。まつ毛が動いた。それからすぐに目も開く。うわー、やっぱり綺麗な青色。
「✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕」
両手を握られた。何か言っているけれど、言葉がわからない。
手を握られ、男の人が目の前にいる状況に私は戸惑った。こんなに近くでまじまじと顔を見られる状況は流石に初めてだよー! いったい、どうしたらいいのー!?
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