第9話 思い出のキャンプリュック
突然目の前に現れたキャンプリュックに私は目を輝かせる。
「なんで、なんでここにあるの? うわー、絶対そうだよね!?」
就職が決まって、これから行きにくくなるだろうと父が誘ってくれたキャンプ。だけど、直前で行けなくなってしまった。予定日の1週間前、父が事故で他界したから……。片付けしながら、当分の間このリュックだけはなかなか手を付けられずそのままだったっけ。
時間がかかったけど、きちんと片付けて空っぽになったリュックは部屋の奥にしまってたんだけどな。
「空っぽじゃない。あの時の……、リュックだよ」
父がなんだか帰ってきたみたいで、少し目頭が熱くなる。
「これがユーカの司るもの?」
ライとグミが不思議そうにリュックを見る。
「司るというか、好きなものだよ。うん、好きなもので大事な――」
「食べ物カ? 匂いがすルぞ」
グミがリュックの中の携帯食料にでも反応しているのだろうか、そんな事を言っている。ということは、この中には片付ける前のあれやこれが入っているのだろうか。
リュックを開けて軽く調べてみる。たぶんあの時の物がすべて入っている。
「これがあれば数日はなんとかなる」
最悪のケース、桃香が戻ってこなくても数日ならなんとか生存出来るかもしれない。
そこまで考えて不可思議な目眩がした。
「ユーカ、今使う物だけ取って他は消えるように考えて」
「え?」
目眩で頭を手で支えながらライの言った通り、チョコクッキーの入った箱だけ出してリュックが消えるように頭で考える。すると、フッと目の前からリュックは消えた。同時に強い目眩も消える。
「初めてだからかな? 魔力酔いをおこしてる」
「魔力酔い?」
「魔法を使った時に自前の魔力が尽きそうだと起こル。気をつけロ」
「そうなんだ」
「最初は少しだけど力を鍛えれば、いっぱい使えるようになる」
「そっか、レベルアップだね。何をすれば鍛えられるんだろう?」
「まずはそれを食べるゾ!!」
グミの目がキラキラしてる。確かに、お腹は空いてるかも。
「食べよう。これはそのまま食べられるからね」
賞味期限は……、わからない。見覚えがあるパッケージだけど賞味期限欄はあるが日付が入っていない。というか、私が記憶している部分しかはっきり印刷されていない。原材料欄も曖昧だ。
「魔法だから、大丈夫だよね」
「何が?」
「ううん、こっちの事」
箱を開けてアルミの中袋も開ける。中身はよくある棒状のチョコクッキー。匂いも異常はない。
「はい、どうぞ」
「おいしい!」
「ウマいナ!」
渡した途端口に放り込む二人に笑いがこぼれる。
「はやいよ、もう」
自分の分を口に運ぶ。子供の頃、父が手渡してくれたのと同じ。
「美味しい」
――そう、父にも同じセリフを言ったっけ。それからキャンプの時は毎回入れてくれるようになったんだ。大人になったのに、このリュックの中にも入れてたんだよね。
懐かしさを感じながら、甘いチョコクッキーのおかげで色々あって空いていたお腹が少し満たされた。
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