第7話 司るモノ

 水を探して右往左往。


「そんなに簡単に見つからないか」


 あまり離れすぎないように注意しながら辺りをさがしてみるが飲めそうな水は見つからない。

 植物から得ようかなとも考えたが見たことある感じだけど、毒性がないかはわからないから困ってしまう。

 地面に石で『水探しに行ってます』とメッセージを残してきたけれど、そろそろ確かめに戻るべきかしら。


「ねえ、ユーカ」


 ライが袖を引っ張る。


「なあに? 疲れちゃった?」


 ライは体が小さいから私と比べて歩数が増える。私より疲れてしまうだろう。


「お水があればいいの?」

「そうねー。出来れば澄んだ川とかが見つかればいいのだけれど」


 ついでに浄水器か蒸留装置、沸騰させるだけでも危険性は下がるかな。それはおいおい考えるとして水を見つけたい。あぁ、自販機や水道がどれほどありがたいか身にしみる。干からびて倒れる前に見つかるかしら。


「お水出せるよ? 少しなら」

「え?」

「手を出して」


 ライに言われるまま手を出す。水だったら受け止められるようにおわん型にしてればいいかな。ライの小さな手が私の両手の上にかざされる。

 次にライとグミが小さく何かを呟く。

 ぽたんと一滴、ぽたぽたと数滴、ぱしゃんと水の塊が順番に私の手の中に落ちてきた。


「え、え? 何これ」

「お水……、僕達水を司る神獣だからつくれる。飲んでも大丈夫」

「え、ほんと? すごい! 魔法だね」

「倒れる前に飲んで」


 澄んだ水が手の隙間からぽたぽた落ちてしまいそう。

 ライが大丈夫と言ってくれている。こぼしてしまうのはもったいない。


「ありがとう。もらうね」


 手の中にあった水をすべて口の中に流し込む。冷たくて美味しい水だった。

 喉を潤し終わってホッとする。


「生き返ったー。ありがとう、ライ」

「どういたしまして」

「ボクも手伝ったんだけド」

「そうなの? ありがとう。グミ」

「フ、フン!」


 ライは素直に笑ってくれるけどグミは照れてるのか顔をそっぽ向ける。性格が正反対なのかな。だけど、ぴったり二人はくっつき合っている。不思議な二人。

 魔法を使ったり、神獣って言ってたっけ? 神獣っていったいなんだろう。


「この水ってどれくらいだせるの?」

「えっと、少し休めばまた出せるよ」

「そっか。じゃあまたお願いするかも。いいかな?」


 ライはこくりと頷く。良かった、これで水が無くて干からびる心配はしなくて済みそうだ。


「なー、ユウカ。もしかしてここじゃないどこからかきたのカ?」

「え、どうして?」

「だって、神獣の事何も知らないし普通ならボク達が卵から出てくる日は共に生きる神獣使いの赤子の誕生日だからサ。あの女とユウカは大人だっタ」

「神獣使い?」

「ほらなにも知らないだロ」


 グミがフンッと鼻を鳴らす。


「この世界の住人なら、知ってるはずの事だかラ。ユウカはいったいどこからかきタ?」

「えっと、日本って言ってわかる?」


 二人が揃って首を横にふる。知らないかー。なら地球って言えば通じないかな。通じないよね。


「異世界からの来訪者」

「この世界を救う為に遣わされた存在」

「だから僕達が選ばれたんだ」

「なのニ、あの女ハ――」


 だんだんライとグミが暗くなっていく。嫌なことを思い出してしまったのかもしれない。何か話題を変えたほうがいいよね。


「ねえ!」

「ねぇ!」


 私とライの声が重なる。慌ててライに次を促す。


「ライの話が先でいいよ」

「あ、えっとね。ユーカも僕達みたいに魔法が使えるよ。たぶん」

「え……。いやー、無理無理。だって私はただの会社員で、ただの人間だから。魔法なんて生まれてこの方使った事なんて」


 そこまで言ってハタと気がつく。そういえば私、姿形が変わってる。もしかして今までの私じゃない?

 魔法使えちゃうの!?

 ドキドキしながら両手を見る。ライ達みたいに水が魔法で出せちゃうの!?


「試してみればいいじゃないカ?」


 グミがやってみろと言うのでものは試しとライがやったように手を前に突き出してみる。もし水が出たら勿体ないかなと少し考えて今度はライに下で受け止めてもらうようにお願いした。


「いきます!!」


 はぁぁぁぁぁと気合を込めてみる。


「水よ出ろ!!!!」


 …………。


「水よ出ろー?」


 …………。


「お水さーん?」


 出ません。手から水なんて出ません。わかってたけどね。


「魔法出来ないよ? グミ先生!」

「誰が先生ダ。ユウカは水を司る訳じゃないだろ。自分の使える魔法。司る物をだナ――」

「司るもの……司るもの?」


 私が司るなんて、何もないよ。司るって職場の?平社員だよ?


「ユーカは好きなものとかない?」

「好きなもの……?」


 あー、あるある。好きなものというか、趣味?

 交通事故で亡くなる前に父と一緒にいっぱい行っていた――。


「キャンプ!?」


 その言葉を口にした途端、目の前に現れたのは手ぶらで行けるキャンプ場への準備セット。父が用意してくれていた見覚えあるリュックに詰め込まれたキャンプ道具(レベル1セット)だった。

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