第21話 秘密の計画!?

「カインラッドのログイン記録から、君の隣にいた娘のことを調べた。どうやら、その娘は君のお気に入りらしいね」


 山賀の言葉に思わず唯の方を見た。唯はニッコリと笑いながら頷いた。唯は俺が希を好きなことを知っている。それでもこの言い方には気になった。


「そして、希さんは極めて珍しい血液型だ。そうだね」


「はい!!!」


「希さんを救う方法は今の医学では移植手術しかない。だから、君は僅かな可能性を賭けて、ここに来た。そうだろう」


「希さんの命はもう後わずかなんです。助かる見込みは、……もうない」


「ふむ……」


 山賀が隣に座る医師と話していた。これは英語、いや違う……ドイツ語だ。何を話してるんだよ!俺はもちろん、隣に座る唯にも分からない。


「うん、それならちょうどいい」


 そう言って俺たちに向き直り、ニッコリと笑った。


「もし、わたしが希さんを救えるとしたら、どうする!?」


「えっ!?」


「た、助かるのか!!!!」


 隣に座る唯が大きな声で身体を乗り出した。ガタッと椅子の大きく動く音が聞こえる。


「……ふむ」


 山賀はチラッと唯を見て、こちらをじっと見てきた。


「ただ、今ではない、そうだな。土曜日ではどうかな」

 

 なぜ、今じゃいけない。


「どうして、今話してくれないのですか?」


「それを私が答える義務はない。土曜に来るのか、来ないかだ」


 俺は唯に目配せする。今、山賀を怒らせて取引が成立しなっては意味がない。土曜は昼以降休みにしている。大学からここまでは昼の2時に着けるか。


「14時以降でしたら、ここに来れます」


「そうか。なら、拓也はここに来てくれたまえ。ここなら、君の大学からでも、そんなに時間はかからない」


 そう言って名刺を差し出した。名刺には俺が図書館を利用させてもらっている大学の名前が書かれていた。


「客員教授だがね。一応部屋をもらっているんだ。ここの受付でわたしの名前を伝えてくれれば、通してくれるよ」


「僕もご一緒させてもらうことはできませんか!!!」


 隣に座る唯が立ち上がりそうな勢いでそう言ったが、山賀はゆっくりと首を横に振った。


「すまないが、わたしが取引したいのは拓也くんだ。申し訳ないけど今回、唯くんはご遠慮願いたい。拓也くん、それでいいかな」


「分かった!!」


 その返事を聞いた山賀は満足そうにじゃあ、わたしは先に出ますので、会計は後払いにしておくので自由に食べてください、と言って教授と共に出て行った。


「希、助かるだろうか!?」


 唯は今まで見たことのない笑顔で真正面から俺を見た。


「きっと可能性があるよ! あの天才科学者山賀明彦は嘘なんてつかない。彼は確かに、救えるとしたら、と言った。この一言はきっと彼以外誰も言えないよ」


「そうだよな!」


 唯は俺に身体を預けてきて、俺の背中を軽く叩いた。


「希は助かるかもしれないか。よし、よし、よし、よし、よし……」


 その言葉は自分に言い聞かせているようにさえ感じた。長い間、胸の中に一人でずっと耐えてきた気持ちだろう。


「今まで頑張ってくれて、ありがとう。俺、命がけで交渉してくるよ!!」


「ああ、頼むな!! 俺も一緒できたら良いんだけど、そう言うわけには行かないらしい。よろしく頼むぞ!!」


「分かった。なら、終わったら連絡するから!!」


 山賀との交渉の結果をいち早く知りたいだろう。それは俺が逆の立場でも同じくそう思う。


「じゃあさ、16時に大学近くのカフェで待ち合わせにしようか!?」


「そうですね!! それがいい。ああ、僕はいい友達を持ったよ。短い付き合いで、こんなこと頼めた義理じゃないが、拓也頼みますね!!」


「ああ!! 俺だって希ちゃんを助けたいよ!!」


「だよなあ、あんないい娘いないぜ!!」


 唯と喜びを分かち合いながら、俺は大きな違和感を感じていた。なぜ、山賀は唯に来て欲しくなかったのか。


 俺は家に帰る途中、ずっと考えていた。唯に知られたくない事情があるのか。あるとしたらどう言う事情だ。科学者が知られたくない事といえば、違法な実験。


 馬鹿な。そんな筈はない。ただし、希の病気を心配して、俺に人工心臓の技術を提供したくなった、などと言うことも絶対にない。


 俺は家に着くや二階に上がり、ネットで山賀明彦のことを調べた。


 それで分かったことだが、山賀明彦は素晴らしいクリエイターであり、研究者であるが、色々と悪い噂の書き込みがされていた。


 その殆どが消されたのか。途中で削除されていたり、タイトルだけしか残っていないものばかりだったが……。最近更新されたSNSに目を奪われた。


 それはスワヒリ語で書かれたSNSだった。翻訳エンジンを通してみると驚くべき事が書かれていた。


「騙されるな!! 山賀明彦は人殺しだ!!」


 下にリンクがあったため、俺はゴクリの唾を飲み込みマウスをクリックした。


 そこには……。


「嘘だろ……おい!!!」


 そこには、おびただしい子供の写真が載っていた。


「これは、一体……何なんだ!!」


 リンクがあったため、そこをクリックしたが、そのリンク先は切れている。


 この子供達は……どうしてここに載っているのだ。


 山賀明彦は人殺しだ……、一体どう言う事なんだ!!


 翻訳エンジンが間違って翻訳したかもしれない。俺はあらためてスワヒリ語の意味を調べた。


 Akihiko Yamaga ni muuaji


 山賀明彦は人殺しだ。


 こんな簡単な文章を間違えることはない。


 一体どう言うことなんだよ!!!!

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