第13話 バトル

「おっらー、行くぜ!!」


 和人は大きく振りかぶり、俺に剣を振り下ろしてきた。ちゃんと説明も受けないから仕方ない。俺はゆっくりと右に避けると、素早く肘を入れた。


「嘘だろ! おい!! 動けねえぞ」


「ヒットポイントバーを見てください。和人さんのHPは1ですよね」


 今回の戦いは死なないように1になった方が負けるようにしている。リアルの戦いなら俺がどんなに上手く動いても和人に勝つのは不可能だ。それは和人と俺では筋肉のつき方が全く違うからだ。俺は和人ほど早く動けないし、強いパンチも出せないだろう。


「これは、ほんと、凄いですね」


 唯は和人が俺に勝てない理由が分かったようだ。


「HPの少ないレベル1であれば一撃が致命傷になると言うことですね」


「唯くん流石です。確かにそうです。唯くんがクレリックならば、絶対勝てないと言ったのもそれが理由。一撃で相手を倒すことができるレベル1ではヒールはあまり意味はない」


 これが低レベルモンスターならば話は別だけど、レベル1でも後ろから膝を入れられたら10しかないHPでは後方からの物理攻撃で9持っていかれるため、勝てるわけがない。


「くっそー!! ちゃんと説明聞いたら絶対勝てるからな!!」


 やれやれと思ったが、唯も同意見らしい。


「和人、どうやら僕たちでは勝てそうにないですよ」


「なんでだよ!!」


「まず現実世界であれば、人それぞれ肉体差があります。でも、ゲームの世界では最初の職業選択とスキル振り分けで全てが決まります。きっと、アミラは最高の振り分けをしてるはずです」


「よく分かりましたね」


「和人よりもアミラさんの方が明らかに早かったですからね」


 そうだ。カインラッドには最高の初期数値がある。それだけでも勝てないが……。


「もう一度やれば、あんな奇策に負けはしないぜ」


「和人さんがこのゲームに興味を持っていただけるのはDMとして嬉しいです。では、色々と教えましょう」


 俺は1レベルで使える技や避け方など様々なアドバイスをした。和人のスキル振り分けを教えてもらった上で、攻撃重視タイプであれば、相手の攻撃を見てからのカウンターがいいとアドバイスもした。


「アミラは強いよね。やはり、わたしが凄い人だと思ったのは間違いじゃなかったよ」


「アミラ、お前だけは、倒す!!!!」


 希の俺への評価がより和人の俺への憎しみを増大させたようだ。


「それじゃあ、もう一戦行きますか?」


「ああ!!」


「じゃあ、俺から行きますよ。カウンターを意識してくださいね」


「言われなくてもわかってるぜ」


 俺は右手でパンチを繰り出す。この攻撃では和人を倒す事はできない。


「おっらー、カウンター攻撃だ!!!」


 俺はカウンターを食いながら……。


「それじゃあ、行きます!! パワーボム!」


 和人は俺の攻撃をまともに喰らって倒れた。


「嘘だろ!! なんでだよ」


「和人のカウンター攻撃は12ですね」


「そうだよ、なんで立ってるんだよ。なんで攻撃を繰り出せるんだよ」


「本来ならカウンターをされた時点で俺は倒れてるはず。そうですよね」


「そうだよ! チート野郎め」


「チート……ですか!?」


「希もそう思うよな? 10しかないのに12のダメージを喰らえば倒れるはずだ。きっとレベルを上げてたんだよ」


「そうなのかな? アミラはそんなことしないと思うけどね」


「こいつの何がわかるんだよ。そもそも、こいつは希を狙って……」


「和人、それ以上言ったら、怒るよ」


「ごめん、それは言わない約束だった」


 どうやら、和人と唯を呼ぶときに希は条件を出していたようだ。


「簡単なことですよ。じゃあ、種明かしをしましょう。俺はレベルを上げたり姑息な手段なんて使ってませんよ」


「じゃあ、不可能じゃねえか」


「いえいえ、可能ですよ」


「じゃあ、俺の攻撃の数値を誤魔化してたのか!?」


「いえ、ちゃんと12の攻撃でしたよ」


「なら、倒れないわけがあるはず……」


「わたしは戦う前にシールドを使いました。ファイターのレベル1スキルですね。そのおかげで、攻撃は4減らして8です。和人くんへのダメージは最初が4、次の攻撃パワーボムで8です。分かりましたか?」


「シールドって一回しかダメージ軽減しないって言ってたよな」


「だから、一回ですよね」


「マジかよ!!」


「クレリックの魔法は詠唱時間がありますから、対人戦向きではありません。唯くんは回復魔法を使おうとしていたようですが……」


「よく見てますね」


「DMに切れてくるプレイヤーが多いですからね。そう言う時はこの対処法でやってますので、他にも色々とやり方はありますけどね。同レベルでは負けないですよ」


「参考までにどう言う戦いをしたら良かったですか?」


 唯が興味深そうに聞いてきた。このふたりの関係を見て思ってはいたが、和人は希への想いを口にはしないが、バレバレなくらいハッキリと表現しているのに対して、唯はあくまでサポートになっている気がする。


「そうですね。唯さんも攻撃した方がいいかもしれなかったですね」


「クレリックなのにですか?」


「レベルが上がると詠唱時間を短くしたり、無詠唱なんてこともできますが、レベル1だと詠唱時間がネックになります。パーティ戦だと一緒に飛びかかるのはあまり感心しませんが、こと対人戦だと詠唱が終わるまで待ってくれるプレイヤーはいないでしょう」


「なるほど、興味深いですね」


「そうなんだよ。アミラはとっても物知りでカッコいいんだよ」


「希!! お前はこの男のことを……好きとか言うわけじゃないだろうな!!」


「えっ、好きだけど……」


 希の返し方があまりに自然で、和人自身も何を言われたのか分からなかっただろう。えっ!? 希は俺のことが好き!?


「希、ログアウトするぞ」


「えっ、ちょっと待ってよ」


「待たない……」


 和人がそう告げると同時に和人と希は同時にオフラインになった。


 一人残った唯が苦笑いをしている。


「これってどう言うこと?」


 和人がログアウトするのは分かる。なぜ、希も同時にログアウトになるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る