第12話 カインラッドに降り立つふたり
俺がカインラッドに繋ぐと、希がそこにいた。
「よく、ここに出現するって知ってたね」
俺は喜んで手を差し出すと希は、凄く申し訳なさそうな顔をする。
「ごめん、今日から一人じゃなくなった……」
よく見ると希の後ろに唯と和人がいた。うわ、まさかと思ったけど、本当に来たんだ。流石にふたりがいるのに、希にスキンシップをするわけにはいかない。
「こんにちは、ふたりは希さんの友達かな!?」
俺はなるべく優しい口調で話しかけたが予想通り俺の言葉に和人が嚙みついてきた。
「ゲームの中で結婚したと言うのはお前か!?」
希がふたりに結婚の話をしていたから、間違いなく、その質問が来ることは予想できた。俺は言葉を選んで話す。ここは間違えてはいけない。
「まあ、ゲームでのことですよ。カインラッドは楽しいイベントがあります。わたしはみなさんのDMですので、希さんが楽しめるように演じてきました。おふたりにも色々有用なアドバイスができると思いますよ」
俺の言い分は、結婚イベントはあくまでカインラッドを楽しむための余興と言うわけだ。こうでも言わないと希はカインラッドのプレイ自体禁止されかねなかった。
「喧嘩はしない約束だよ! 喧嘩するなら、わたしはログアウトするからね」
そうか、希がふたりをカインラッドに連れて行く条件に俺と喧嘩をしないことがあったようだ。希にとっては結婚はふたりのオッケーをもらっていたわけだし、後ろめたいことは一切していない、と言う事だろうか。口喧嘩になると女性に勝てないと言うが、本当にこういうところは抜け目がないな、と感じた。
「あっ、ああ……」
希に嗜められた和人はご主人の忠実な犬のようにおとなしくなった。ただ、俺に一言言いたくて仕方がないようではある。
「希と結婚イベントしたからと言って、本当に付き合えたとか思うなよ!」
「ちょっと和人!!」
「大丈夫、俺もゲームを楽しむために来たんだ。ただ、これだけは言っておかないと、もしかしたら勘違いされているかもしれないだろ!?」
ぎりぎりのラインで希の矛先を
「アミラさんでしたっけ!? あなたのことは、希から聞いています。色々なアドバイスなどありがとうございました。今後は僕と和人もよろしくお願いします」
隣に立つ唯は手を差し出してきたので、俺もそれに従って握手をした。唯はいつも冷静だよな。
「それと希、MMORPGでの結婚はね。オフラインゲームの結婚とは違うんだよ」
「へ、そうなの!?」
「うん。僕も色々勉強して分かったことだけどね。SNSでの恋人関係に近い気がするんだよ」
この唯の忠告は俺のいない所で言えたはずだ。あえて、そうしないで俺の前で釘を刺そうと言うのか。頭がいい分厄介な相手だ。
「じゃあ、さ。アミラはわたしが好きだから結婚したって言うこと!?」
「どうなんでしょう。目の前のアミラに聞いてみてはいかがでしょう?」
その質問はもちろんイエスだ。だが、ここでそうだ、と言ってしまうと俺は追い込まれてしまいかねない。唯は俺に心を許してはいない。
「ね、アミラ、どうだろう」
その言葉は嫌悪感ではなく、単なる好奇心だ。俺が希のことを好きだと言っても許される雰囲気を感じた。ただ、周りの空気がそれを許さないと言っている。そもそも、唯が結婚イベントのことを説明するのは、俺を好意的に感じていないからだ。
「それは……」
どう答えるべきだろう。俺が希のことを好きだと言えば、和人と唯から強い警戒をされることになる。逆に好きじゃないと言えば、自分に嘘をつくことにもなる。もし、今後があるのであるなら、嘘はつきたくない。
「わたしはDMですし、希さんを楽しませるのが仕事です。そもそも、わたしはリアルでの希さんを知りませんし、たとえ好きであってもカインラッドだけのつきあいですよ」
だから、どっちにでも取れる曖昧な答えをした。リアルで知らないと言ってしまっていいかどうか迷ったが、ここを強調した方がふたりを安心させることが出来る。
「うん!! わたしは充分楽しかったよ。それにね、和人、唯、アミラは凄く強いんだよ。一回、戦ってみたら分かるよ!!」
「希、矛盾してないか? 喧嘩はダメだって言ってただろう?」
「だから模擬戦だよ。喧嘩は許さないけど、模擬戦ならいいよ」
「希、そんなこと言ったってよ。俺はまだレベル1だぜ!! 勝てるわけがないだろ!!」
「わたしもレベル1、スキルレベルも1にして戦いましょうか。それでもハンデがあるから、そうですね。二対一で戦うというのはどうでしょう。もちろんレベル1で何ができるか、すべて伝えますよ」
「それは面白い!!」
和人が目を輝かせた。幼馴染にいいところを見せる絶好の機会が来たというわけだ。
「でもよ、アミラがレベル1だとどうやったら、分かるんだよ」
「それは、パーティを組めば分かります。カインラッドはパーティ同士でも攻撃することができます」
俺は和人と唯をパーティに入れた。これでレベルを含む、すべての数値を共有できる。
「確かにレベル1になってるな。なら、充分だ。唯、お前のヒールで援護してくれよ」
そうか、和人はファイターで、唯はクレリックらしい。それならば、攻撃をしてくるのは和人だけか。なら、和人は同レベル、同スキルでも絶対俺には勝てない。
「もうひとつだけハンデをあげましょう。わたしは右手だけしか使いません」
「なめるなよ!! 手を抜いた勝負じゃ、勝ったって、うれしくないんだよ!!」
手を抜くわけじゃない。レベルが1だろうが、スキルが1だろうが、たとえ右手しか使えなくても、カインラッドでは絶対に和人は俺に勝てない。その絶対の自信がそう言わせたのだ。
「大丈夫です。絶対勝ちますから!!」
俺が希に向かって微笑むと、和人は左手を右手の平に向かって力強く叩いた。
「いい度胸じゃねえか。なら、本気で行かせてもらうぜ!!」
「その前にアドバイスを!!」
「そんなのいらねえよ。唯、サポート頼むぞ!!」
和人の馬鹿やろう。教えても勝てないのに、何も知らないでどうやって勝つんだよ。
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