第10話 希の病気とは!?

「昨日、希が病院に担ぎ込まれた、って本当なのか!!」


「父がそう言っていましたから、間違いないですね」


 俺は次の日、大学のカフェに行くと和人が唯が激しい口調で口論しているのが聞こえた。


「で、希はどうなんだよ」


「いつもの発作のようです。興奮した時など、喜怒哀楽が強く出ると起こるらしいです」


 その言葉を聞いて、和人は溜息をついた。


「それでも、気をつけないといけないでしょうね」


「そうだな。でも、なぜ、あいつ家の中でそんなに興奮してるんだよ」


「どうやら、ゲームをしていたらしいですよ」


「ゲームねえ。結構、あいつお子ちゃまなところあるからなあ」


「わたしたちもそのゲームをプレイしたほうがいいかも知れません。そうすれば、先に注意もできますし……」


「確かにそうだな」


 希が昨日、倒れたと聞いて驚くしかなかった。希は何の病気なんだ。俺も希の行動に気をつけないといけないが、今後、ふたりもカインラッドをプレイするとなると、色々とまずい事になると思った。


「澤田さんの病気って、何の病気なんですか!?」


 ふたりはお互いに目を見合わせた。


「おっ、オタク来てたのか」


「だから、オタクじゃありません」


「有馬くんですよね」


「何度もそう言ってますよ」


「悪い……、だがよ、お前が自己紹介でそう言うからさ」


「まあ、ネットゲーは良くしますけどね」


「だから、そんなにひょろひょろなんだろ」


「ひょろひょろなのは関係ないですよ」


「まあ、オタクと言ったのは謝るよ、ごめん」


「話が脱線しましたね」


「どうするよ」


 俺の目の前で和人と唯は目を合わせた。


「有馬は希と会ったこともないしな」


「そうですね。まずは一度本人に会ってからじゃ無いとね」


「だよな。希が言いたがらないかも知れないしな」


「確かに……、希の性格からすると、そうなるかもしれませんね」


 そう言って、俺の方を向いた。


「悪い、また希と会った時に本人も交えて話すわ。無責任なこと言えないしな」


 確かにそうだ。俺は和人や唯と友達になったが、希とはリアルでは隣の席のゼミ生なだけで、話さえしていない。常識的に考えて、希の気持ちを尊重するのは当たり前だ。


「澤田さんとは、いつ会えますか!?」


 俺は希の病気を知りたいばかりに思わず、こう口にして、しまったと思った。


「おい、なぜ、そんなに希にこだわる!」


 和人の言葉には強い棘があった。これはまずい。カインラッドでは希と結婚までしていたから、つい軽口を叩いてしまった。


 現実世界では赤の他人なのだ。


「いえ、病気をしてると聞いて、つい……」


「希は病気なんかじゃねえ!!」


 和人が怒気を含んだ声でそう言った。


「まあまあ、怒らなくてもいいでしょう」


「唯は優しいが、俺は希に関しては本気だ。どれだけ希目的で俺たちに近づいてきた奴がいたか分かってるだろ」


「はい、希を力づくで連れ出そうとした奴もいましたね」


「あいつ、身体弱いからさ」


「それは分かってます」


 そう言って、再度俺を見た。和人の瞳は疑心暗鬼になってるように感じた。


「希につきまとう気なら、友達辞めるからな!!」


 俺はしまった、と思った。和人の希を想う気持ちは、幼馴染のそれを遥かに超えている。きっと、身体の弱い希をずっと見守ってきたのだ。


「つきまとう気は……ありません。ただ、少し心配していたもので……」


「まあまあ、彼は和人のライバルにはならないでしょう」


「そんなこと分からねえよ!!」


 和人の希への想いは、ただの幼馴染なんかよりもかなり強い。ずっとこれまで助けて来たのだろう。その長い期間の想いが強い恋愛感情に変えたのだ。あまりにバレバレなのだが、好きな事を気づかれたくないのか、明らかに顔を赤くしてるのは怒ってるからだ、と言いたげだった。


 唯は俺の肩をポンと叩いて、耳元で囁くように言った。


「和人の非礼はお許しください。彼は希のことに対しては周りが見えてませんからね」


「おい、唯何をこいつに言ってるだよ!!」


「さあ、希の攻略法とか、かな」


「お前、ふざけんなよ!!」


 和人は唯に掴みかかろうとして、さっと交わされた。


「無理ですよ。和人の攻撃は当たりません」


 見た目は眼鏡をかけた優男なのに、この身のこなしは、きっとボクシングをしていたからなのか。


「それより、ここに居ていいのですか?」


「ああ、そうだ。拓也、ちょっと行ってくるからな」


 そう言って和人が走り出すのを俺と唯は見送った。


「唯も来るんだよ!!」


「えー、僕もですか!?」


「お前の父親の病院だろ!!」


「そうでしたな。ごめんね、また!!」


 唯を引っ張る和人、ニコニコと笑いながら唯は俺に手を振っていた。唯の父親の病院とはどう言うことだ。


 俺はふたりがいなくなった教室で、ずっと考えていた。

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