第7話 恋人繋ぎ
「まあまあ、希の話はいいとしてね」
和人があまりにも重苦しい態度だったのに気づいた唯がフォローを入れてきた。
「そうだな、ごめんごめん」
和人は唯の声に我に返ったような表情で無理やり笑顔を作った。希の入院が単なる怪我でないことは間違いない。病気のことが凄く気になったが、今の関係ではあまり深入りすることもできない。
「二週間もすれば、ゼミにも出られるから、心配しなくても大丈夫だよ」
カインラッドで手を握った時、希の手は恐ろしく冷たかった。希の病気のせいなのだろうか。俺は凄く気にはなったが、なら良かったよ、と返すだけしか出来なかった。
ふたりと友達になって分かった事だが、和人も唯も爽やかなくらいいい奴だ。一週間もすると彼らを通して同じゼミ生と話し合えるくらいの仲にはなっていた。
「和人くんや唯くんと友達なんでしょ! 紹介してよ!!」
それにつれて女子から声をかけられることも増えたが、みんなイケメンのふたりが狙いで隠キャの俺に話しかけたくて近づいてくる女子は誰もいなかった。
そうして、希の入院から2週間を過ぎようとする頃、救援要請が入った。
希がオンラインになってる!!!
俺は胸をドキドキさせながら、希のところに瞬間移動しようと思った。リアルでは何も出来ない俺だが、カインラッドで出来ない事はない。
「はや!! あまりに早いからびっくりしたよ!!」
DMのヘルプ要請などは、瞬間移動出来ることが分かると便利屋のようにヘルプ要請が来るから、ゲートを使う魔法しかないと説明していた。
カインラッドでは、この移動魔法は都市伝説として語られてるだけで、どこで入手出来るか知ってる者は俺以外いない。
エンシェントドラゴンを単独で倒した時にだけ出るアイテムを複数の激レアアイテムと調合して、この魔法は完成する。そもそもエンシェントドラゴンに会うこと自体が、都市伝説だ。倒したプレイヤーは俺の知る限り10本の指に数えられるくらいだった。そのプレイヤーがパーティを組んで連携を取り、やっと倒せたと言う話を一度か二度聞いたくらいだ。一人で倒すなんて俺以外絶対無理だ。
開発者が話さない限り、当分の間この魔法が存在すること自体知る者はいないだろう。俺も今まで勤めてゲートを使う魔法しか使ってなかった。
だが、希と会えるとなれば話は別だ。
誰か見ていなかったか! 俺はあたりを見渡したが、幸いにも俺の魔法を見たものはいない。
「アミラ、本当にわたしに会いたかったんだね」
「ああ!!」
「ちょっと!! そこはツッコむところだよ」
希は顔を赤らめてモジモジしていた。俺はこの可愛い天使をずっと探していた。唯と和人から大学には来ていないと聞いていたし、カインラッドもずっとオフラインだった。
その希が俺の目の前にいる!!
俺は泣き出したいの堪えるため、歯を食いしばった。
「いきなり消えて、二週間も来なかったから、辞めてしまったかと……」
「もう、そんな真顔で言われたら照れるよ。大丈夫、ちょっとリアルで忙しかっただけだからね」
和人の言った
だが、俺はそのことを聞くことは出来ない。
そう、カインラッドはゲームで希は遊びに来てくれたのだ。楽しませてあげなくて、どうする!!
「確かに、そう言ってたね」
俺がそう言って微笑むと、希もふふ、と意味ありげに微笑んだ。
「ねえ、結婚すると行けるダンジョンとかイベントがあるって言ってたよね!!」
もしかして……。
「ねえ、行ってみようよ。それとも、もう一人で行っちゃったかな!?」
「いや、行ってない。行ってない」
希と結婚出来たことが嬉しくて、その後のイベントやダンジョンなんて、俺にはどうでも良くなっていた。俺が本当に行っていない事が分かると、
「じゃあ、行くよ!!」
と希は満足そうに俺の手を繋いだ。
「えっ!?」
「へへへへ、恋人繋ぎ!!」
そして希は指と指を絡めてきた。
「リアルで、よくするの!?」
「ばか、手を繋いだことも、そんなにはないよ」
そんなには無いと言うくらいだから、全く繋いで無いわけじゃ無い。それでも、恋人繋ぎをするのは初めてらしかった。
今の希のレベルでも行けるダンジョンはあるにはあるが、今ならこのイベントがいいだろう。
俺は希に手を引かれながら、魔法を唱えた。
突然、晴れ渡っていた空に暗雲が立ち込め、稲光と突風が吹き荒れる。
「えっ、ちょっと!! アミラ、怖いよ」
足を踏み外して転けそうになった希を俺は抱き寄せた。ぎゅっと抱きしめると希の身体は思った通り軽くて、造作もなくお姫様抱っこをしながらでも走れる。俺は雲に向かって走り出した。
「ちょっと、ダメだよ!! 危ないよ!!」
「大丈夫!! 希はちょっと目を閉じていて!!」
俺は希を抱き寄せながら、軽く十数メートルジャンプした。こんなの現実世界では絶対無理だ。そもそも、俺のひ弱な身体じゃ、一般女性よりかなり軽い希でさえ、お姫様抱っこして歩く事すら難しいかもしれない。
俺の身体は上手く暗雲から出てきた浮遊物に着地することができた。
「希、もう目を開けて大丈夫だよ」
「えっ、ええええっ」
希は自分が空を飛んでいることに驚き、周りを見回し、自分が乗っている物が何かに気づいて、また驚いた。
「こ、これ……竜!?」
「うん、エンシェントドラゴンだよ。大丈夫、落ちそうに思えるけど、ドラゴンの背中は重力が働いてるので、簡単には落ちないよ」
「す、凄い速度だよ。アミラ凄いね……怖くないの?」
「うん、もし、落ちても俺なら無傷だから怖くないよ」
エンシエンドラゴンは、出会うことも都市伝説と言われる希少種だ。配下に従えていると分かれば、カインラッド中が大騒ぎになるだろう。だから、エンシェントドラゴンの背中に人を乗せたのも希が初めてだった。
「でも、教会の時はあんなに怖がってたじゃない? どうして今は怖くないの?」
「俺にとっては現実味のある建造物の方が怖いよ」
「ふうん、そうなんだ! で、これからどこに行くの!?」
希は状況が飲み込めれば、そんなに驚かなかった。まあ、カインラッドを良く知ったプレイヤーより希のような初心者の方がゲームの世界ということで納得できるのだろう。
「うん! 祝福の地へ行こうよ!! 絶対、驚くよ!!」
俺だって行ったことはない。オープニングで見た場所はほとんど行ったが、祝福の地は結婚後のイベントだったから、今日まで行く事ができなかったのだ。
――――――――
希が戻って来ましたね。
祝福の地はどんなところなのでしょうね。
今日も遅くなりすみません。応援よろしくお願いします!! ね^_^
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