第4話 本当に結婚式するの!?
「お許しが出たよ!!」
また救援要請が来たので、何かと思って行けば、満面の笑みを浮かべた希がいた。
「えっ、何の……お許し!?」
分かっていないわけではない。いや、正確には無理だろうと思っていた。流石にVRMMOでの結婚を伝えれば、ふたりは反対すると思っていたのだ。
「何言ってるの。結婚よ!! 結婚!!」
希の口からそのニ文字が、しかも俺に対して出るとは思わなかった。夢なら覚めないでくれ……。
ただ、本当にこれでいいのだろうか?
「ほら、ほら!! アミラも結婚したいんでしょ。さあ、結婚式場まで行くよ」
希は本気だ。男の俺の方が足が引けてしまっていた。
「ちょ、ちょっと待って。誰に、何て説明したの?」
だいたいのことはゼミで聞いたが、それ以降何の話をしていたのか、俺は知らない。
「リアルの友達二人にだよ。ひとりは幼馴染だよ。もうひとりは高校の時、あるきっかけで仲良くなったんだよ」
やはり、幼馴染と親友か。結果的に俺の想像通りだったことになる。
「本当に、本当にちゃんと話したの?」
「うん、ふたりに話したら、いいんじゃないの、と言われたんだよ」
満面の笑みで笑う希。俺はその話の内容を知っている。彼らはオフラインゲームの結婚イベントのことを言ってるのであって、決してカインラッドのことを言ってるわけではない。
それでも、良いのか……。
俺は笑顔の希をじっと見た。春の微風が希の髪を揺らす。美しい太陽に白い肌、その姿は絵画のように絵になる。この娘を独り占めしたい!! この娘となら、後日罵られようとも結婚したい!!!
「許しが出たのなら、行こうか」
俺は希から視線を外して、先に歩いた。手が握られる。あっ、冷たい……。希の手はリアルではそうなのかは分からないが驚くほど冷たかった。
結婚式が行われる教会は、三十階にあり、エレベーターで上がることになる。このエレベーターは魔法で作動しているらしいが……。
「あれ、これ触れても動かないよ???」
俺はレベル制限を解除した。エレベーターを起動させるためにはそれなりのレベルが必要だ。
「希にはまだ無理だよ」
そう言って、希の手の上に自分の手を添える。そして、魔力を注ぎ込んだ。俺はメインはファイターだが、魔法使いをサブ職業で使っている。この世界では勇者と言うらしいが、まあ所詮はゲームの世界のことだ。
「うわっ、凄い、凄いよ!!」
希は魔法使いだから、魔力の波動を感じるのだろう。どんどんと吸い込ませていく。まあ、俺の規格外の魔力なら、このエレベーターを起動することくらい造作もない。
そして、機械的なリーンと言う音がしてエレベーターが開いた。
「凄いねえ……、それがアミラの力なんだ」
「まあ、その一部だけどね」
俺は希がエレベーターに乗り込むのを待って、その後に乗り込んだ。
「あれ? 何もついてないよ」
「うん、ここはこうするんだよ」
俺が最上階へ、と言うと扉が閉まって、エレベーターは上に上がっていく。
「なに、それ、……凄いね」
「希も近いうちに使えるようになるよ」
振り返って俺はじっと見る希にそう言った。それにしても、ここまで来てなんだが、俺は本当にいいのだろうか、といまだ自問自答していた。
陰キャの俺と明らかに陽キャの彼らとでは勝負にならない。しかも、俺の正体も明らかにしないで、希と結婚していいものだろうか。
「ゲームの世界にしては、ここ凄いリアルだね。ねえ、幼馴染なんか、ドラ○エのイベントを持ち出したのよ」
和人のことか。俺はその姿を思い出して、胸に痛みを感じた。悩むことか!? そうだ、これは単なるゲームのイベントだ。別に悩むことなんてないじゃないか。
「ねえ、アミラもドラ○エ5やったことある?」
「ああ、あるよ」
「じゃあ、どっち選んだ!!!」
上目遣いで俺に近づいた。てか、近いって!!
「えと、お姫様……」
「だと思ったよ」
「なぜ!?」
「だって、アミラってお姫様好きそうだしさ」
ふふ、と笑う姿が本当にお姫様ぽくて、確かにそうだな、と思った。いや、お姫様好きではなく、天使様が好きなんだよな。希は本当に地上に舞い降りた天使のように限りなく美しい。
そう言っているうちにエレベーターは音もせずに開いた。
「うわっ!! 綺麗だね!!」
「こ、怖くないか?」
「大丈夫だよ!!」
全面ガラス張りの教会。は、初めて来たけど、こ、怖いよ、ここ。
ドラゴンに乗っても怖くなんてない俺だが、ガラス張りと言う現実っぽさが怖さを掻き立てた。
「走り回っちゃダメだよ」
「あっ、そ、そうか」
ゲーム内と言っても教会なのだ。厳かな雰囲気が漂っている。希は舌を出して頭を下げた。
どこにいたのだろうか。目の前に神父が立っていた。
「ご結婚されますか?」
リアルなら、結婚式と言えば披露宴がつきものだが、ここはゲームの世界だ。披露宴をしてもいいし、しなくてもいい。
「はい、今から出来ますか?」
「大丈夫ですよ!!」
「やった!!」
隣で踊り出しそうな希を
「参列者様はいらっしゃいますか?」
フレンドならいくらでもいるが、新郎がたくさん連れていたら、新婦側も同じ数がいるだろう。それに、あのふたりには絶対見せたくはなかった。
「いえ、いません」
希はガラスの壁をじっと覗き込んでいた。無理もない。ここからなら遠く離れたロンド王国まで見渡すことができる。北にはドラゴンの巣のある山や南には神の住まうと言われている大陸なども、ここからなら見られるだろう。
「ねえ、アルスはここから見える全ての場所に行ったの?」
「ああ、そうだよ」
ロンド王国では、囚われの姫を助け、ドラゴンの巣ではドラゴンを倒し仲間に従えた、神々の住まう大陸では数千のプレイヤーが一丸になっても勝てない神を数人のプレイヤーと共に倒した。
規格外と呼ばれて喜んだのも過去の話だ。今やそんなプレイも飽き飽きしていたところだ。
結婚か。もちろんゲーム内での結婚ではあるが、希と一緒になれれば、何か楽しいことが始まるような気がした。
「それでは、始めましょう。まずは誓いのキスを!!」
「へっ……!?」
「えっ!?」
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