第3話 ドラ○エ!?

「結婚……式???」


 言葉と共に首を傾げる希。か、かわいい。お、お持ち帰りしたい。俺は抱きしめたくなるのを我慢して、首を慌てて左右に振り、煩悩を吹き払った。


「希はこう言ったゲームするの初めて?」


「うんっ、初めてだよ」


 なら、知らなくてもおかしくない。MMO RPGには、ゲーム内で好きになった同志が結婚するイベントがある。あくまでゲーム内での結婚だが、場合によっては本当の恋に発展してリアルでも結婚することもあるのだが……。


「プレイヤー同士がカインラッドの世界で結婚することができるんだよ」


「けっ、結婚!?」


「とは言ってもゲーム内での話だけどね。要するにゲーム内のイベントだよ」


「そ、そうなんだ。ちょっとびっくりしたよ」


 俺は、その後、リアルで結婚することもあると言う話にはあえて触れなかった。これはお互いの気持ち次第だからな。


「ねえ……」


「うん? なんだ」


「結婚したら何かいいことあるのかな!?」


 結婚イベントを選択した二人にしか得られないダンジョンやイベントが数多く用意されているのが、このカインラッドの特徴だ。俺も当初は結婚を夢見なかったわけではない。だが、レベル80になった今は完全に諦めていた。


「そうだね。未知のダンジョンに入れたり、結婚後にしか起こらないイベントとかあるらしいね」


「そうなんだ……でも、結……婚なんだよね……」


 希は真剣な顔をした。確かにそうだ。俺と希は出会って間がない。とても、結婚してくれ、なんて頼める間柄ではない。


「まあまあ、こんなイベント無くったって、カインラッドの世界はとても楽しいさ」


 嘘だ。俺はレベル上限まで達していて、正直アイテム探ししかやることがなくなっていた。そのアイテム探しだって、結婚後のダンジョンには入れないのだ。今は初心者プレイヤーの育成のため、こうして教えるしかやる事が無くなっていた。


「本当にいいの!? アミラには色々お世話になってるしさ。そうだ!! 一度、わたし、聞いてみるよ!!」


 誰に、と聞こうかと思ったが、それは無粋な話だ。二人の男の顔が浮かんできて俺は激しく首を左右に振って吹き払った。


「さっきから、どうしたの!?」


「いや、なんでもない」


「変なアミラ」


 そう言って、希は笑った。その笑顔がとても美しくて、このまま時間が止まったらいいのに、とさえ思ってしまった。


 その後も希の特訓が続いた。とは言っても魔法の使えない希は完全に応援要員でしかなかったが……。ただ、えいえい、おうおう、がんばれ、と言ってくれるだけども、俺は嬉しかった。


「よし、レベルちょうど10だね」


「ありがとう。本当に助かったよ」


「また、いつでも救援してよ」


「アミラ、本当にありがとう、そろそろ時間がヤバいから落ちるね」


「うん、またね」


「うんっ!!」


 そう言って希はカインラッドの世界からリアルの世界へと戻って行った。


「結婚か……」


 カインラッドの世界だけの事だとしても、希と結婚したい、と強く思う。ただ、あの二人がオッケーするとはとても思えなかった。





――――――――





「ねえ……」


「希、どうした?」


「わたし、結婚していいかな?」


「はっ、はあああああっ!?」


 ゼミの授業前、隣に座る希は和人と唯と楽しそうに話していたが、突然そんなことを言い出した。


 そりゃ、はああぁ!?に違いない。


「おっ、お前……相手は誰なんだ。俺か、いや……唯……お前な……」


「痛い、痛いって、僕も初耳だってば!!」


 そうか、この二人は恋人じゃないんだ。もし、恋人だったら、この反応はない。友達以上恋人未満の関係。なんとなく、そんな関係じゃないかと感じた。それはそうと希、その言い方じゃまずいよ。上手くいくものも行かない。いや、正確に言うと上手くいく選択肢なんて、この二人にはないかもしれない。


「じゃあ、誰だよ!!」


 特に和人の方が唯よりも距離が近く感じた。唯は第三者的な視点で二人を見ている。ただ、和人も唯も希が大好きなんだ。この二人の焦った表情を見て気がついてしまった。


 希はこの二人の想いに気がついて……ないんだろうな。


「誰と言うか、二人の知らない人……かな?」


「はあああっ、お前、俺たち以外にまだ友達いねえだろ!!」


 確かにまだ、新学期を迎えたばかりだ。ゼミで挨拶をした程度の関係で、俺も友達なんてできてはいない。ただ、希が俺と違うのはこの二人がいなければ男限定でいくらでも友達ができたってことだな。


「いないよ、だから、そう、これはゲームでの話なんだよ」


 上手く言ったでしょう、って顔をしている。確かにこの切り返しはうまい!! 二人がはあああっ、と大きくため息をついた。


 あれ? もしかして、二人は希がカインラッドをやってるのを知らないのか?


「そう言えば、僕もありましたね。ドラ○エでしたかね。幼馴染を選ぶか、お姫様を選ぶかで悩みましたよ」


「それ、お前、ドラ○エ5の話だよな。俺は悩まなかったけどな」


 腕を組んでえへんとでも言いそうなしたり顔をした。


「へえ、そんなに幼馴染が良かったですか?」


「ば、馬鹿言うなよ!!!」


 予想通り、和人は希の幼馴染らしかった。なら、目の前に本当に好きな幼馴染がいるのに、照れないわけがない。分かっているのに唯は、和人に悪そうな顔をして人差し指をチッチッチッと振る。


「では、お姫様を選んだのですね」


 この声に和人は希をチラッと見て顔を真っ赤にした。


「そんなの幼馴染に決まってるだろ!」


「希、和人は幼馴染・・・を選んだみたいだよ?」


 その言葉に希は顔を明るくした。


「ふうん、そうなんだ。じゃあさ! わたしもゲームで結婚してもいいんだね!!」


 この言葉に唯はドンマイと和人の肩に手を載せ、和人はうるせえよ、と顔を赤らめた。


 それにしても、ここまで分かりやすい反応を希はなぜ気がついていないのか。それともよっぽどの悪女なのか。


 どちらにせよ、これで二人からお許しが貰えたと思っていい………………………………………… わけがない!!!!


 二人はドラ○エのようなオフラインゲームを言ってるだけで、カインラッドのようなVRMMOの結婚の話はしていない。


 これは希に言うべきなのか、それとも言わない方がいいのか。


 いや、流石の希も二人にオッケーをもらえた、と思うわけがない。二人からも俺のいないところでたしなめられるだろう。


 ぬか喜びで良心の呵責かしゃくを感じるだけ時間の無駄だよ。そう思うと、俺はノートを取り出し、授業の準備を進めた。


 リアルで希のことを気にするくらい女々しいことはない。どうせ、希も最後には、二人のどちらかを選ぶんだからな。





――――――――――




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