第2話 結婚式!?
「また、会えたね!!」
見渡す限り広がる草原にニッコリと笑う薄幸の美少女。絵になるなあ。やはり、希は天使だ。それにしても……。
「いや、呼び出したの希だよね」
俺はドキドキしながら、あえて名前で呼んでみた。もちろん、希の友人達への嫉妬だ。
「そんな細かいこと気にしてると、禿げるよ」
希は俺が名前呼びしてるのを気にすることもなく、ニッコリと笑った。なんなんだ、この状況は……。帰宅してカインラッドに接続したら、希からの救援メッセージがあった。
「禿げそうだよ」
「あはははは……まあ、その時はもらってあげるからね」
「えっ!?」
思わずその言葉の先が気になってしまう。もらうと言うのは……、道具やアイテムを受け取るのとは違うよな。冗談と分かっていても、俺はその言葉にドキドキしてしまった。そんなことより聞きたいことが山のようにある。その中でも一番聞きたいことは……。
大学で仲良く話していた男たちは希の彼氏なのか?
馬鹿か、俺は!! 聞けるわけないだろ!!
希は俺が同じゼミ生であることを知らない。遠くにいると思っているから、こんなに気さくに話してくれるのだ。もしゼミ生だと知られれば俺にストーカーされると怖がり、二度と会ってはくれないだろう。ゲームだって辞めてしまうかもしれない。
「冗談、冗談!!」
希は口に手をやりクスクスと笑った。本当に可愛い。ネットとリアルは別物だ。俺はこの世界の希を独り占めしたい。
「なあ、このゲームで……その……友達とかいないの?」
希は俺の言葉にキョトンとして、数秒後。
「……いるよ!!」
確かにそうだよな。あの二人がカインラッドに来ていないわけがない。やはり、この世界でも希は彼らと一緒に冒険するに違いない。少しがっかりしていると、希は俺を指差した。
「アミラ! わたしと友達だよね」
そう言って、上目遣いに俺を見る。昨日初めて会ったばかりなのに、この気さくさ。きっとゲームだからだろう。リアルなら、まず話しかけられること自体難しい。
「そ、そうだけど、他に友達はいないの?」
「うーん、リアルならいるけれども……」
人差し指を唇に当てて、うーんと考えてるようだった。まあ、昨日が初プレイなのだから、あの二人もまだ、カインラッドをプレイしていないのだろう。それならばいい。
リアルはリアル。仮想世界は仮想世界だ。そこを混同してしまうととんでもないストーカーになりかねない。俺は少しの間かもしれないけど、希を独り占めできればそれでいい。
俺はその日、希のレベル上げに付き合った。
「えい!! えい!!」
なんか不思議の国のアリスがピコハンマーを持って戦う姿に似ている。希は大きく杖を振りかぶってゆっくりと振り下ろす。へっぽこぶりがとっても可愛いが、これではとても当たらない。
「あーあ、なぜ魔法使いを選んだのに、こんなことしてるんだろう。アミラぁ、どう思う!?」
「まだ、レベルが低いから、仕方ないよ」
「ゔぅぅぅん」
このままでは一体倒す前に日が暮れそうだ。仕方がないので、俺はサポートモードを起動した。
「何してるの?」
「レベルは1になるけど、これで希のサポートができるよ」
DMは低レベルプレイヤーをサポートをするため、任意にレベルを下げることができる。要するに新規プレイヤーの離脱対策だ。
「じゃあ、パーティを組むよ」
本来の俺はレベル80だから、パーティを組んでもレベルキャップが働き、希が得られる経験値はない。だが、俺がレベルを下げることで希に経験値が入るようになる。
レベルに応じて得られる経験値の割合が異なるため、上下10までならパーティを組んでも経験値は入るが、上位プレイヤーと組めば組むほど獲得経験値が減るため、やるなら同じレベルの方がいい。
「どうやるの?」
俺は希の手を取って、ステータスバーからパーティを組むを選択した。
「目の前に何か出てきてない?」
「本当だよ!! パーティを組みますか? って出てるよ。これ、オッケーすればいいんだね」
そう言うと希は手を伸ばした。カインラッドはVR世界のため、ボタンやキーボードなどが無い代わりに、手で触れることによって、選択を行う。このゲームがMMO RPGタイプでありながら、ここまで有名になったのはVR世界を旅するゲームだからだ。
時間を忘れてプレイしないよう視界の右下にカインラッドの時間の下に現実の時間もずっと表示されている。
俺が剣を構えて、目の前のスライムに素早く剣を振った。スライムは一撃で霧散していき、経験値が表示される。
「うわっ、わたしと全く違うよ。凄いね」
それはそうだ。レベルこそ1だがスキルを全て持ち越せるため、本来のレベル1とは違う。もっとも殆どの攻撃はAPが足りないため、使用はできないが、ここら辺の
「まあね、それよりさっさと倒してレベル上げるよ」
せっかくカインラッドをプレイしてるんだ。希には楽しんでもらいたい。そして、できればもう少しお近づきになりたい……。
そう思って敵を倒していると希が声をかけてきた。
「ねえ……」
俺は今日のうちにレベル10まで上げようと思っていたが、不意に声をかけられて、振り向いた。
「あれ、何かな? 大聖堂にしても大きいよね?」
「あれは……」
言いながら、俺はドキドキが止まらなかった。
「あれは、結婚式をするところなんだよ!!」
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