ネトゲで出会った天使様は陽キャの姫だった。大学では口も聞いたことがないのに、ネトゲ内で結婚してしまったから、陽キャにバレて大騒ぎに!!

楽園

第1話 出会い

 有馬拓也―俺はVRMMOカインラッドの世界で、最高の美少女と出会った。


「あっ、……天使様だ」


 俺が思わずそう表現する程、目の前の彼女は可愛く、そして現実味がなかった。


「違うよ! わたしの名前、天使様じゃないよノゾミだよ! ちゃんと見てよ!」


 確かに、名前のところにSAWADA―NOZOMIと書かれている。サワダノゾミ? っておい。


 俺がそう突っ込むのも無理はない。俺の名前は有馬拓也だが、カインラッドではAYUKAT―AMIRA、つまりアユカット―アミラにしていた。俺の場合は名前を逆にして読んだだけなのだが、そもそも実名プレイをするプレイヤーなんて今のネットゲームの世界にいるわけがない。


 サワダノゾミもきっと、本名ではなくゲーム名だろう。アバターの顔はデフォルトではリアルと同じ顔になるのだが、簡単に修正が効くため、俺も眼鏡を外し多少見栄えを良くしていた。かと言って、あまりいじると、もし会う約束をしてもリアルで会いにくくなってしまうから、現実で許せるレベルにはしている。


 アバターの作り込みは人によって差があるため、きっとノゾミはリアルで見たら、誰か分からないくらい修正してるに違いない。


 俺はそう思いながら、ノゾミの手を取った。つ、冷たい!! 仮想現実だから、単なる信号プログラムに過ぎないのだが、それにしても冷たかった。彼女は血の巡りが悪いのだろうか。まあ、そんなことはどうでもいい。


 ふわりと風が舞い降りノゾミのフローラルの匂いが鼻腔をくすぐる。


「君、初心者だよね。色々と教えてあげるよ!」


 現実なら、この俺が女性の手を握ることなんて出来るわけがないが、仮想現実では別だ。俺はDM(管理者)の称号を貰うほど、このゲームをやりこんでいた。


 初心者の育成や遭難プレイヤーの救助を主に受けもっている。別にお金がもらえるわけじゃないが、感謝されることでやる気が上がる。今日もノゾミを育成するため、街の販売所でアイテムや武器の買い方や門を守るガードの存在、もちろん攻撃してはいけないこと、そして敵との戦い方などを懇切丁寧に教えてあげた。


「ありがとう。キミ教えるの上手いね」


 ノゾミはそう言ってニッコリと笑った。本当に可愛いな。きっと現実では冷え症の眼鏡をかけた可愛くもないおばさんかも知れないけど、リアルはそれでもいい。そうだ、仮想現実は仮想現実の世界だけで終わっていいんだ。


「初心者を教えるのがDMの仕事だからね」


「それでも、すごい上手いよ。前に呼んだ人は散々だったんだからね」


 ノゾミはきっと、酷いDMに当たってしまったに違いない。お金がもらえるわけではないから、DMによっては低レベルプレイヤーを相手にしない者もいる。名ばかりのDMが増えれば、カインラッドの世界は上級者ばかりになり、やがては終焉を迎えることになるだろう。そんな結末を俺は望んではいない。

 

「そうなんだ。じゃあ、俺が来られて良かったよ」


 俺がそう言うとノゾミは俺をじっと見てニッコリと笑った。


「じゃあね。キミのこと友達登録していいかな?」


 その顔があまりにも眩しくて、俺はそこで立ち尽くすだけだった。




――――――





(これって……夢か!?)


 俺は大学のゼミで隣に座る女の子から目が離せなかった。正確には見ているのは俺だけで彼女は俺のことなんか気づいてもいない。ゼミの教室は高校の音楽教室みたいな階段教室で生徒たちが整然と座っていた。


 何度もチラ見しては、彼女から目を離す。ドキドキしないわけがない。昨日、カインラッドで出会ったノゾミがそこにいた。


 アバターとリアルが全く同じ容姿なんて聞いたことがない。しかも、こんなに可愛い娘がリアルに存在するなんて……。そう思っていると、隣に座る彼女が俺の方を向いた。


 俺は気づかれたか、と内心ドキドキが止まらなく、大きく動揺してしまった。その姿を見て隣に座る彼女は、小さく微笑む。


 えっ、もしかして本当にアミラだと気づいた? 俺は眼鏡をかけると人相が変わるために気づかれることはないと思ってた。どうしよう、勇気を振り絞り俺がアミラだと告白しようか、とドキドキしていると、彼女がたくさんの男に囲まれているのに気づく。


「ねえねえ、この後、俺と飲みに行かない?」


「いやいや、その娘は俺が先に目をつけたんだよ。俺とライン交換しようよ」


「えと……その……」


 これだけ可愛いと男のあしらい方に慣れていると思ったが、たどたどしくて、このままでは押し切られかねない。


「あのさ……」


 勇気を出しては見たが、俺の声は驚くほど小さく誰も気がつかないほどの小声だった。正直びびっている。ネットゲームではヒーローでもリアルだと何もできないダメ人間だ。


「お前らさ! 天使様・・・に何話しかけてんだよ!!」


 その時、後ろから教室中に響くほどの怒声が聞こえた。男たちが振り返るのと同時に俺もその視線を追う。


 そこには絵に描いたようなイケメンがいた。その男はそのまま、彼女の隣に来ると男たちを睨んだ。


「天使様ってなんだよ。確かに天使みたいな顔してるけどよ」


「それよか、彼氏いるのかよ」


「ちぇ、退散、退散……」


 男たちは散り散りに散っていき、自分の席に座っていく。


「だからー、天使って呼ぶの禁止!!」


 そして、なぜか隣に座る彼女は、頬を大きく膨らませて怒っているようだった。それにしても、リアルでも天使様って呼ばれてるんだな。まあ、この容姿なら天使様と呼ばれるよな。


「お前なあ、そんなことより、傍が甘すぎるってよ。俺が来なければどうなっていたか」


 男はやれやれという表情をした。きっと日常的に繰り返されている光景なのだろう。そうか、彼女が男のあしらい方を知らないのは、この男のせいなのだろう。


「そうかなあ???」


 そして、彼女は自分が人一倍可愛いことにさえ気がついてないようだった。


「まあ、俺がいれば大丈夫だからさ」

 

 そう言って、彼女の後ろの席に何も言わずに座ろうとする。


「ちょっと待ってよ!」


「うん? なんだ?」


「そこって、八神和人の席だっけ?」


「おい、澤田希よ。フルネームで呼ぶのはやめなさい」


 恋人同士なのだろうか。確かに二人はお似合いだ。天使のような肩までの金髪に、白すぎるほどの肌、そしてあどけないクリっとした藍色の瞳。きっとハーフなんだろうが、外国人特有のけばさがなく、本当に地上に降りた天使のように純粋無垢なかわいさを兼ね備えている。対して、和人は黒髪の少年だが、なんか中世風でベルバラに出てきそうなイケメンだ。


 どちらにせよ、俺の手が届かないことは確かだ。それにしても……。俺は別のことで驚いていた。


 まさか、澤田希が本名だってええ!!!


 まさかの実名プレイ。初心者にありがちだが、きっとドが付くほどの初心者なんだろう。それにしてもこれだけ可愛いとヤバいぞ。カインラッドの世界でも女性目当てのプレイヤーは多い。実名だとネットの情報から本人を調べるプレイヤーだっているだろう。俺はそう思いながら、後ろの席に座る和人をチラ見した。


 まあ、この様子なら和人もきっとカインラッドをプレイしてるだろうし、俺の心配は杞憂に終わるだろう。そうなるとあのラッキーな出会いも二度と起こり得ないよな、と思わずため息が出た。


「和人、確かにそこは君の席じゃないね」


 うん? いつの間にか希の隣にはもう一人男がいた。こっちは希と同じハーフなのだろうか。茶髪のイケメンで、まさに優男と言う感じか。話し方から、高校の時の知り合いなのだろうか。てことは……。


「芹沢唯くん、おはよ」


「僕もフルネームで呼ぶんだね」


「あはははははっ」


 どっちが希の彼氏なんだろうか?


 まあ、これだけ可愛い希のことだ、どちらもと言う可能性もあり得る。


 まあ、昨日は良い夢を見させてもらったぜ。俺は心の中でそう呟くばかりだった。

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ネトゲで出会った天使様は陽キャの姫だった。大学では口も聞いたことがないのに、ネトゲ内で結婚してしまったから、陽キャにバレて大騒ぎに!! 楽園 @rakuen3

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