第5話 甲状腺機能低下症と関節痛

 以前、甲状腺機能低下症の隠れた症状として関節痛があると述べた。

 肩、手指、膝が症状の出やすい関節だ。


 実は80代の女性患者が関節痛を訴えてオレの外来にやってきた。

 この患者、PMR(リウマチ性多発筋痛症)と糖尿病も併発している。

 それぞれ膠原病専門医、内分泌内科専門医が診ている。

 が、両方とも3ヶ月に1回だ。


 甲状腺機能低下症についてはチラーヂン25μgを毎朝のんでいる。


 PMRについては膠原病内科医は「もうステロイドをとめてもいいんじゃないか」と言っているそうだけど、本人が「完全に止めるのは怖い」ということで、4日毎にプレドニン1mgをのんでいる。


 関節が痛くなったので、PMRの再燃かと思って膠原病内科外来で相談したそうだ。

 しかし、肩の痛みが右側だけなので、これは違うだろう、ということになったらしい。

 実際のところ、CRPや血沈などの炎症反応も悪化していない。


 で、オレが相談された。


 確かに右肩、左手指の痛みが出ている。

 その割には左肩は何ともない。

 見事に何ともない。


 ということはPMR再燃の初期というのでもなさそうだ。


 また、本人はやたらネガティブになり、買い物にも行く気がしないし、料理もできないとのこと。


 とりあえず、痛みをとるためだけの対処療法、トリガーポイント注射を行った。

 右肩を中心に5ヶ所に1%キシロカインを30G針で1mLずつ打つ。

 すると右肩が動くようになり、何度も感謝しながら帰宅した。


 で、その日と次の日は嘘みたいに調子よかった。

 次第に雲行きが怪しくなる。

 注射した翌々日から右肩の痛みと全身倦怠感で地獄だったそうだ。


 この患者の家族に相談されたオレは「ひょっとして甲状腺機能低下症による関節症状ではなかろうか?」と思い、以前に処方されていたチラーヂン12.5μgを足してのむことを提案した。


 本来なら内分泌内科医の判断になるのだろうけど、診察日はずっと先だ。


 で、結果はどうか?


 何らかの効果が出るまで数日くらいかかるのかと思ったら、チラーヂンを増量した翌日には関節痛も全身倦怠感も遥かに改善してしまったのだとか。


 今は機嫌良く過ごしているそうだ。

 やはり甲状腺機能低下症による関節痛だったのか。


 分からんもんですなあ。


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