第46話 馬車でイチャイチャしてただけ
私はレニくんの片方の太ももへまたがると、タンクトップの隙間から胸に手を伸ばし、レニくんのピアスだらけの片耳をかぷりと食んでやりました。
「はぅんっ♡ ちょ、やべぇってミクちゃん♡」
ぴちゃりとわざと音を立てながら耳の穴を舐めとり、息を吹きかけてから囁きます。
「おねえさんと、内緒のお話しましょう。ね?」
「はぃ♡」
よしよし、やっと言うことを聞いてくれましたね。
でも、やる気を失うとすぐに素直な反応を見せちゃいますから、胸への愛撫は指先で円を描くように続けております。
「実は、フィアさんの件なのですが」
「興醒めだよ。他の女の話とか」
一瞬ですんと真面目な顔されてしまいました。
「普通逆じゃないですか!? 私が他の男の話を持ち出すならわかりますけど!?」
「あのさミクちゃん、俺の物語には俺とミクちゃん以外いないの。いらないの。わかる?」
ええええ、私たち魔王討伐の旅の最中で世界平和を目指しているのに、万物に興味がないと仰られるんですか?
「……お裁縫道具を頭に乗せたモブの話なのですが」
「ああ、モブはいるよね。しょうがないか。あ、手を止めないで。もっと足でギュッと挟んで」
「はい、あの、ん、チュッチュ、あのですね」
「んはぁ♡ 首筋へのキスたまんねぇ♡ ね、ミクちゃんにもしてあげるから、こっち来て」
「ダメですよ、私はレニくんにされたら脳みそ蕩けて何も考えられなくなります」
「俺の彼女可愛すぎる!!」
むぎゅっと抱きしめられて、レニくんは大満足のようですし、後ろから見てもバカップル確定でしょう。
「あれって私たちは気付けなかったのですが、どうやらフィ、いえ、モブの
ピタリとレニくんの動きは止まり、私を片腕で抱え込むとそっと後ろを覗き見しております。
「いるんだよな、嘘つきですぐ裏切る奴」
「大丈夫ですよ、事前に私たちは協力者のおかげで看破できていますから、ここからは裏切られることはありません。レニくんは傷付かないでいいんですよ」
ぐりぐりとレニくんの顔をおでこに押し付けられて、可愛らしいなでなでを堪能しました。
「とにかく、警戒はしておきましょう。特に子供たちには近づけさせないようにしたいですね」
「わかった。ミクちゃん連れて俺はバギアのところに急ぐ。するとあのモブはついてくる」
「なぜですか?」
「あのモブ、昨日だっけな? アクセルの奴に盛大にフラれたらしくって。ぷぷ、ウケる。んで、また俺にすり寄ってきて、勇者様の伝説の聖剣見せてくださぃ~わたしを慰めてくださぃ~、わたしかわいそうなんですぅ~って言ってきたから、ターゲットを俺に戻したんだろ」
あら、アクセル様はダメでしたか。まぁ裏切る可能性のある方に大事なうちの騎士様は差し上げられませんので、致し方ないですね。
「シスター様、仲のよろしいところ申し訳ないのですが」
「ひゃあぅっ!!」
気付けばアクセル様が荷台から顔を出しておられました。
「驚かせて申し訳ない。だが気付いていないようだったので、その、言いにくいのだが、森はもう抜けてしまっていてな。そろそろ、徒歩で向かいたいので馬車を止めてもらえるか」
「あ、やべ! もう根城の目の前じゃねぇか!」
うっかりしておりました。そういえば、うちのお馬さんたち妙に足が速いのですよね。
なにか勇者様の補正能力の恩恵でも受けていらっしゃるのでしょうか。
というわけで、私たちは馬車を降りて、既に徒歩で行軍してこられていた里の方々と合流すると、石造りの古城を見上げました。
見張りは特にいないようですね。入りたければお好きにどうぞ、という感じです。
鉄城門も開きっぱなしです。まぁ勝手に棲みついているんですから、城の整備もしていませんし、壁に生い茂る蔦もそのままですし、苔や土で半分自然と同化しておりまして、状況としては野生のクマが廃墟に棲みついているものと変わりません。
とはいえ、移動の際に使った魔法から考えても、空間や次元を切り取ったり繋げたりする魔法を使う方なのでしょう。
城の中は別次元と考えた方がいいでしょう。
「う~ん、外からじゃ、俺の鼻は何も反応しない」
「中に入ってみるしかないですね。いきなりの罠に備えて私は結界魔法を唱えておきます」
「では皆さん、一斉に入りましょう」
「「「おおお~!!」」」
頼もしい里の皆様と一緒に開け放たれた城の中へと足を踏み入れました。
直後に視界が切り替わります。どう考えても外観は城でしたが、中に入ると大きな塔の中でございました。
中央のらせん階段が天まで続くのかと思うほど上へ伸びております。
らせん階段の周りは円を描いた廊下と各階七つほど部屋がございます。
「なんだ、あいつバカじゃなかったのか」
「え?」
「ほら、よく言うじゃん。バカとなんたらは高いところが好きって。このぐるぐる階段から上の部屋は全部トラップ。ガキどもとバギアは地下にいる」
語彙力の無さが逆に可愛い。ぐるぐる階段♡ 久しぶりにばぶみ萌え頂きました。
「しかし、地下の入り口が見当たらないが」
「んなもん、作りゃいいだろ」
ドゴンッ!! 久しぶりに響きました物理的破壊音。床が爆破粉砕されまして、あえなく全員落ちた床と一緒に地下一階へと落とされていくのですが、それよりも早くレニくんが瓦礫を足場に跳躍しまして、さらに地下一階の床を爆破粉砕。
地下一階には魔獣と魔族が待ち構えていたのですが、地下二階へと落下の最中にレニくんの足場に使われながらボッコボコの滅多打ちで絶命していきまして、さらに地下三階の床も爆破粉砕されました。
そろそろ私も止まらない落下の恐怖で走馬灯が逆再生されていく勢いです。
「ねぇ、ミクちゃん。俺はミクちゃん抱えながら着地とか余裕なんだけど、モブたちは着地できんのかな?」
「出来ませんよ!! 床を落とした責任取って全員キャッチしてください!!」
「ええ? マジモブとかいらねぇし」
「勇者、オレが三人は受け止める。残りは頼んだ」
「んだよ、結局使えんのアクセルだけじゃねぇか」
しょうがないじゃないですか! 私たちは一般人ですよ! 剣聖と勇者様と一緒にしないでください!
ともかく、魔族を一方的に蹂躙しながらの落下は地下五階でようやく着地となり、ひとまずの終わりとなりました。
まぁ、皆さまを無事に床へ降ろした後はアクセル様の見事な剣さばきと、レニくんの物理攻撃で地下五階にいた魔獣や魔族もすぐに絶命いたしましたけど。
「ここでアクセルたちとは一旦お別れだな。廊下を真っ直ぐ進め。きっと牢屋だ。ガキどもはそこにいる」
「勇者よ、よくやってくれた。オレは必ず無事に子供たちをランセプオールの街まで届けよう。シスター様、あなた様と勇者とは必ずランセプオールで再会できると信じております」
「微力ながら勇者様のお役に立てるよう、私も頑張ります。子供たちのこと、よろしくお願いします」
力強く頷くアクセル様と大きく手を振る若干お疲れ気味の里の皆様をお見送りすると、広間に残されたのは私とレニくんと、やはりフィアさんでした。
「フィアは行かなくていいのか?」
「わたしも勇者様のお役に立ちたいですから~」
「あっそう。んじゃこっち。もう一度、落ちるけど、俺は助けないから」
「え?」
ドゴンッ!! フィアさんの引きつった疑問の声を無視してレニくんは床を落としました。
見えてきたのは地下六階の闘技場のような場所と、その中央に立つバギアの姿。
バギアは不敵な笑みを浮かべてこちらを見上げながら仁王立ちです。
一方、レニくんはバギアから少し離れた場所へ宣言通り、私だけ抱えて着地しました。
フィアさんは、
「おいフィア! 聖剣はどうした?」
ああ、なるほど、フィアさんの目的はレニくんのお体ではなく、聖剣狙いでしたか。
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