第45話 フィアの隠し事
「ええ! 里の皆さんもお手伝いしてくださるんですか!?」
「ああ。シスター様がご療養中に考えたんだが、五か所の村からも子供たちを攫ったとなれば相当数の子供たちが捕まっていることになる。いくらなんでもその数を守りながら戦うのは不利だ」
アクセル様のお話は御尤もですね。まずは子供たちの安全を確保しませんと、戦いどころではありませんよ。
「そこで考えたのがこの隠れ里を中継地点に使わせてもらう案だ。バギアの根城に忍び込んだら、鼻の利く勇者の力で子供たちの居場所を探し当てる。見つけたら、里から応援に来てくださっている方々とオレがこの隠れ里まで一気に逃げ切って子供たちを一度隠す」
地図で見ればバギアの根城とこの隠れ里はそこまで離れておりません。
何台か馬車を森の出口に隠しておき、子供たちを乗せれば十分逃げ切れるように思えます。
「追手が来ないことを確かめてから、もう一度、里の方々に協力してもらいながら子供たちを全員ランセプオールの街まで送り届ける。だから、戦闘は勇者とシスター様に任せっぱなしになってしまうが、これがオレの出来る最善の役割だと信じている」
私もレニくんも力強く頷きました。
「もちろんです。道中に魔獣や魔族の追手が来ないとも限りません。私では子供たちの引率は務まらない。アクセル様に託します」
「根城に残る雑魚どもは任せておけよ。全部蹴散らしてやるぜ」
私たちは頷き合い、役割が決まると、今回ご協力してくださる里の皆様にお礼を伝えて、よろしくお願いしますと頭を下げて回りました。
おじさまたちはとても快活でこの里では恩には恩を百倍返しが基本だからと、太っ腹な精神を教えてくださいました。
「なんつってかっこいいこと言ってもなぁ、実際のところ、おっちゃんたちもランセプオールに恩を売っておきたい事情があんだっぺなぁ」
「お困りごとでしょうか?」
なにかお力になれるのでしたらアルフレッド様に、それとなく伝えてみようと思い、おじさまたちから事情を聞かせていただきました。
「お嬢ちゃんの祈りのおかげで里も森もすっかり元通りだっぺ。そりゃうんと感謝してるっぺよ。うんだけども、森はもう寿命だっぺな。そりゃ随分と前からのことなんよ。湧き水が枯渇しているっぺ。今じゃ川も流れちょらん。水が無くなれば里も維持できなくなるべなぁ」
なるほど、それは超自然的な問題ですね。あるいは間接的魔族が暴れたせいでどこかで水源となる水流と断絶されてしまった可能性もありますが、今は原因よりも対策でしょう。
「ランセプオールには十分な人員と技術者の方が揃っていると思います。幸い、近隣には河川も多く、水源を引っ張って来る工事くらいでしたら、頼めば引き受けてくれると思いますので、私の方から領主様の代行者の方にお願いしてみます」
すると、おじさまたちから熱い抱擁と握手を頂いてしまいました。
「あんた本当に救いの聖女様だっぺよ!!」
「おらたちの里でいつまでも語り継ぐべな!!」
「子供たちのことは任せてくれっぺよ!! 必ず無事に送り届けてやるべよ!!」
「はい! 皆様のお力に救われているのは私も同じです! どうかよろしくお願いします!」
こうして、おじさまたちとはお水の件をお引き受けすることをお約束して、私はレニくんのところへ向かいました。
お兄さんたちを送り出すおばさまたちは目をハートにしてレニくんに群がっております。
次々に若いお嬢さんたちを嫁にどうかとおすすめされているのですか、非常に素直で口に戸を立てるつもりがないレニくんは魔王を退治したら、白い教会に招待するよ、と逆に私が新婦として紹介されております。
そこかしこから毒を盛っておけばよかっただの、助けて損しただの、散々な悪口が飛んできます。
ですが、唯一、私を看病してくれたお団子頭のお嬢さんだけは笑顔でお見送りに来てくださったのです。
「良かったべよ。べっぴん彼氏と仲直り出来たべな。ほれこれ、今度、喧嘩したらグイッといっとくべよ」
そういって、おそらく薬湯の入った小瓶を渡されました。
「こちらはなんのお薬ですか?」
「やんだぁ、媚薬に決まってるべよ!」
「ううう受け取れません!!」
「いいから持ってけ! こういうときは勢いだべ!」
ずぼっとポケットに突っ込まれてしまい、勢いよく押し付けられました。
まぁいいです。レニくんに見つかる前に後でこっそり捨てておきましょう。
「そういやぁよぉ、彼女さんたちの事情はあのアクセルっちゅー童話の中の騎士様から聞いたんだっべがなぁ、おら、気を付けた方がいいと思って忠告しに来たっべ」
童話の中の騎士様とは確かにアクセル様にピッタリですね。忠告とはなんでしょう。
「おめたちの仲間に鉄の村の女がいたっべな? あれの頭に乗っかる裁縫道具は
フィアさんが最初から
レニくんの場合、素直ですから、
「失礼ですが、どのような方法でフィアさんの
すると、お団子頭の少女は耳飾りかと思った細長い鎖を手繰り寄せて目元に当てて見せてくれたのはルーペの
「彼女さんの
「お見事です。となると、そちらのルーペは鑑定能力でしょうか?」
「んだっぺ。心眼という能力付きだべな、どんなに幻覚能力や隠ぺい魔法でそいつの本質を隠そうが、おらのルーペは真実の姿を見抜くべよ。あ、でも万能ではないじゃけん。なんの魔法や能力で隠しているのかまでは、おらにはわからないだべな」
それはそうですよね。私のロザリオの能力はロザリオの本質ですから心眼の能力で見抜けますが、フィアさんの
「貴重なご意見と御忠告をありがとうございます。早速、勇者様にもご相談したいと思います」
「その方が良いべな。赤ちゃんこさえたら見せに来るべよ!」
「気が早いです!」
こういう田舎の方の方が性教育って進んでいらっしゃるんですよね……。
やがて、数日お姿をお見掛けしなかったフィアさんも荷台にアクセル様と一緒に乗り込み、私とレニくんは御者台に乗って馬車を走らせました。
予め、里の方とアクセル様が馬車の通る道を確保してくれたらしく、馬車は一列に、後方からも里の方々が子供たち救出のために同行してくださっています。
そして、私は早速、先ほどの御忠告をレニくんにこっそりと伝えるため、すすすと体を横滑りさせましてレニくんの隣に密着しますと、いかにも恋人たちが場をわきまえずにイチャイチャしています、みたいな空気間を装い、頭はレニくんの腕にこてんと押し付け、手はレニくんの引き締まった太ももをさすりながら、上目遣いに囁きます。
「ねぇ、レニくん」
「今する? 全然おっけ! あいつら置いて来るから待ってて!」
「ちちち違います! 早まらないでください!」
「見られながらしたいの? そういう子も可愛いと思うよ」
「絶対違うと言い切れます。いいからレニくん、私の甘い恋人同士の他人を寄せ付けない空気感に付き合ってください。内緒話があるんです」
え~、と見るからに期待外れといった表情で肩も下がって落ち込んでますし、本当に素直過ぎます。
これでは後ろに乗っているフィアさんに見られたら不審に思われてしまいます。
致し方ありません。嫌々でもその気にさせてあげましょう。
忘れていましたよ。このヤンキー坊やは甘い恋人より悪女がお好みでしたね。
太ももへのソフトタッチなどキャラメルの如き甘すぎたのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます